「エデンの東」(1955)
作品概要
- 監督:エリア・カザン
- 脚本:ポール・オスボーン
- 原作:ジョン・スタインベック
- 製作:エリア・カザン
- 音楽:レナード・ローゼンマン
- 撮影:テッド・マーコッド
- 編集:オーウェン・マークス
- 出演:ジェームズ・ディーン、ジュリー・ハリス、レイモンド・マッセイ、リチャード・ダヴァロス、ジョー・ヴァン・フリート 他
ジョン・タインベック著の本を元にポール・オズボーンが脚色、「波止場」(1954)でマーロン・ブランドを送り出したエリア・カザンが監督した作品。
田舎町を舞台に、父の愛を欲するも父は兄ばかりをひいきすることに苛立ち反抗する少年と、彼の芯だとされていた母親、戦争を背景に善きことと悪しきことのはざまに揺れる青春を描き出します。
主演には今でも愛されるジェームズ・ディーン。
彼の初映画出演であり初主演。
ゴールデングローブやカンヌで賞を獲り、母役のジョー・ヴァン・フリートはアカデミー助演女優を獲りました。
その他ジュリー・ハリス、レイモンド・マッセイ、ロイス・スミスなどが出演しています。
保安官役で印象的に、あの「大いなる西部」のバール・アイヴスも出ていたり。
この作品はクラシック鑑賞の一連の流れで、ついにジェームズ・ディーンの映画をまとめてみようというきっかけで観たものです。
私の中でいつまでも輝くJ・ディーンと共に生涯愛する映画の一つになりました。
初めて見たときはまだ高校生でしたが、人生でもあまりないくらいに、演技の素晴らしさに感動をしたのを覚えています。
人の演技で、ここまでも心を揺さぶられたことはなかったのです。
~あらすじ~
11917年のカリフォルニア州サリナス。
トラスク家の次男キャルは、港町の女ケートを尾行していた。
彼女が、幼いころに死んだとされる母ではないかと思っていたのである。
父アダムは野菜の冷凍保存を実現しようとし、清さと正しさを持ち仕事もできる兄のアロンを愛していた。
キャルの方は自分がひねくれて生まれ、それゆえ父は自分を愛していないと感じ、日々反抗的な態度であった。
そして父の計画が失敗し大損したところ、キャルは何とかお金を稼いで取り戻してあげたいと思う。
キャルは兄の恋人であるアブラと次第に仲良くなり、彼女は一見反抗的で無軌道なキャルの父への愛を理解し応援してくれるようになった。
感想/レビュー
現代にも通じる若者像
エリア・カザン監督は新人スターを送ることで有名ですが、もちろん今作で光るのはジェームズ・ディーン。
タイトルからしてカインとアベルの話をモチーフに、ディーンは父の愛を受ける兄に嫉妬する側です。
ここのおもしろい所は、人類最初の罪をモチーフに、自分を悪と思うキャルの人物模様でした。
たしかにカインは嫉妬から殺人を犯し嘘をつく。
まんま嫉妬するキャルは悪に思えます。しかし、父の愛を渇望することは罪でしょうか。
親の愛を受けたいこと自体は罪でも悪でもないのでしょう。嫉妬から物に当たったりしてしまうキャル彼自身は悪とは思えません。
ここに55年の舞台ながら、現代にも通じる、人間であれば必ず通るであろう純真からの脱却と大人への途中経過、つまり思春期が描かれていると思います。
愛されたいと思うが、子どものころのような甘えはできない。
陽としてだけの無垢な子供ではない影を持つ存在。母ケートの店に赴いた時のキャルにはとにかく影が付きまとうように照明演出されています。
聖書の朗読をさせられるシーンとか含めて、不穏なシーンではカメラが傾きますね。
傾いた状態だからこそ、しっかりと鏡の中にキャルが移りこむケートの部屋でのシーンがあったり、画面構成の演出が素晴らしい。
圧倒的な感情の爆発を見せるジェームズ・ディーン
悪であるとか善であるとか、まだ大人になり切れていないキャルには判断がつかない。
悪になるとすればキャルが父アダムに、彼の贈り物を拒否されてしまったときでしょう。
聖書が多く登場する中、「僕は兄さんのお守りじゃないんだよ」と言い放つ。
カメラはここでも身を持ち崩すように斜めになり、暗闇からブランコの振り子で顔を出すキャル。
その姿と語りは悪魔になってしまったようでした。
しかし、ここでの胸の裂けそうな悲劇的叫びを見せるディーンは本当に素晴らしいです。
若さ、未熟さ、切ない気持ちの爆発。こんなにも愛おしい姿。演技と思えないほどの力です。
聖書を頼りに、善として生きる父や兄。
彼らにとって悪とは言わずとも、キャルは理解できない存在。
しかし彼らが理解していないのは、いや目を背けているのは、キャルというよりは現実でした。
キャルはむしろ彼らよりも世界が見えていたのかもしれません。だからこそ苦悩した。
欲するままにならないことを受け入れ、愛する
愛してほしいようには愛してもらえない。
そして同じくらい、善であって欲しいほど人は善であることはできないのです。
母の真実を知り、世の善と自身の善を信じていた兄アロンは壊れてしまった。
彼の考えていた清純な世界は無かったのです。そしてアブラもアロンが求めるように、善良ではいられない。
父も過去と真実を曲げて、理想に生きていただけでした。
そういった世界に気づいたキャルとアブラ。
欲しいだけの愛はもらえないけれど、それでも相手を許して愛してあげる。
母ケートは早くにそれを知っていて、しかし許しも愛しもしなかったのでしょう。
散々苦しみもがき、自分の悪と愛に葛藤してきたキャルが最後、父を許す。
そして父はキャルのおかげで世界を認めたように思えます。
全てを許してみんなそれぞれの愛を受け止めました。
私にとって永遠に青春を象徴するジェームズ・ディーン。
誰しもが感じるであろう愛の渇望を切なさをいっぱいに伝えてくれる、いつまでもその若さのままの輝きを持つディーンがこの「エデンの東」にいますね。
このころのシネマスコープの横長画面で映し出される田園や、レナード・ローゼンマンによる素晴らしいスコアも楽しめる傑作。
一度は観て欲しいディーンと巨匠カザン監督の一本です。
そんなところでおしまいです。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた。
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