「ミツバチと私/20000種のハチ」(2023)
作品概要
- 監督:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
出演:ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、アネ・ガバラン
感想/レビュー
東京国際映画祭で子どものトランスジェンダーを描いた作品だと、数年前に「リトル・ガール」を観たことを思い出しました。
昨年は「私たちの場所」がすごく良かった作品の1つであったり、せっかくなので他国の状況を見たいという理由で性に関しての作品は興味を持っていました。
今作はその中でも前評判がすごく高いようなので期待の作品の一つ。
結論から言うとミックスな印象にはなりました。
作品は想像していた以上に淡々としていました。
状況説明もそこまでせずに始まり、観ながら全体を、主軸になっている子どもを観客も自分で知っていくような仕組みになっています。
映画という媒体でのビジュアルからは性差を感じにくく、また会話においても家族の中で揺れがある。
ただずっとその子を追いかけていく中で、私自身がなんとなくですが理解していくような。
その観客を前のめりにされて、ただの俯瞰者にしないような意味での淡々としたスタイルはすごく良かったのではないかと思いました。
しかし一方で目の前にあるストーリー展開はメタファーは巧いような気もしますが、必然性についてやや疑問というか。
プールに行くから、もちろん男子女子の区別や会員証における名前の件が出てきたり、その後で同じく水着とかを絡めて森の中で泳いだり。
蜜蝋を通して描かれていくのは、母が改めて自分を見つめ直すことであります。
それはアイトールを子に持つ母としての自分を見つめ直すことです。
そしてもちろんアイトール本人も自らを形作っていく。そこにはルシアである自分を見つけていく過程も含まれています。
様々に性自認に関する過程が描かれていきますが、すごく淡々としすぎているせいなのか記号的にすら感じてしまったのが正直なところ。
両親だけでなくて祖母など様々な家族を、世代を巻き込んで議論展開することは大きな意味があったと感じます。
母のドラマなんかも見えましたし。その中でグサリと来たのは、”性別を区別しない。男女と分けない。”論理が、当事者を傷つけることがあること。
本人は性に関して話し自己肯定を求めている中で、悪意ある発言ではないにしても、性別を議論から外してしまうことがどれほど相手を傷つけるか。
ここは大きな気付きになりました。
聖人の像が行方不昧になっている。何かが欠けている状態が続く中で進む物語。
修復していく中で名前を呼ぶ。どう呼んでほしいかが大切で、お兄ちゃんの優しさに胸打たれます。
主演のソフィア・オテロは受賞したのも納得です。静かな映画なので難しかったと思うんですよね。
ドラマチックに印象をつけるシーンもない中で、当惑の中でハッキリとではなくてもしかしそこにある違和感を抱えた子どもを演じきってみせています。
こちら一般公開も決まっていて、来年年明けに公開されるようです。
パーフェクトとはいかなかったんですが、良い作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。
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