「インヒアレント・ヴァイス」(2014)
- 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
- 脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
- 原作:トマス・ピンチョン 「LAバイス」
- 製作:ポール・トーマス・アンダーソン、ダニエル・ルピ、ジョアン・セラー
- 音楽:ジョニー・グリーンウッド
- 撮影:ロバート・エルスウィット
- 編集:レスリー・ジョーンズ
- 出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、キャサリン・ウォーターストン 他
公開館数すくなすぎな今作。「ザ・マスター」(2012)から2年ぶり、再びホアキン・フェニックスと組み、そしてトマス・ピンチョンを原作に。
70年代、つまりは浮かれていた60年代が終わってしまったその喪失を感じさせるものとなっていますね。
私は60も70も体験したことのないわけではありますが、ある種の時代のノスタルジーとか現代までのつながりとか感じるところは多く、勉強にもなります。
1970年、ロサンゼルスにて私立探偵をしている、マリファナ中毒のラリー・”ドク”・スポーテッロ。
そんなドクの元にある日突然、元カノのシャスタが現れる。幻でもみている気分のドク。
シャスタは頼みがあってやってきた。不動産王のミッキー・ウルフマンの妻とその愛人が、ウルフマン誘拐を計画しているというのだ。なんとか助けて欲しいと真剣に涙を浮かべるシャスタに、ドクは調査に乗り出す。
マリファナでフラフラなドク、画面も映画のお話もなんだか頭に入りにくい。「マルタの鷹」
、「三つ数えろ」のように、複雑に入り組んだ複数の陰謀がこのヒッピー私立探偵を惑わせます。
1回の鑑賞ですべて把握するのは難しいのではないでしょうか?
どこまで現実かわからず、もしかして幻覚?とも思える宙に浮くような話のテンポ。
そして捜査で聴きこむときや新たな情報を得るときは、カメラがすっごくゆっくり、わからないほどのスピードでズームしていきます。
この事件への没入感も感じられますが、同時にぼーっと幻をみて頭がふわふわする気分にもなりました。
時代は70年、ドクのようなヒッピー文化が終わり始めるころ。マンソン事件、ニクソン体制、アメリカ的な自由主義文化が政府によって圧されていく。
ドクを頼るひと、彼が出会う人。ヤク中はマリファナでなくヘロインでズタボロになり、マンソンよろしく何やら変な団体を作ってジジイが若い女を好き放題する。
ヤク漬けで逃げられず依存するしかなかったのはシャスタもでした。察したドクは辛そうな表情。
平和と愛で生きようと麻薬も自由なヒッピーに、ヘロインを与え洗脳して思いのまま支配する。汚い仕事までやらされて、家族は崩壊していました。
そうした政府や右翼、体制の餌食になったのは、あのチョコバナナ依存症刑事も。ジョシュ・ブローリンが髪型だけでなく頭の中も四角い男を好演。
「モット!パンケイク!」と叫ぶおかしさに、日系の店で日本の歌が流れてる中パンケーキを食ういびつさも、幻覚だか現実だかふらつかせてきますね。
彼自身また、大事な相棒を殺されても何もできない苦しい立場にあったんですね。
警察と政府ら大きなものが、堅物だが真面目な刑事を食っていたんです。
ちょいとバディものなドクとビッグフット。ドクは敵討ちを想っていたのでしょうか?それともただ利用された?
しかしいつものようにドアを蹴破って、同時に謝る二人はちょっと微笑ましかった。
麻薬密輸、いかがわしい歯医者団体、殺し屋、富豪の洗脳とホテル買収計画。そこにドク個人の事も絡み、難しくかつどうでもいいと思えるヘロヘロ気分な一件。
犬にされた男を麻薬洗脳から抜けた女へ帰し、家族は再生された。まばゆい夕陽が男とドクの乗るオンボロ車を照らします。なんとも希望の溢れるショット。
結局シャスタは帰ってきて、それでももとには戻らない。二人の激しいセックスの後「ヨリを戻そうとは思ってない」ドクは、「もちろん」と言います。ラストでは入れ替わって同じことを言う2人。
ドクにとってシャスタは60年代の輝きでしょう。二人でマリファナを探して雨の中裸足で駆けた思い出。それはもう無くなってしまった。
ドクは分かっているからこそ、やり直そうとは言わないんでしょうね。無垢なヒッピーは利用されて、平和も愛もない世界の創造へ時代が走った。
今回のドクの探偵物語。ラリってふらついたその足で体験したもの。すべてはもしかしたら、優しかった時代に戻りたいドクの幻覚だったのかもしれませんね。
フィリップ・マーロウのようにタフでも洞察力に優れてもないですが、私にはドクがヒーローに見えましたよ。闇から人を救った勇者です。
探偵ものとして、謎を解いてすっきるするものでは無いです。というか事件を理解するのは無理だしそれは目的じゃないと思います。
それよりも、何かイノセントな人々や時代が消えてしまった、その喪失を味わってほしいと私は感じます。それが、監督がナレーターを通して語りたいものなのではないかと。
というわけで個人的にかなりハマった映画です。おススメ!もう一度見たいな~
それではまた!
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