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「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」”Der Staat gegen Fritz Bauer” aka “The People vs Fritz Bauer”(2015)

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映画レビュー
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「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」(2015)

  • 監督:ラース・クラウメ
  • 脚本:ラース・クラウメ、オリビエ・グエズ
  • 製作:トマス・クフス
  • 音楽:ユリアン・マース、クルストフ・M・カイザー
  • 撮影:イェンス・ハランスト
  • 編集:バーバラ・ギス
  • 衣装:エスター・バルツ
  • 美術:コーラ・プラッツ
  • 出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、セバスチャン・ブロムベルグ、リリト・シュタンケンベルグ 他

ドイツ人監督ラース・クラウメによる、ナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンを追った検事長フリッツ・バウアーの伝記映画。

アイヒマンといえば、ちょうど2015年が戦後70年というのもあってか、多くの関連映画があった気がします。

ポール・アンドリュー・ウイリアムズ監督「アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち」もありましたね。まあナチスドイツというものに今一度対面する時期だったのでしょう。

今作はドイツの映画祭にて多くの賞を獲得したようです。主演としてフリッツ・バウアーを演じるのは、「ブリッジ・オブ・スパイ」(2016)にも出ていたブルクハルト・クラウスナー。

題材もあってか年齢層的にはかなり高く、同世代は見かけませんでした。それでも公開初日、ほぼ満員の中観てまいりました。

第二次世界大戦終了後十数年。いまだナチスの残党は身を潜め、国外に逃亡したものも多くいた。

ドイツ検事局のフリッツ・バウアーは、彼の生をナチス戦犯を捕まえ正義を下すことに捧げていた。しかしドイツの政府や調査機関ですら、いまだにナチスの息のかかった者が多く、彼の捜査は難航している。

そんな時、アルゼンチンのブエノスアイレスから一通の手紙が届く。

ナチスの親衛隊中佐として、数百万のユダヤ人の強制収容施設移送を中核的に指揮した男、アドルフ・アイヒマンがそこに潜伏しているというのだった。

アイヒマンを追うわけではありますけども、今作でクラウメ監督が主題として描いているのは、ナチスの残酷さやアイヒマンという人物ではないですね。

フリッツ・バウアー氏、そしてそこから通してみる戦後処理や国の次のステップを描いていると感じました。

バウアー氏自身に葛藤や何か成長は用意されていませんね。終始プロフェッショナル。中盤のTVでの演説が彼の中核として刻み込まれ、後半はそこからいかにその信念が当時多くの障壁によって揺るがされるか、そしてその信念が何を動かすのかが描かれていますね。

ブルクハルト・クラウスナーの演技もしっかりとリードしてくれますので、比較的というかほぼアクションや画面の色彩変化とかがないのですが、十分引っ張って見せてくれていると思います。

バウアー氏と共に、敵に囲まれると知りつつ立ち上がるのが、ロナルト・ツェアフェルト演じるアンガーマン。この2人の掛け合いはそのまま1つの国における2つの世代を表現していますね。

バウアー氏が感じている戦時の出来事に対する責任のような念。多くの敗戦国、というより戦争に参加した国ならどこでもと言っていいですが、なぜ戦争をしたのか、なぜ残虐な行為を止められなかったのかという事に悩んでいます。

戦後の処理に関してはドイツは徹底ぶりが良く話題になりますね。ただし、時の流れというものは人を出来事から切り離してしまうものです。

今更という言葉。それによって多くが片づけられることもあります。

アンガーマンは戦時中に生まれてはいるものの、やはり戦争からは切り離されているような、新しいドイツ世代なのでしょう。彼はアイヒマンを追うことそれ自体にそこまで情熱を燃やしてはいません。

ただ、彼自身の世代、その時その年齢にいるドイツ国民として、何をすべきなのかをバウアー氏から学びます。

だからこそ、一度くじけそうになったときバウアー氏を励ます。友でいようとする。あのシーンでフリッツと呼び、それに応えるようにバウアー氏もカールと呼ぶ。バウアー氏も靴下のように、若き世代から学ぶび触発されていきますね。この辺りは巧いところ。

実際のプロットとしてはすこしサブが多かったようにも思えます。ナチスの息のかかった人物たちが意外としっかり出てきてしまうので、敵が誰なのかははっきりしていますね。

なので、霧の中奮闘するような感覚は薄れます。であるなら冒頭や途中の脅迫は無くても良く思えました。

アンガーマンの動機に必要な同性愛の描写に関しても、もうすこしシーンを減らしてもいいかも?何か彼が2度もバウアー氏に触発されているような感覚がぬぐえず、不必要な繰り返しに見えてしまいました。

あそこは単純にバウアー氏が闘い続けるための動機として作用するのは分かるんですがね。

アイヒマンやらナチスに関してもはや全世界の一般常識ですので、それを説教臭く教えて批判するようなことはしません。それよりもいかに国が前に進むかという事を念頭にした映画でした。

クラウメ監督の見る、戦後の人々の生き方と精神。たとえ罪を犯してしまった国家だとしても、いやだからこそ過去に対面しそこから新しくならなければいけない。別のラインに次世代の国家をみるのではなく、延長線上にドイツが続いていくこと。

今作ではアイヒマンを追うことそれ自体を通して、モラルと各世代の国民の在り方を見せています。同じく敗戦国である日本に生きる、戦争が隔絶して感じられる世代として興味深いものでした。

ということで今年初の新作の感想はおしまいです。それでは、また。

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