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「コット、はじまりの夏」”The Quiet Girl”(2022)

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「コット、はじまりの夏」(2022)

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作品概要

  • 監督:コルム・バレード
  • 製作:クリオナ・ニ・クルーリー
  • 製作総指揮:ダーブラ・リーガン
  • 原作:クレア・キーガン
  • 脚本:コルム・バレード
  • 撮影:ケイト・マッカラ
  • 美術:エマ・ロウニー
  • 衣装:ルイーズ・スタントン
  • 編集:ジョン・マーフィ
  • 音楽:スティーブン・レニックス
  • 出演:キャサリン・クリンチ、キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、マイケル・パトリック 他

1981年、夏のアイルランドを舞台に、9歳の少女コットの成長とはじまりを描いた作品。

監督を務めるのは、これが長編映画デビューとなるコルム・バレード。また主演は本作が映画デビューとなっているキャサリン・クリンチ。

第72回ベルリン国際映画祭でグランプリ受賞(国際ジェネレーション部門)、第95回アカデミー賞でアイルランド語映画初の国際長編映画賞ノミネートをはじめ、世界の映画賞で42受賞、60超ノミネートの快挙を果たしています。

アイルランドの出身俳優はコリン・ファレルやシアーシャ・ローナンなどがたんくさんいますが、今作で間違いなくキャサリン・クリンチも仲間入りであると言われています。

個人的にアイルランド出身の俳優の出ている映画は観ていても、アイルランド語の映画ってあまり見ていない気がしたというのもあり、楽しみにしていました。

今回は平日の夜の回に行ってきましたが、結構人が入っていて混んでいましたね。

「コット、はじまりの夏」の公式サイトはこちら

~あらすじ~

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1981年、アイルランドの田舎町。

大家族の中で一人静かに生活している9歳の少女、コット。

彼女は夏休み中、一家に新しい赤ちゃんが生まれるまでを遠い親戚夫婦、キンセラ家で過ごすことになる。

寡黙ながらも優しくコットを迎え入れる妻のアイリン。

彼女に髪を梳かれたり、口下手で不器用ながらも妻・アイリンを気遣う夫のショーン。

コットは一緒に子牛の世話を手伝ったりするうちに、2人から温かな愛情を受け、心境も徐々に変化していく。

緑豊かな農場での生活は、これまでにない生きる喜びで彼女を包み込み、彼女は自分の居場所を見つけていく。

そして、3人はいつしか本当の家族のようにかけがえのない時間を共有していく。

感想/レビュー

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静かな映画ってありますよね。「わたしの叔父さん」とか思い出します。セリフもすごく少なくて、画で魅せていく感じ。所作というアクションで語っていく。

純粋に映画って思いました。

なんだかすっごく綺麗な、美しいものに触れることで、自分自身も浄化されるようなデトックス映画です。ただただ澄み渡っている。

そして終幕において、そこでもなお他の映画に比べれば静かではあるものの、とびきりのアクションが起きることで感情が爆発し、そこまで積まれていた想いが決壊します。

少しの動きも大きな意味を持つアクション

本当に、多くの映画では何気ないものとして処理されてしまうけれど、所作とか言葉って大事なんです。

そして今作は沈黙というものもまた言葉であり会話であることを理解して、それをすごく効果的に使っていました。

物静かな少女コット。彼女を呼ぶ声で始まる作品は、コットが草原のなかで、繭に包まれているように草でおおわれて寝ているショットから始まります。

彼女はレイヤーを纏っているし、まだ自分自身の中にこもっているのですね。

こっから本当に見事な主演キャサリン・クリンチの魅力が炸裂し続けます。

ある程度決まった感情の吐露、アクションがある方が、それに沿って動くという意味では演じやすい気もしますが、コットにはそれはありません。

ただ気まずくて、何も言わなくて、座り方とか目線とか、彼女の所作にすべてを込めていくということになります。

そういう難しさを見事に乗り越えて、コットを目で追うだけで彼女がしゃべっているかのように理解できる。全身で想いを語っています。

キャサリン・クリンチが本当に素晴らしい

彼女がどんな表情をしているか、何を観ているか。この仕組みから、じっと相手を見てその人の心を探るという活動が観客にも自然とうまれます。

キャサリン・クリンチはすっごい透明感のあるルックスで、それはそのまま、無垢さとか純粋さにもつながりますし、ひいては脆さも感じさせます。

そしてセリフもかろうじて聞こえるくらいのすごく小さくて細い声で話す。

壊れてしまいそうな繊細な年ごろの彼女の切り取り方がすっごくリアル。

姉たちに比べて遠慮がちに何も言わない家庭での様子。学校でも物静かで、でも男子のせいで服が濡れてしまった後の姉に助けてもらえないところ。恥ずかしいし悔しいし。

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丁寧に映されていく人の歩み寄り

周りに言われるままにコットはアリソンとショーンのもとへ行きますが、彼らとの関係性の次第な変化が素敵です。

アイリンはショーンに比べて自分からコットに世話を焼いていきますが、決して無理強いしたり打判断したりせず、彼女に自分自身のペースをちゃんと与えている。

ショーンもはじめは距離を置いていますが、あの小さなお菓子のところとか、すごく良い。

コットは人前でこそ遠慮しているのですが、ちゃんとお菓子ほしいし子供らしいところはある。それを分かっていて、見えないところでもお菓子をあげるショーンの優しさが見えます。

この夫婦が抱えている悲しみを知り、コットもまた彼らに寄り添うようになっていく。

子ども用のベッド、男の子の服、壁にかかった汽車の絵。

ショーンがふと姿の見えなくなったコットになぜあそこまで厳しく接したのか。アイリンがふと胸騒ぎがして、濡れてしまったコットを見つけて優しく接する。

身体的な接触は大きな要素です。

髪をとかしてくれて、身体を洗ってくれる。寒いときには上着のボタンを閉めてくれる。

当たり前のような優しさと親切に触れて、自分の安心できる居場所を見つけるコット。

自分から走るという行為の意味が変わるラスト

スローモーションで時折切り取られる瞬間は、リズムを持っていて美しい。これがコットのリズム。

校庭を駆け抜けたコット。郵便受けまで走ったコット。彼女の大きな、走るというアクションがラストにもまた繰り返される。そこに前向きな気持ちが見える。

目線の先に見えたものに「パパ。」と言葉を漏らしますが、今度は目を閉じて抱きしめながら「パパ。」という。

この先の余白を十分に取りながらふと終わるラストもなんて綺麗なのか。

自分自身の中の時の流れを変えて、澄んだ清らかさと暖かい心で包んでくれる素晴らしい作品でした。

初監督という偉業、また新星キャサリン・クリンチの登場と観れて本当にいいと思う作品でした。

おすすめですので気になる方は是非。感想はここまで。

ではまた。

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