「誰も助けてくれない」(2023)
作品解説
- 監督:ブライアン・ダッフィールド
- 製作:ティム・ホワイト トレバー・ホワイト アラン・マンデルバウム ブライアン・ダフィールド
- 製作総指揮:ケイトリン・デバー ジョシュア・スローン
- 脚本:ブライアン・ダフィールド
- 撮影:アーロン・モートン
- 美術:ラムジー・エイブリー
- 衣装:ナタリー・オブライエン
- 編集:ガブリエル・フレミング
- 音楽:ジョセフ・トラパニーズ
- 出演:ケイトリン・ディーヴァー 他
異星人の侵略を受けた孤独な女性の闘いを描くSFスリラー。
「ザ・ベビーシッター」や「アンダーウォーター」など脚本家としても知られるブライアン・脱フィールドが監督を務め、「ショート・ターム」や「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」などで活躍するケイトリン・ディーヴァーが主演を務めます。
全編にわたりほとんど彼女の身が登場人物となっており、また90分ほどの作品ですがそこに1つだけしかセリフがないという結構風変わりな作品。
もともとダッフィールド監督が特に契約のないままに自分で書き出した脚本だそうで、FOXが権利取得して、監督は自ら務めることにしたようです。
ニューヨークとロサンゼルスの劇場でプレミア上映され、その後、アメリカでHuluオリジナル映画として公開。日本ではDisney+で配信公開となりました。
~あらすじ~
ブリンは町はずれの家にたった一人で住んでいる。彼女が幼いころからの家ではあるが、母を亡くし一人になった彼女は、仕立て屋の仕事をして生活する。
家で熱中しているのはミニチュアで街を作ること。
町に出て仕立て屋仕事の郵送を行う際にも、彼女は帽子にサングラス、なるべく目立たないようにしている。
そんなブリンはある夜に、物音で目を覚ました。
部屋を出て階下を覗いた彼女がみたのは、異形の姿、異星人だった。念力のようなものを使うエイリアンを相手に逃げ回った彼女は、手に持っていた模型で咄嗟にエイリアンの頭部を突き刺し撃退。
このことを町の人に知らせようとするが、彼女の過去が彼女を孤立させる。
一方、エイリアンは想像よりも多く襲来しており、近所の家は侵入されブリンの家にも再びやってきた。
感想と考察
なんとなく配信予定の一覧にあり、正直監督ではなくて主演のケイトリン・デヴァーが好きなので観てみた作品。
しかし拾い物でした。
SFホラーとしては結構普通なエイリアン侵略ものです。
しかもこの2023年になんとも古典的な造形をしたエイリアンが登場します。いわゆるグレイタイプ。
奇怪な動きや異なる種類、そして身体を使っての更新などヘンテコなところもありますけれど、まあものすごくユニークってわけではない。
危機を通して抱える問題に向き合う女性
私としては今作は「10クローバーフィールド・レーン」などに近い作品と思っています。
エイリアンとの遭遇や闘いそのものがメインではなくて、それを通すことで主人公が抱えている問題に直面するタイプの作品です。
ほとんど始まった30分くらいで、主人公の周囲の状況と初めてのエイリアン遭遇を見せてしまいます。
しかも事故的とはいえ1キル達成。もしもエイリアンをやっつけるのがゴールなら上映終了ですね。
しかしそのあとの描写こそが肝心なのです。
ブリンはエイリアンの死骸をとりあえず置いて置き、音信不通で電気も使えない家から出てなんとか町に向かいます。
そこで彼女を見た町の人間たちは皆彼女をガン見。ブリン自身も気まずそうです。
そして序盤にも眺めているだけで、手紙に”あなたの両親”と書かれた二人の男女に警察署で出くわす。
おばさんはブリンに唾を吐きかけ、男性はそのまま去る。その様子を見ていた署の警官も特に何かするわけでもない。
エイリアンの侵略以上に根深いものが、どんどん明らかになっていく。そこにこそ今作のメインプロットがあります。
没入型で人物を観察する
全編に通して全然セリフがないからこそ、観客は必死にブリンの行動や映りこむ様々な要素を見ていきます。
眺めるというのではなくて注意深く見ていく。
だからこそ観客の関わり具合は深く、のめりこむ形になる。
理想の町づくりの意味
そこでブリンが家で一人熱中している、町の模型作りに関しても意味合いが分かってきます。
彼女は理想の町を求めているのだと。悠々自適の生活ではあるものの、外部との接触も一切せず、電話が来るとそのまま切ってしまう。
一方で彼女は笑顔の練習をして、近所の人に挨拶を試みる。
孤立しながらもブリン自身は寂しさを抱えているわけです。
模型は彼女にとっての理想の投影なのですね。
唯一の砦である家を宇宙人に侵略され、ブリンはサバイバルモードになるわけですが、ここでの活躍は観てて楽しいです。割と豪快にフィニッシュムーブ決めてて最高。
ケイトリン・デヴァーも本当に芸達者。幅広い感情を見せるブリンを、セリフのない中で所作などからよく演じています。
やはり素敵な俳優です。
向き合わざるを得ない状況へ
エイリアンはその人間を乗っ取る過程で、その人物の記憶や幸福な瞬間、強烈な恐怖や後悔を引き出す。
それはブリンにとって、つらい過去と向き合っていくこと。
彼女はモードへの手紙をずっと書いていますが、その中で劇中、”I will never forgive myself”(一生自分を許すことができない)と綴っています。
エイリアンに半ば強制的に過去とそして現実と向き合わされたブリンは、そのあとで自分のコピーを生み出される。
そこでコピーと対峙して彼女はコピーを刺し殺しますが、ここはまさに許せない自分を殺すこと。
何もかも引きづっている自分自身との決着をつけていることのメタファーです。
危機に直面したことで、避け続けていた町の人たちに向き合い、なによりも自分自身の過去と自分に向き合う。
奇妙だがフレッシュな着地
序盤の処理からプロットが分かり始め、すごくおもしろかったですが、最後にもうひとひねり。
ブリンの内面の旅が世界を変えていくのは正直「!?」でしたが、まあ序盤の”理想の町づくり”を現実のものにしたのだと思えば筋は通っていますし、究極の和解策というか。
おもしろい試みで、あえてクラシカルな造形からアッと驚くSFホラーを生み出したダッフィールド監督。
主演ケイトリン・デヴァーという才能もあって私としては一見の価値ある作品になっている印象でした。
FOXの作品ですが、観れるのがディズニー+のみで配信範囲が狭いのはちょっと残念。
視聴できる方は、90分くらいで短いのでぜひ。
今回の感想はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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