「人質 韓国トップスター誘拐事件」(2021)
作品概要
- 監督:ピム・カルソン
- 脚本:ピル・カムソン
- 製作:リュ・スンワン
- 製作総指揮:キム・ウテク
- 音楽:キム・テソン
- 撮影:チェ・ヨンファン
- 編集:キム・チャンジュ
- 出演:ファン・ジョンミン、キム・ジェボム、リュ・ギョンス、イ・ホジョン、イ・ユミ、チョン・ジェウォン、イ・ギュウォン、パク・ソンウン 他
「アシュラ」「哭声/コクソン」など多くの作品で人気を博す韓国の人気俳優ファン・ジョンミンが誘拐されてしまうという実録風のモキュメンタリー映画。
ピム・カルソンが今作で監督デビューを果たし、本人役でファン・ジョンミンが主演を務めます。
その他、同じく人質として囚われている女性をイ・ユミ。
犯人グループの主犯格をキム・ジェボム、ほかのメンバーにはリュ・ギョンス、イ・ホジョンらが出演。
昨年であれば「ただ悪より救いたまえ」など面白かったですし、今はドラマシリーズ「ナルコの神」でも活躍と勢いはまだまだ止まらないあのファン・ジョンミン主演映画ということで、作品を知った時から結構楽しみにしていました。
とはいても他の作品などに押されてることと、やはり公開規模が小さいために上映館回数共に厳しかったです。
公開週末なのに一日2回のみで、朝一と後は夜というスケジュール。とりあえず土曜日朝一の回で観てきました。
回数が絞られるから集中するためか、早い回でしたがある程度人が入っていました。韓国映画ファンの方たちでしょうか。あまり若い人はいませんでした。
~あらすじ~
数々の名作で主演を演じ、出演作の観客動員数で圧倒的な数字を誇る韓国の大スター、ファン・ジョンミン。
幅広い役柄を演じた彼は新たな作品の舞台あいさつに参加。大忙しの日々を送っていた。
会見後打ち上げもあったが、夜も遅く疲れていたこともありジョンミンはマネージャーと別れて一人帰路に着く。
途中でコンビニにより、交流のある青年に車を預け、歩いて家まで向かうジョンミン。
しかしそこで覆面を被った集団に襲われ車に押し込まれ誘拐されてしまった。
目が覚めるとそこは古びた小屋のような場所で、自分は椅子に拘束され、もう一人若い女性が縛られていた。
犯人たちは身代金目的で誘拐を繰り返している集団で、猟奇殺人も繰り返している異常者たちだった。
理不尽なタイムリミットを設けられたジョンミンは誘拐されたことをなんとか外に知らせ、この地獄から決死の脱出を図る。
感想/レビュー
実在の俳優をその俳優自身が本人役で演じる。
カメオとしてそうした形で登場するというのは映画では結構見られます。
しかしたいていの場合には、そうした場合主人公は俳優自身ではなくフィクショナルなキャラであることが多い。
映画は物語、我々の生きている世界のパラレル。
この作品も確かにファン・ジョンミンがファン・ジョンミン自信を演じてはいますが、やはりフィクショナルなもう一つの世界として成立し展開していきます。
作品設定の限界と利点
なぜフィクショナルとしてとらえていくかといえば、あくまでこの作品が実録モキュメンタリー風ということもありますが、設定には限界がつきものだからだと思います。
まず気になる人は気になってしまうかもしれない限界というのが、やはりどうあがいても”主人公”であること。
ファン・ジョンミンがやはり行動力があるし、優しいしリスクがあっても必死に頑張っていく。
話を前に進める存在でなければいけないのは物語という世界の中心ゆえに仕方ありません。
英雄である点について、一人奮闘する点について、実録風でもヒーローすぎるというのは仕方がないのでしょう。
私としてはその点はあまりやりすぎない形で良かったのと、靴を脱ぐ点とか些細な点でファン・ジョンミンさん本人が感じられる描写があったりでよかったですが。
一方で、実在の俳優を主軸にしたことでセットアップ他展開のスムーズさとスピードはかなり良い。
だって説明が要らないですから。
もちろん冒頭のニュース映像や舞台あいさつなどから大人気スターであるということは示されます。
ただ必要なドラマ、人とのつながり他準備に時間を費やさず進むのは利点です。
ファン・ジョンミンアイドル映画として
さて、ヤクザでもないし荒くれ刑事でもない、強大な力を握る市長でもないし胡散臭い祈祷師でもない。
そんなファン・ジョンミンがファン・ジョンミンとして発揮できる力は?
それはもちろん卓越した演技です。
これが最高でした。
そもそも、これは映画です。つまり現実のファン・ジョンミンはこの映画の中でのファン・ジョンミンを演じているのです。
そこでさらに、事態を脱すために彼はまた芝居をする。
演技の中の演技。これは好物であり最高に素晴らしかったです。
一芝居打っての救難メッセージ。
受け手があのパク・ソンウンでちょっとそのカメオに喜んじゃいましたし、ジョンミン代表格のキャラクター名を使っての仕掛けだったのもファンはニヤリとするところ。
また病気を装うところの体当たり感。ラスト近くでの命乞い。
命乞いは正直ほんとに弱さを認めた部分として出したのかと騙されました。
まさに全身全霊で、サバイバルするファン・ジョンミンを演じているファン・ジョンミン。堪能しました。
さすがの空気作り
暴力描写に関してはさすが韓国バイオレンスなクオリティ。
それを助長する雰囲気づくりでもあるロケ地とか美術も素晴らしいですね。絶妙に生活感があって生々しいゆえに(性描写もあるし)より気味悪い犯人グループのアジト。
全体にオレンジ調のライトを使ったと思えば、監禁される小屋とかはグリーンのライティングなんかも入っていて。
他の警察パートなど外部領域では、割と蛍光灯的なホワイトや白昼色が多く対比されることもありますけど、あの薄汚れて今すぐ出ていきたい感じのつくり込みはすごいですよね。
山の中のロケ地も含めて良く見つけるもんです。
少し弱かったように感じてしまうのは、警察側のパートなどでしょうか。
もちろんあまりファン・ジョンミンに集中しすぎないようにするためだとか、視点切り替えからの飽きさせない構成でしょうけれど、必然性は少なかったように思います。
悪役もファン・ジョンミンに負けない凄腕ぞろい
班員グループ側にもしっかりとキャラがあった点は良かったです。
大柄のコ・ヨンノクを演じたイ・ギュウォンなんてスクリーンデビューですが、セリフも少ないのに忘れがたいです。
不憫な立場のヨンテを演じたチョン・ジェウォンも印象深いです。不良に脅されている中学生みたい。
もちろんリーダーであるチェ・ギワン役のキム・ジェボムは言わずもがな。猟奇殺人鬼のイカレ野郎を生み出す点において、なぜかダサくなりがちな邦画に比べて韓国はなぜこうも巧いのか。
この犯人グループが強いからこそ、ファン・ジョンミンの輝きに負けない強い闇がありますし、またそれぞれの軋轢からファン・ジョンミンの脱出機会が生まれてハラハラする。
いずれにしてもファン・ジョンミンの力とスター性を堪能させつつも、設定の限界ぎりぎりまでも使い尽くして見せるいいスリラー映画ですごく楽しめました。
というところで今回の感想はここまでです。
公開規模が小さくて上映館数、回数も少ない感じなのが残念ですが、おすすめの一本なので機会がある方は是非。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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