「ファブリック」(2018)
- 監督:ピーター・ストリックランド
- 脚本:ピーター・ストリックランド
- 製作:アンドリュー・スターク
- 音楽:Cavern of Anti-Matter
- 撮影:アリ・ウェグナー
- 編集:マーチャーシュ・フェケテ
- 出演:マリアンヌ・ジャン=バプティスト、シセ・バベット・クヌッセン、ジュリアン・バラット、ヘイリー・スクワイヤーズ 他
「The Duke of Burgundy」などのイギリス人監督ピーター・ストリックランドによるファンタジーホラー。
あるドレスを購入した女性に降りかかる様々な怪奇現象を描いています。
マリアンヌ・ジャン=バプティストやシセ・バベット・クヌッセンが出演、またケン・ローチ監督の「私はダニエル・ブレイク」で素晴らしい演技で印象強いヘイリー・スクワイヤーズも出演しています。
他しか予告が上がった当時のことは何となく覚えていて、A24が絡んでいたような記憶がありましたが、映画館で観たときは基本的にはBBCとBFIくらいだったような・・・?
今回は日本での一般公開というわけではなく、HTC渋谷で毎年行われている未体験の映画ゾーンにての上映となりました。
なので、鑑賞機会としてはかなり制限されていますね。
私はちょうど休みということもあって観に行くことができました。まあ入りとしてはそこそこって感じでしたかね。
若い人がチラホラいましたが、あそこは場所柄いつもそんな感じがします。
正直絶対に見たいというわけではなかった作品です。
ただ今の時代に呪いのドレス的なプロットで頑張ろうということや、ピーター・ストリックランド監督作は見たことがなかったため、せかっくのチャンスという意味もありました。
冬のセールが始まる頃。あるデパートでは大セールが行われていた。
最近夫と別れ息子と暮らしているシーラは、現在新聞の投稿にて男性との新しい出会いを探している。
彼女はデートを取り付けると、新しいドレスを買いに行こうとデパートへと出かける。
そこで真っ赤なドレスを見つけると、店員は言葉巧みにそれを勧め、シーラはドレスを買うことにした。
しかし、ドレスを買ってから奇妙なことが起き始める。クローゼットから音がしたり、しまっておいたはずのドレスが別の部屋に落ちていたり。
そしてそのドレスを着ていた時、犬がものすごい勢いで噛みついてきた。
数々の不可解な出来事に怖くなるシーラであったが、手放そうとしてもドレスは自我を持つように付きまとって来るのだった。
ダリオ・アルジェントの「サスペリア」を彷彿とさせる魔術や魔女の呪い的世界観に、非常に独特なユーモアが混ぜられた作品でした。
そういえばこの作品が映画祭で上映された際に、実はルカ・グァダニーノ監督によるリメイク版の「サスペリア」が同じく上映されていたとかで、なんだか変な運命を感じますね。
今作自体は決しておどろおどろしいとか滅茶苦茶怖いというわけではありません。
ホラー映画としてはやや外した描写になっているでしょう。
殺しのドレスと言いつつも、実際にドレスと持ち主の戦いは繰り広げられず、間接的というかほのめかし程度です。
これはスプラッタではなくちょっとホラー寄りのファンタジーだと思います。
そしてストリックランド監督にとって大事なのは脚本の一貫性、整合性ではなくそのスタイル。
つまりカラーが溢れ、多層に折り重なるヴィジュアルと洗脳的な音楽、奇抜なキャラクターたちと横断する笑いです。
アリ・ウェグナーの撮影は一画面に反射とその反射、さらにガラス越しの顔などを同居させ、一つの目の前の世界に実は幾重もの裏側があったり、何かが見ているというような示唆を与えます。
また音楽もあわせて非常に映像が物語る作品になっています。
さらに今作はその根底にあるテーマとして、キャピタリズムと消費社会の投影があります。
ファッションを舞台にはしていますが、小売業全てにおける比喩でもあると思います。
作品は狂ったように店の前に押し掛ける客と、それを見下ろす店員の視点などから始まります。
そして、TVから明らかにCMとしては長すぎる尺で流れてくる店の冬のセールの広告。
それは古いTVの画質の悪さと相まって、その洗脳するようなサイケデリックな力を強めています。
魔女の力と比較して、CMとはこうした消費社会における集団催眠とも思える描写です。
どこか何か(おそらく人間性)が欠如しつつスタイリッシュにまとめられた売り場。
そこでシーラが耳にするのは数々のかっこいい感じがするけど何を言っているのか分からない店員のセリフの数々。
「サイズが合わないと思う」に対して、
「次元とプロポーションは私たちの測量のプリズムを超越していくものなのです。」
本気で何言ってるか分かりませんが、それはさながら呪文のようだと考えると、誘い込み何やら言葉を並べて目的の物をつかませるという意味では、小売業の舞台は魔女たちの館だなとも思えてきます。
決して直接的に強くキャピタリズムを批判している作品ではないですが、ストリックランド監督は独自のスタイルから現代に宿る魔物を描こうとしていると思います。
脚本については微妙に抜けていて、特にシーラのパートからレジとバブスのパートへの受け渡しはやや曖昧です。
まあ話運びのおかしさも含めてのジャンル映画再現と思えますが。
死のドレスの物語をその色彩と音楽で映し出す。スタイル重視の作品でしょう。
いろいろと明確になっていない点などは多いですが、魔女と消費社会を掛け合わせる着想はとても面白いものだったかと思います。
色彩や音楽など感覚に対する刺激十分のカルト作品として楽しい作品になっているのではないでしょうか。
というわけで今回の感想は以上。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
ではまた次の記事で。
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