「ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた」(2018)
- 監督:ブレット・ヘイリー
- 脚本:ブレット・ヘイリー、マルク・バシェ
- 制作:サム・ビスビー、サム・スレイター、ヒューストン・キング
- 制作総指揮:フランクリン・カーソン、ポール・バーノン、デヴィッド・バーノン、ジャッキー・ケルマン・ビスビー、ランス・アゴード、テオドラ・ダンラップ、フランク・ブレナー、ニック・オファーマン
- 音楽:キーガン・デウィット
- 撮影:エリック・リン
- 編集:パトリック・コールマン
- 出演:カーシー・クレモンズ、ニック・オファーマン、サッシャ・レーン、トニ・コレット、テッド・ダンソン 他
「ザ・ヒーロー」などのブレット・ヘイリー監督が描く、音楽を通じた親子のドラマ。サンダンス映画祭で高評価を得た作品で、主演は「フラットライナーズ」などのカーシー・クレモンズ、「レゴ®ムービー」などのニック・オファーマンです。
また、トニ・コレットやサッシャ・レーンなども出演しております。
実はあまり認知していなかった作品でしたが、サッシャ・レーンの出演作ということで観に行きました。
彼女の出演作、ことごとく日本では劇場公開していないので、スクリーンで見れるのは初めて。
公開規模が小さかったんですが、渋谷で鑑賞。入りはそこそこでしたかね。
ブルックリンにレコード店を構えるフランク。
かつては自身もミュージシャンを目指していたものの、上手くいかず、今ではこのレコード店も客足が減り、フランクは閉店を考えていた。
一人娘のサムはロスの医学科に進学を決めており、もうすぐ遠く離れた所へ旅立つ。
フランクは愛する娘サムとの別れが惜しくなり、しつこく一緒にセッションしようと持ちかける。
そして、サムが書いていた『ハーツ・ビート・ラウド』という曲を一緒に作成するのだった。
サムは音楽業界に進む気はなかったが、フランクは勝手に曲をオンラインに投稿。
それが人気を出したことで、フランクはますます親子バンドへの期待を膨らませていく。
ブレット・ヘイリー監督が描く父と娘の親子ドラマですが、かなりいい気分なものでした。心地よいです。
重苦しくしないバランス感覚や、安直なお涙頂戴でもなく、しっかり暖かさやしんみりした場面はあるのに、良い意味でさらりとしています。
まず特筆したいのは、登場人物たちと彼らの人間関係です。
スクリーンタイムが一番長いのは父親役のニック・オファーマンですが、彼は今作でほとんど最年長なのに、「成長してよ」と言われるように実に子供っぽいんです。
でもそれが、本気でダメな幼稚さじゃなくて、可愛らしい。
かまってほしくてちょっかい出したりイジケたり、バンドの曲が流れてテンション上がったり。
ただ一方で、自分の時代の終わりとか、娘との別れとか、結構寄り添えることで悩むのも良いところ。
自分のお店は、ネット注文したお客の言うように古いですし、音楽に関しても、娘の生み出すリズムや歌詞の方がカッコいい。
でもこういうところで、ちょっと寂しげながらもちゃんと新しいところを認めてる父親なのがまた素敵。
マリファナ好きのテッド・ダンソン、ちょいリッチなトニ・コレット。出てくる人たちがみんな嫌みなく好きになれます。
そして娘を演じるカーシー・クレモンズですが、彼女の歌唱力も素晴らしい。タイトルにもなる”Hearts Beat Loud”の完成度も良く、パフォーマンスも合わさってステキな曲に仕上がっています。
それぞれの歌が、大きな感じがせず、こじんまりとしています。でも本当に人の想いとか、個人的なメッセージが込められていて、人物たちのお別れの言葉が曲になっているようで良かったです。
あと、実は今回楽しみにしていたのがサッシャ・レーンでした。今まで出演作が日本でなかなか劇場公開されず、今回やっとスクリーンで観ることができた彼女。
登場時間こそ少ないですが、カーシーと一緒のシーンでは二人の見事なケミストリーで印象を残します。
夕暮れのストリートでのキス、サイクリング。そしてベッドでのシーン。彼女たちのロマンスとか心の繋がりがしっかりと感じられました。
自転車の話で謝ってからのハグ。
親密さとか、二人がこれから別れてしまうと知りながら、でもだからこそ少しでも一緒にいようとするその切なさとか。
本当に息づいた人間関係で、二人の素敵な演技によってマジックが起きています。
終始重くなりかねない事柄を、爽やかに描いていく。
色々なお別れは実は結構残酷ですが、安易な救いとかも与えずにしかし見終わったとき苦しくない。
父が直面するのは、自分の時代の本当の終わり。
それは抱え続けた夢が終わっていくことでもあり、また娘が旅立っていくということ、つまり本当に若い世代とのつながりがなくなること。
そしておそらく、亡くなった奥さんとの何か繋がりそのものである娘と離れること。
この先は認知症の母の世話をする人生が待っている。店も終わって、彼の人生自体がどこか小さくなっていくわけです。
その別れをあまり辛気くさくせず。人生の一部として心地よく描いていました。
寂しさや悲しさもありますが、”変化”は良いことなのでしょう。少なくともサムにとってははじまりなんですから。
どんな人生にもこういうわかりきったお別れってありますよね。目の前の現実がずっとは続かない。
進学に、学校の卒業とか独り立ち、人生を歩んでいく上で経験する死別そして年老いていくこと。
正直最後の台詞でああ・・・って思ったんですが、安直な終わりでもなく。
着地までうまいバランス。娘の旅立ちを父が邪魔するような勝手さもなければ、過去を全て捨て去るわけでもなく。
過ごした日々、過去の想い出は歌に込めて。それを糧にこの先の人生を生きていく。
心地良いけど接待にならない、人の生き生きした爽やかドラマで、楽曲もよくとても楽しめました。オススメ。
今回の感想はこのくらいです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではまた次の記事で。
コメント