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「フィッシュタンク」”Fishtank”(2009)

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映画レビュー
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「フィッシュタンク」(2009)

  • 監督:アンドレア・アーノルド
  • 脚本:アンドレア・アーノルド
  • 製作:キース・カサンダー
  • 製作総指揮:クリスティーン・ランガン
  • 撮影:ロビー・ライアン
  • 編集:ニコラ・ショードゥルジュ
  • 出演:ケイティ・ジャーヴィス、マイケル・ファスベンダー、カーストン・ウェアリング 他

「アメリカン・ハニー」(2016)のアンドレア・アーノルド監督の作品。

同作でもとったアプローチとして、この時も一般から主演を選んで撮られた作品で、主演のケイティ・ジャーヴィスは駅でボーイフレンドとと話しているところを見つけたのだとか。

彼女に対して、マイケル・ファスベンダーが俳優組から出演しています。

批評筋から高い評価を受けており、カンヌでは審査員賞、またBAFTAこと英国アカデミー賞では作品賞を獲得しています。

劇場公開したかは知らないですが、クライテリオンのブルーレイで鑑賞しました。「アメリカン・ハニー」観てすぐに、アンドレア監督作がもっと観たかったので。

学校へ通わず、一人孤独な毎日を送る15歳の少女ミアは、ダンスが好きで一人空きビルに入っては練習していた。

彼女がダンスのオーディションに出ようとビデオ撮影を考えていた頃、シングルマザーである母に新しい恋人ができた。

コナーという男はハンサムでおもしろく、ミアと妹含めみんなを楽しませてくれる。彼は窮屈で塞ぎ込んだ世界では希望のように感じられた。

私はこの作品が大好きですし、見事であると思います。とても痛々しくもありながら、しかし暖かい希望の眼差しを感じる映画でした。

最初に手法の点でみると、ドキュメンタリックでリアルな空気や、良く見つけてきたと思うケイティ・ジャーヴィスの素敵さや彼女と役者陣を上手くアンサンブルさせる腕前が楽しめます。

そこに生きている感覚をフィクショナルな人物に感じさせ、だからこそ思い入れて観て、その身を案じさせてくれます。

やはり音楽の使い方に関しても、劇中に流れるのが、作品内の登場人物が自分でかけるものに搾っているのが効果的に思えますね。

彩るようなBGMなんてない、希望の見えない環境で、自分を鼓舞する好きな音楽をかけて、必死に生きていく。周りからの応援を期待せず、自分の曲をかけているわけですね。

そこで”夢のカリフォルニア”を何度か流すのですけども、ミュージカルかというくらいしっかりそれが計算されていて、流れるたびに全く表情を変えてくるのです。

同じ曲なのに、ミアの心を想うと別物のように。巧いところです。

また撮影面もそのアスペクト比が見事です。

彼女の、というか出てくる人物を映し出すカメラはほぼ正方形になっていて、非常に狭苦しく、まさにフィッシュタンク、水槽に入れられてしまっているようですね。大きな海へと泳ぎ出したくても、自分の世界には限界があるのです。

ミアはダンスを志し、その狭い四角の画面のなか、精一杯に体を広げ動かす。

彼女自身がその環境から、水槽から必死に外へ出ようとしているのです。

彼女が馬を助けようとするというのも印象的でした。

もちろん、メチャクチャ態度悪いし、オープニングすぐに頭突き食らわせるような不良描写はあるんですけども、こうして動物を助けるという優しさ、根底的に彼女が環境ゆえに悪にはなっていないことを示しています。

そしてもちろん、繋がれてがれている存在を解放するのは、まさに自分を自由にすることを込めているようですね。

彼女はこの作品を通して叩きのめされます。

一度救いのように思われた存在は、結局は自分を想ってはいなかった。

マイケル・ファスベンダー演じるコナーはミアにとって、いや家族全員にとって救いのような存在でした。彼はチャーミングでみんなを楽しませ、愛をくれて、ついに頼れる人ができたと思っていたのです。ですが、結局はそれも打ち壊されてしまいます。

優しすぎるのは、深く踏み込まない故でしたからね。

本気でぶつかり合う、ていうか口悪すぎてヤバいこのミアと妹と母に比べ、コナーがなんかやけに優しいし薄いというのにも、残酷な理由があったのです。

結構びっくりする描写と言うか行動があり、何しろ実録的な作りですから、これはどうやって撮った?大丈夫か?となるシーンがあります。

ミアは確かにいけないことをしましたけど、でも彼女の気持ちは痛いほどわかりますよね。自分が得られなかったすべてを得ている存在に対する怒りと、悔しさと。

そしてその行動で完全に希望を失う。

ミアが気にかけていた馬、殺処分されてしまいます。もう16歳で寿命だと。

ミアは15歳。このままこの環境で、水槽の中で鎖につながれていて、彼女を待つのは死だけです。私は今でも思うのですが、こんな感じでたいして面白くもない人生をただ生きて、死ぬのかと。怖いですね。

ですから最後のシーンがかなり突き刺さってきます。ミアが外へと飛び出していくその朝に、喧嘩ばかりしていた母と、妹との別れ。

親子が一緒の音楽の中、ダンスをする。Nasの”Life’s a bitch”ですよ、もう。

”人生はクソだ。そしてただ死ぬ。だからハイになれ、いつ行くかなんてわからないんだ。”

夢も何もない歌詞ですが、でも親子そろって動く、じっとしてはいられないから。

なんだかんだ言っても寄り添っていた家族と別れて、ミアは車に乗る。

今作でアンドレア監督は安易な救済を与えず、ミアがこのあと良い人生を歩むかなんて全く分からないまま放り出します。

でもそれが現実で、人生です。

誰もこのさきどうなるかなんてわからないんですよ。みんな怖いけど、クソな今より良くなるように、必死でもがいているのです。

それが真に伝わってくるだけで、この作品自体が救いになります。明日が不安でも、この先が怖くても、人生がクソでも。15歳のミアのように生きていこうと思える、私を鼓舞する作品でした。

アンドレア・アーノルド監督作はまだまだ観れていないので、レッド・ロードとかも観たいですね。かなりお気に入りの監督になりそうです。

今回はこのくらいで。それでは、また~

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