「君の名前で僕を呼んで」(2017)

  • 監督:ルカ・グァダニーノ
  • 脚本:ジェームズ・アイヴォリー
  • 原作:アンドレ・アシマン「Call Me By Your Name」
  • 製作:ルカ・グァダニーノ、エミリー・ジョルジュ、ジェームズ・アイヴォリー、マルコ・モラビート、ピーター・スピアーズ、ハワード・ローゼンマン、ホドリゴ・テイシェイラ
  • 音楽:スフィアン・スティーヴンス
  • 撮影:サヨムプー・ムックディプローム
  • 編集:ヴァルテル・ファサーノ
  • 出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ 他

アンドレ・アシマンの同名小説を、「胸騒ぎのシチリア」(2015)などのルカ・グァダニーノ監督が映画化した本作。

主演には注目の若手俳優ティモシー・シャラメ、そして「フリー・ファイヤー」(2016)「ジャコメッティ 最後の肖像」(2017)などのアーミー・ハマー。

こちらの作品はサンダンス映画祭での上映時から話題を呼んでいたもので、アカデミー賞ではジェームズ・アイヴォリーが脚色賞を獲得、批評家から高い評価を得ています。

私も以前から楽しみではあったのですが、日本公開は結構待ったわけですね。GWに入るあたりが公開だったので、かなり混雑していました。まあ箱が小さめだったのもあるかもしれないですが。

ちなみに今作は原作の途中までを映画化しており、続編の構想があるという事です。

1983年の夏、北イタリア。

17歳のエリオの家では、大学教授の父が毎年助手を家に招き、ひと夏を過ごしていた。

今年一家の元を訪ねたのは、アメリカ人青年オリヴァー。エリオははじめこそオリヴァーを気取った男だと嫌っていたが、次第に想いを寄せていく。たった6週間しか共に過ごせないこの夏。

エリオにとって、大きな成長と、何かを知ることになった夏。

自分にとって大切な人と過ごす時間というのは、恋をしている瞬間というのは、そして愛を与えあう日々というのは。

そうした時は、世界の全てが輝いて見えるものでしょう。

この作品は、まさにその時を切り取って、観客の心に流し込むようなものです。

作中の朝も昼も夜も。光りも闇も。

この北イタリアの、暖かな日の光や冷たい川の水、吹き抜ける風も何もかも。画面に出ているだけですが、確かな感触を持っています。そしてそれらは全てが心地よくて、キラキラとして美しい。

なぜかと言えば、やはり人を想うから。

エリオとオリヴァー、二人にとって互いが特別だからです。

観客もエリオと同じく、この夏の間だけオリヴァーと出会います。

ただ、ここで互いを意識させる、いってしまえば各人物の想いの流れのようなものを常に感じさせているからこそ、ここまで実感のある愛に仕上がっているのだと思います。

始まってすぐから、2階の窓から、観客はエリオと共にオリヴァーを一方的に見つめます。

相手が見ていないところで相手を見る。これは今作で多用される演出だと思います。

もちろん見ているだけではなく、空間の使い方もまた、人物から相手への意識を見事に伝えていました。

開けっぱなしのドア、抜けた廊下、家の構造。

常にその先に相手がいることを意識させる。台詞もなくその時エリオやオリヴァーが誰を想っているのか伝え、まさに”四六時中あの人のことを考えてしまう”状態を作り上げているのですね。

また場所というのもかなり重要な役割を持っているように思えました。

エリオが案内する地下の倉庫?みたいなところもそうなんですけど、やっぱり二人が始めて互いの想いを伝えあったあの小さな川がよかったと思います。

地元の子だから色々な場所を知っているエリオが、オリヴァーにだけ教えた、彼のお気に入りの場所。それが意味する大きさですよ。

あとは音楽、ピアノの音色も重要でしたね。

誰かのアレンジではなくて、エリオの音色を気に入るオリヴァーとか、素敵だなぁと。

教養ある環境で色々な芸術に触れるエリオは、おそらく他の子たちよりも人一倍繊細で色々なものに深い理解を示すのでしょうから、知性あるオリヴァーは何かそうした点での理解者と言うか、共有できる存在なんですね。

もちろん、そうした要素を巧く使っている点も好きですが、やはり主演ふたりの力があってこそ成り立つ繊細さであると思います。

ふたりの演技だけでも是非観てほしい作品です。

ちょっとからかうような態度を崩さない、言葉がしっかりしているアーミー・ハマーに対して、ティモシー・シャラメの曖昧さがとてもあっていたと思います。

彼の演技というのは、体全体の動かし方やそこから来る態度、そして眼ですね。

あまり喋らない、台詞の少ないシーンが多かったと思います。というか彼が一人でいるシーンにおいて、しかも結構な長回しで、繊細な演技をしていたわけです。

エンディングは文句なしの名演。あんな表情と眼を見せながら、クレジットが過ぎていく。映画史に残るエンドロールだと思います。

また、彼らのイチャつきっぷりも演技のアンサンブルとして良かったかと。オリヴァーが大人としてある程度構えているところに、エリオがけっこう攻めていくような、挑戦するような感覚がありました。

思えばパーティとか遊びであまりはしゃいでいなかったエリオが、泥酔できるほど安心しているのはオリヴァーいたときだったかなと。

あと、川辺でのキスでエリオがオリヴァーの唇を舐めるところとか、ちょっと心持ってかれましたねw

あとはタイトルの意味でしょうか。

エリオが17歳、対するオリヴァーは24歳です。どうしても上下というか年齢差とかがありますね。少年と青年というか。

それを埋めてしまうのが、互いを互いの名前で呼ぶ行為なのかなと思いました。言ってしまえば同化するのです。

セックス以上の一体化というか、1つの個となるというか。

しかし彼らの親密な関係も、やはりこの暖かな北イタリアにおいても抑制されてしまい、しかしそれをあまり深刻な苦難のようには描かずそれでも葛藤残す描写もきれいだと思います。

スゴく好きな人と街を歩いていて、しあわせならばその場で抱き締めたりキスをしたくなる。

でもエリオとオリヴァーは人目を忍んで裏道へ入るしかないのです。

映画全体はとても綺麗ですが、やはり今作の恋というのは切ないものです。得ることができないもの。

エリオは何も知らなかったのですが、オリヴァーと過ごして苦しむほど人を愛することを知ったと思います。

「シェイプ・オブ・ウォーター」に続いて良い演技をみせ、なによりカメレオン役者っぷりが素晴らしいマイケル・スタールバーグ。

彼が演じる父の言うように、たとえそれが叶わない想いだとしても、おそらく普通の人が経験すらできない何か特別なものなのでしょう。

だからこそ、無かった方がよかったわけではなく、間違いなくこれが人生の一部として残ります。

暖かな季節は終わり、日の光や透き通った水も感じられませんが、オリヴァーを思い出す度に、あの美しかった日々、世界は甦るのです。

そんな思い出って、やはりなかなか持てないものです。

そしてこの作品自体が、そういった一時の輝かしい思い出のようだと思います。後から思い出す度に、全てが綺麗だったと感じる。

ルカ・グァダニーノ監督は、人が簡単には経験し得ないような、切ない愛とその美しい時間を見事に切り出してみせています。

思い返す時、必ず優しい暖かさに包まれるような作品。そして自然と涙が溢れてしまいます。素敵なラブストーリーでした。

これはスゴくオススメです。

感想は以上、劇場で観てください!それでは!

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