「ナイル殺人事件」(2022)
作品概要
- 監督:ケネス・ブラナー
- 脚本:マイケル・グリーン
- 原作:アガサ・クリスティ「ナイルに死す」」
- 製作:ケネス・ブラナー、サイモン・キンバーグ、リドリー・スコット、マーク・ゴードン、ジュディ・ホフランド
- 音楽:パトリック・ドイル
- 撮影:ハリス・ザンバーラウコス
- 編集:ウナ・ニ・ドンガイル
- 出演:ケネス・ブラナー、ガル・ガドット、アーミー・ハマー、エマ・マッキー、トム・ベイトマン、アネット・ベニング、レティーシャ・ライト、ソフィー・オコネドー 他
アガサ・クリスティによる著名なミステリー「ナイル殺人事件」を、同じくアガサ原作の「オリエント急行殺人事件」を映画化したケネス・ブラナーが再びスクリーンに蘇らせる。
名探偵エルキュール・ポアロをその前作と同様にケネス・ブラナー自身が演じています。
今回の豪華客船のクルーズでの乗客たちを、「君の名前で僕を呼んで」のアーミー・ハマー、「ワンダーウーマン」シリーズのガル・ガドット、ドラマシリーズ「セックス・エデュケーション」で活躍のエマ・マッキー、その他アネット・ベニングやトム・ベイトマン、レティーシャ・ライトなど豪華なメンバーが演じています。
アガサ・クリスティのナイルに死すの映画といえば、ピーター・ユスティノフがポアロを演じていた1978年の作品がありますね。
そちらは子どものころに一度だけ見た記憶があります。おおかたのこの作品のあらすじはその映画ベースで覚えています。
今回は一応前作をもってしっかりと続編意識であることと、ケネス・ブラナー監督作というのもあって観に行こうかと。
通常字幕で公開週末に観に行ってきましたが、結構混みあっていました。
ある程度若い層が中心で、学生っぽい人たちもチラホラ。
~あらすじ~
エジプトのナイル川をめぐる豪華客船の旅。
それは大富豪であるリネット・リッジウェイが、サイモン・ドイルとの結婚を祝うハネムーン旅行の旅であった。
世界一の名探偵として名高いエルキュール・ポアロはこのハネムーンに招待され、しばしの休暇を楽しんでいたのだが、新婦リネットは彼に不安を漏らす。
それは新郎の元婚約者であるジャッキーが、彼らの行く先々に現れているからだ。
サイモンを深く愛し執着しているジャッキーは、何をするわけでもないが二人に付きまとっており、ポアロはジャッキーの悲しみに寄り添いながらも前を向くように促した。
しかし、酔ったサイモンとジャッキーが口論になった末、ジャッキーがサイモンを銃撃するという事件が発生。
そして翌朝、同じような銃でリネットが殺害されているのが見つかった。
ポアロは新婦を殺害した犯人捜しのため調査を始めるが、乗客は誰しもが秘密を抱える曲者ぞろいだった。
感想/レビュー
初めに若干気になっている要素を整理しておきますが、今作の公開が遅れる要因の一つにもなったアーミー・ハマーのセックススキャンダル。
LAPDの介入もあったわけですが、やや引っ掛かりの残る中での鑑賞になってしまったことは残しておきます。
公的な捜査やら一定の説明があって(少なくとも訴えがあった)事実として残っているうえでなのでまあこっちは心持はマシでした。なかったかのようにふるまう「ウエスト・サイド・ストーリー」が気持ち悪すぎるだけですが。
丁寧な古典
話がそれました。
今回のケネス・ブラナー監督によるエルキュール・ポアロシリーズの続編はどうだったかというと、割と普通なミステリーだったというのが正直な印象です。
良くも悪くも古典として完成されていた物語をある程度丁寧に撮ったというのがあり、しかしその中に現代的なアップデートを無理のない範囲で忍ばせていました。
豪華な俳優陣がそろうという点ではこれまでに映画化されてきた同名作やオリエント急行殺人事件でも同じでしょう。
ミステリーの構成上の課題ですが、俳優によって犯人が割れてしまう可能性が本と違って映画では起こりえますから、配役としてはそれぞれ犯人でもいいくらいに顔のしれた俳優を起用する感じ。
なのでまあメンバーはある程度の華はあります。
ただし大きなアンサンブルが起きているのかといえばそうではなかった気がします。
個別に言うと、大きな瞳に危うさと哀しさをたたえたエマ・マッキーには、真っ赤なドレスや白のドレスなどの衣装含めて心乱されました。
私にとってこの映画でおもしろく感じたのは、ポアロを主人公にするその置き方にあります。
探偵物では探偵とは読者や観客よりも優れ先を行き、道案内をしてくれる役割が多いと思います。
ケネス・ブラナー監督はポアロ自信をも今回の様々に入り組んだ愛の物語の一部として語りました。
正直ひげについてのオリジンストーリー自体が必要だったかは微妙ですが、ポアロの病的な性格の背景として1つポアロにもこの船旅の目的地を与えたのはおもしろかった。
常に中心にはいない。
ポアロの病は世界に対して読者と同じような独立性、引いた視点を持ち続けること。
ポアロのような病的なカメラ
OPすぐのクラブでのダンスパーティーに始まり、画面構成とカメラワークもポアロの頭の中のようです。
中心にはサイモンとジャッキーをおいてしっかりと二人のダンスを追いつつも、画面端にはポアロが映り込みます。
船内でのパーティにおいても、騒ぐ人々を中心に置きつつ、階段横のポアロを添えている。
俯瞰した観察者。
もちろん鋭い洞察の意味もあるんでしょうけど、ドラマがポアロにもあるということから彼が目の前の世界と距離をおいてしまっている心理的な距離も感じられました。
入り組んだ迷路のような船内を移動するカメラ。
アネット・ベニング演じるブークの母との会話では、横に並べた二人の間を行ったり来たり。
相手との同一画面内の同居を拒む。
質の低い背景
しかし撮影という面ではちょっと残念なCGの質感。
エジプトのピラミッドの場面でも、客船に移ってからも。
今作のプロダクションはどうにもグリーンバックの室内スタジオで、微妙なセットと役者の衣装で飾り立てた張りぼて感が強かった。
ライティングもそこまでいい仕事をしていなくて、せっかくの旅という面ではかなり残念な画面になっていました。はっきり言ってしまうと安っぽかったです。
仮面の下をさらす意味
歪んでいるもの含めて”愛”が中心に渦を巻くこの作品で、ポアロが個人的事情を挟み事件を通して変化する。
誰しもに心の顔があり仮面に覆われているのですが、ポアロの場合にはその象徴的なヒゲが仮面であったのです。
ただし原作者アガサ・クリスティも観測者に留め続けていたポアロに、こうした個人的なドラマやバックストーリーを設けたことが、成功だったかといえば疑問です。
ブークを原作のキャラを置き換えてまで前作から続投させ、ポアロにとって個人的なクライマックスに。
この点の判断は微妙。
私としてはそれぞれに人種問題やセクシュアリティが埋め込まれている点はそこそこ評価しています。
この仮面舞踏会を現代に蘇らせるならばといったところでしょう。
しかしミステリーとはこうだから楽しいのだ!と思わせてくれた「ナイブズ・アウト」なんかと比べると本当にいたって普通な作品に思えてしまいます。
もちろん豪華俳優陣やケネス・ブラナーの青い目を大きなスクリーンで眺めるのは良いものではありますので、何か映画見ようかなといった場合にはお勧めです。
今回の感想はこのくらいです。
最後まで読んでいただきどうもありがとうございました。
ではまた。
コメント