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「ラブレス」”Nelyubov” aka “Loveless”(2017)

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映画レビュー
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「ラブレス」(2017)

作品解説

  • 監督:アンドレイ・ズギャビンツェフ
  • 脚本:アンドレイ・ズギャビンツェフ、オレグ・ネギン
  • 製作:アレクサンダー・ロンダヤスキー、セルゲイ・メルクモフ、グレブ・フェティソフ
  • 音楽:エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
  • 撮影:ミハイル・クリチマン
  • 編集:アンナ・マス
  • 美術:アンドレイ・ポンクラトフ
  • 衣装:アンナ・バルトゥリ
  • 出演:マリアナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン、マトベイ・ノビコフ、マリーナ・バシリエバ 他

「裁かれるは善人のみ」(2014)などのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督による新作。

今作はカンヌでパルム・ドールを争い、そこでは審査員賞を受賞。ゴールデングローブ賞、アカデミー賞にも外国語映画賞でノミネートを果たしており、批評家から高い評価を得ている作品です。

以前より注目の作品でしたので、公開の週にさっそく観に行ってまいりましたけど、ロシア映画で外国語賞タイプっていうアートハウスの割には、幅広い層が来ていました。

まあ映画が終わるときには、その重々しい空気がすごかったですけど。

~あらすじ~

離婚をひかえたある夫婦に、ひとり息子のアレクセイがいた。12歳の彼の前でくり広げられるのは、愛の消え去った男女の罵りあいとエゴだった。

夫婦はそれぞれ、早く関係を断ち切って、お互いの新しいパートナーと人生をやり直したいのだった。

そんなとき、アレクセイが消えた。

警察は事件性の無さから協力できず、彼の捜索はボランティアに託される。夫婦はアレクセイの捜索を始めるが、手掛かりはない。

あるのはただ、止まない互いへの不平、不満、醜い自己愛だけだった。

感想レビュー/考察

強烈。

最後まで残酷で厳しく、冷たくて。

そして映画が終わっても、この作品が観客を解放することはないでしょう。それだけ力強く、また今作が描いていることが真実であるからかと思います。

おそらく、暴力的な面ではなく、しかしもっとも不快で目をそむけ耳を塞ぎたくなる映画です。しかし真っ直ぐ見つめなければいけません。

離婚を迎える夫婦。

ひとつの人間関係の終焉に、はっきり言って邪魔物になってしまい、宙ぶらりんになってしまった少年アレクセイ。

彼を探すことを主軸にした物語ですが、犯罪ものとかミステリーではなくて、現代における私たちの自己愛と欲求満たすことへの渇望を浮き彫りにするお話でした。

オープニングから永遠と寒く荒涼とした風景。

そして印象的なあの廃墟。あそこに逃げ込んだと思われたアレクセイですが、彼がいた、そして夫婦が暮らしていたあのアパートと、何が違うでしょうか?

一見すると暖かなあのアパートも、家族の心としては、あの廃墟のように荒んでいるのです。

その廃墟から自分だけは逃げ出し、それぞれより愛(セックス)とラグジュアリーを求めて進む夫婦。

作中一度も協力したり、互いを支えあうこともない元夫婦。

序盤で繰り広げられる最低な会話のあと、閉められた扉の裏にいたアレクセイのショット。声も出さずに泣き叫んでいたあのイメージを観客だけに見せる。そして次の朝、こぼれる涙も観客だけに見せています。

その時両親は何をしていたのでしょうか?

ただ父も母も戸を閉めて周囲を隔絶し、スマホの画面を見ていただけ。

それはそのまま現実の私たちの姿かもしれません。私たちもまた、画面だけをみて世界を見ず、そこにある見るべきものの涙や悲しみを見ていないかもしれません。

自国の戦争にも、苦しむ民衆にも、そして自らの家族にさえも無関心。憎しみがなくとも、関心すらないという非常に残酷な我々は、ただ自分のことを考える。

幾度となく画面に枠をいれて、心と空間的な遮断をガラスや扉で表現していますね。

アレクセイも心を閉ざすようにドアを閉めています。またアレクセイの部屋に「Mr.インクレディブル」のポスターが貼ってあったりして、心が裂けるようですよ。

恐ろしく身勝手で、自己の快楽だけを渇望し愛を見失った現代の私たちに向けられた鋭い刃。

しかしズビャギンツェフ監督が唯一残している要素が、監督の少しだけ、でも確かに残っている世界への希望を見せていると思います。

あのボランティアです。捜索隊の人々は、今作で唯一他己的に行動します。彼らにならなくては。

もう全てが遅すぎるのかもしれません。

この世界の愛が消え行くときに、涙を流しているときに、私たちは何をしているのか。

アレクセイがまだ消えていないのだとすれば、絶対に失ってはいけません。

辛く苦しいほど、今の私たちを浮き彫りにする作品。観終わるという概念すらないような今作は、その時間も空気も観客に流し込み続け、絶対に忘れられないものにしました。

ものすごく鬱映画。しかし繰り返し観たいとも思わせる。

おそらく、少なくとも私にとっては教科書だからかなと思います。絶望的な無関心の世界を観て、まだ手遅れではないと願い現実に向き合うための。

あまり言わないですけど、これは絶対に観ておくべきと思う作品でした。

ちょっと感想は遅くなりましたけど、劇場で、またはソフトが出てからでも良いので観てほしい作品です。

レビューはこれでおしまいです。それでは、また。

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