「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(2024)
作品解説
- 監督:グレッグ・バーランティ
- 製作:キーナン・フリン、サラ・シェクター、スカーレット・ヨハンソン、ジョナサン・リア
- 製作総指揮:ロバート・J・ドーマン
- 原案:ビル・カースタイン、キーナン・フリン
- 脚本:ローズ・ギルロイ
- 撮影:ダリウス・ウォルスキー
- 美術:シェーン・バレンティノ
- 衣装:メアリー・ゾフレス
- 編集:ハリー・ジエルジャン
- 音楽:ダニエル・ペンバートン
- 出演:スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソン 他
人類初の月面着陸にまつわる噂を題材にした極秘プロジェクトの行方を、正反対の男女のロマンスを交えてコミカルに描いたドラマ。
ケリー役を「ブラック・ウィドウ」などのスカーレット・ヨハンソン、コール役を「ザ・ロスト・シティ」などのチャニング・テイタムが演じ、物語の鍵を握る政府関係者モー役には「逆転のトライアングル」などのウッディ・ハレルソンが出演します。
監督は「Love, サイモン 17歳の告白」で知られるグレッグ・バーランティ。監督の新作って意味でも興味はありましたが、今時王道ストレートなロマコメで、しかも舞台設定を宇宙開発と月面着陸の時代ものにするというので気になっていた作品です。
公開した週末に都内の映画館へ行ってきましたがかなり混んでいました。少し年齢層は高めでしたね。作中の良い感じのユーモアで笑いに包まれる良い体験でした。
~あらすじ~
1969年、アメリカ。ケネディ大統領が宣言した「人類初の月面着陸を成功させるアポロ計画」から8年が経過するも、NASAは依然として失敗続きで、予算は膨らむ一方。
さらにベトナム戦争の悪化によって宇宙開発をしている場合ではないと非難の声も大きくなっていく。
この最悪の状況を打破するために、政府関係者のモーを通じてNASAが雇ったのは、ニューヨークで働くPRマーケティングのプロ、ケリー。
ケリーはアポロ計画を全世界にアピールするためなら手段を選ばず、宇宙飛行士たちを「ビートルズ以上に有名にする!」と意気込み、スタッフにそっくりな役者たちをテレビやメディアに登場させ、“偽”のイメージ戦略を展開してく。
しかし、実直で真面目なNASAの発射責任者コールは、ケリーのやり方に反発。
それでも、ケリーの大胆で見事なPR作戦により、月面着陸は全世界の注目を集めるトレンドとなることができた。
そんな時、モーからケリーにある衝撃的なミッションが告げられる。
感想レビュー/考察
現代の要素を入れ込んだ王道なロマコメ
もともとはApple制作の下AppleTVでの配信をベースに進められていた作品でしたが、試写段階での好評さから劇場公開のスロットに入れ込めると判断され、シアターで見ることができた作品。
あと企画の段階ではスカーレット・ヨハンソンの相手役はクリス・エヴァンスだったらしく、再演が噂になっていましたが、色々とあって断念され、チャニング・テイタムが務めることになりました。
片方が型破りなマーケ主任で、相方は非常に堅物なまじめチーフ。こんな分かりやすい反対方向を向いた二人が展開するロマコメ。
21世紀の、そして2020年代になってもこんなシンプルなロマコメを楽しめるというのはそれ自体がなんかいい感じです。
このキュートな主演2人に引っ張られつつ、月を目指しての計画を背骨において進んでいく作品。
嘘偽りと真実の間でスイングする
加える形で題材に置かれているのは、今でもまだ騒がれている、アポロ11号の月面着陸とその映像がフェイクではなかったのかということ。
そもそものケリーのマーケ手法に関しても、そしてこのフェイク映像作戦に関しても、現代的な皮肉も抱えています。
