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「聖なる犯罪者」”Corpus Christi”(2019)

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corpus-christi-2019-movie 映画レビュー
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「聖なる犯罪者」(2019)

  • 監督:ヤン・コマサ
  • 脚本:マテウシュ・パツェビチュ
  • 音楽:エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
  • 撮影:ピオトル・ソボチンスキ Jr.
  • 編集:プシェミスワフ・クルシエレウスキ
  • 出演:バルトシュ・ビィエレニア、アレクサンドラ・コニェチュナ、エリーザ・リチェムブル 他

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「リベリオン ワルシャワ大攻防戦」などのヤン・コマサ監督による、少年院仮釈放中の青年が、勘違いから神父になったことで、その町の悲劇と向き合っていくドラマ映画。

主演はバルトシュ・ビィエレニア。

ポーランドでの作品で活躍している新鋭の俳優で、今作の演技から数々の映画祭で賞を獲得しました。

アカデミー賞では外国語映画にノミネート。

ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」に破れましたが、ポーランド映画は「COLD WAR あの歌、ふたつの心」に続き2年連続でのノミネートとなり勢いを増していますね。

タイトルとなってる”Corpus Christi”は聖体の祝日を指しています。

今回は日本公開よりも先に観る機会がありました。日本公開は2021年の1月を予定しています。

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少年院から仮釈放で出所したダニエルは、すぐに酒とドラッグ、セックスの世界に入り浸るが、自分の中の想いから町を出た。

彼は立ち寄った小さな町で教会へ入るが、そこで出会った女性との会話のなかで、自分が神父だと嘘をつく。

冗談のつもりが、町の神父が病気のためしばらく外出しなければいけないこともあり、ダニエルはトマス神父として教会での仕事を任された。

若く独特な説教をするトマス神父は、次第に町の人たちと打ち解けていくが、町の人々はある悲惨な事故により心に深い傷を抱えていた。

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ヤン・コマサ監督が切り込んだのはキリスト教批判の先、かなり厳しい視点での、キリスト教精神についての問いかけかと思います。

突き詰めては私たち人間が持つ表と裏、建前と本音から、真の意味での隣人愛や慈悲、赦しとは何かを描いているのです。

なかなか過酷な題材や描写にしては、コメディな要素もあり、また心に触れる瞬間の多さや、優しさも感じて観やすい作品ではありますので、宗教ものと構える必要自体はないかと。

今作はOPすぐから、バルトシュ・ビィエレニア演じるダニエルの現実が顔を見せます。

ルーチンが半端ない。繰り返されすぎてシステマティックなレイプ、ダニエルに不穏な影を落とす暴力の塊みたいなイヤな囚人。

言葉の少ないなかで、ダニエルにとって教会の祈りの時間は救いであると示されます。

そして繰り返される重要な言葉もここで登場していますね。

遠い世界に神の国があるのではなく、それはここに、常に私たちと共にある。

遠くへの会話ではなく、自分との会話であると。

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教会では、特定の場所では、建前としては祈り、慈悲を見せる私たち。

ダニエルの心の旅とも重なるこの町での出来事は、それを引き剥がし、醜い本音と真実を見せていきます。

冒頭の少年院の描写は、見張りをする眼差しとその後ろで行われる残酷な行為をワンカットで見せます。

しかし看守が戻れば、何事も無いかのように静まるわけです。

問題ない表に対し裏で起きる醜悪な行為。

この構造は残念ながら町でも同じなのです。

ダニエルは彼自身が”聖職者”という建前を持ちながら、”前科者”という真実を隠して歩いているわけです。

その彼が、村人の酷い仕打ちに直面する。

彼の素性がバレてしまうのかというスリルもありますが、今作ではそれ以上に、それまで悲哀にくれる人々に見えていた人物が、惨たらしい暴力を振るっていることへの衝撃に打ちのめされます。

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ダニエルには何度も、外のおぼろげな光が彼のいる室内に差し込むショットがあります。

光は儚くしかし神々しさもあり美しいショットですが、そう思えるだけで、その光は実は卑劣な炎であることも。

ダニエルは確かに、羊の皮を被った狼なのかもしれません。

しかし罪を隠して聖なる衣を纏うのは、ダニエルだけではない。

罪なき者などいないのです。

誰しもが後悔する、何らかの罪悪感と共に生きています。

そんな罪人を許すのが、神ではないのか。そして神はどこにでもいるのではないか。

衣を脱ぎ、内も外もない姿をさらすダニエルこそ、皆があるべき姿かもしれません。

“前科者は聖職に就くことはできない”という最大の矛盾から始まる今作は、キリスト教の建前と本音も明らかにしながら、人が人を赦すことを見せています。

最後のカットバック。

やはり何も起きなかったかのようにはできず、暴力はダニエルをつかまえますが、一方で究極の赦しが見えるのも希望を持たせてくれる。

バルトシュ・ビィエレニアの瞳が、薬で覚醒していようが、涙を流そうが、世界を映すように印象的な作品でした。

日本公開は2021年1月と決まっています。これは非常にオススメの秀作です。

感想は以上になります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

それではまた次の映画感想で。

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