陰謀論とか意味不明な論調というモノはフェイクニュースにあふれた現代にこそ響いてくる要素だと思いますし、またケリーの手法が良い悪いは別にしても、何でも売り出せる。
つまり人々は巧みな宣伝とマーケティングがあれば何でも信じてしまうというシニカルな面も含んでいるということです。
全体にはエンタメですが、嘘偽りと真実の関係性とロマンスを込めて、楽しいスタイルで昇華させていくのは、グレッグ・バーランティ監督の得意なところなのかと思いました。
監督の名前を知らしめた「Love, サイモン」自体が、ジェンダーという切実なテーマを置きながらも、自身がゲイであることを隠しながらそれでも真実を変えられない青春をキュートに描いた作品でしたから。
人物の描写がさくっと巧い
今回は序盤のうちはケリーとコールが徐々に距離を詰めていく流れです。ケリーは登場時点から妊婦のふりまでしてマスタングを売るための線r若をプレゼンする。彼女の倫理ラインというモノがすごく分かりやすく示されるのです。
嘘も方便というか、そもそも嘘をつくということも目的のためであり、相手が信じるのであれば問題ないということです。
対するコールはまじめで仕事熱心、爆発に吹きとばされていても、精密で確実な実験と訓練を突き詰めていく男。間違いとかズレとかは排除し、正しいことを正しくやろうとするのです。
正反対の二人がけん制しあいながら、「なんだあいつ、ムカつく。」ってお互いを想いながらどんどん近づくなんて、学園漫画みたいな恥ずかしさすらあるロマンスですよ。
歩み寄る二人の間に落とされる大きな爆弾
そこで良い感じの二人が、お互いにお互いのことを知っていった上で、転換点。
ちょうどケリーはどうしてここまでコールが実直なのか、その背景にアポロ1号の事故のことがあると知るころ。モーから念のためのプランとして、TV中継する月面着陸の様子をスタジオで作り上げろと言うのです。
ケリーにとっては、コールがアポロ1号の火災での乗組員たちの死を、彼自身がずっと背負っていく業だとしてここまで本気で月への旅路に挑んでいると知ったばかり。
なので、これまでいかに月面計画に関して嘘ついて俳優を集めてきたり、オメガとかプロダクトプレイスメント的なことをやってきたとしても、一線を越えることになります。
嘘は嘘、真実は真実、人々が何を信じても
「あの宇宙船を巨大な広告看板にはしないぞ。」
様々なプレゼンを受けてコールは言います。
彼はアポロ一号の犠牲者たちのために祈り、墓と記念碑を掃除する。ケリーと出会った際にも行かなくてはいけないと、欠かさずに訪問している。
この計画は故人の意思をも継いだものなんですから、計画自体をフェイクにして創作するなんて、最大の裏切りなんです。
この中盤からのフェイク映像作りを抱えると、ロマコメは一物抱えた状態で、いつ真実を打ち明けるのかにも焦点が合わさってきます。時限爆弾が投下されたわけです。
結果としてコメディ要素を含んでいきますが、ケリーはコールから学んでいく。事実に向き合っていくこと。マーケとして作り上げたものや嘘を売り込んできた彼女は、人に信じ込ませてきた。
でも重要なのは自分が何を信じているかであるし、周りの人々が信じていようが嘘は嘘でしかなく、そして真実は真実なのです。
自身に向き合い続けているコールを見て、ケリーも自分に向き合う。何個も持っていたID、何処でも生きていける仮面。すべて捨てて初めて、自分自身の真実で勝負。
月面着陸はした。実施のところソビエトが事実無根とか非難した記録はないですし、なぜか陰謀論関連で盛りあっているネタですが、事実は事実。
この大きさのレベルではなくても、現代の私たちはどこかケリーに似ているところがあるはずです。なにかを着飾って嘘を使い自分をよく見せたり。
主演二人の掛け合いのキュートさ以外にも、そうしたフェイクな自分を見直す意味でも楽しい作品でした。
今回はさくっとした感想でしたが、ここまで。ではまた。
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