「TITANE/チタン」”Titane”(2021)

「TITANE/チタン」(2021)

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作品概要

  • 監督:ジュリア・デュクルノー
  • 脚本:ジュリア・デュクルノー
  • 製作:ジャン=クリストフ・レイモンド
  • 音楽:ジム・ウィリアムズ
  • 撮影:ルーベン・インペンス
  • 編集:ジャン=クリストフ・ブージィ
  • 出演:アガト・ルセル、ヴァンサン・ランドン、ガランス・マリリエール、ベルトラン・ボネロ 他

「RAW 少女のめざめ」において、青春映画とカニバリズムを見事融合させ衝撃と驚異の感動で世界を圧倒したフランスのジュリア・デュクルノー監督最新作。

交通事故が原因で頭部にチタンプレートを埋め込まれている女性が連続殺人を犯し、車との性愛によって妊娠しつつ逃走しある男と不思議な関係を築くという、あらすじ聞くだけでまたやってくれたとガッツポーズできる内容になってます。

主演はこれまで演技経験のないモデルなどを経歴にもつアガト・ルセル。また主人公を息子として保護する男を「ティエリー・トグルドーの憂鬱」のヴァンサン・ランドンが演じます。

その他監督の前作「RAW 少女のめざめ」で主演だったガランス・マリリエールも出ています。

ジュリア監督の新作とのことでかなり話題でしたが、やはりその狂気であり驚愕の内容というのも多くの批評家や映画祭を震撼させていました。

カンヌ国際映画祭でのプレミア上映、そこで最高賞のパルムドールを獲得。その後も快進撃は止まらずに、セザール賞や英国のアカデミー賞BAFTAにても監督賞などノミネートを果たしています。

海外での話題と、私にとって前作はその年ベスト級の傑作だったため本当に楽しみにしていた一本です。

日本では年をまたぎ4月の公開になりました。早速公開週末に観てきましたが、映画付きであろう人がある程度いるって感じでしたね。

「TITANE/チタン」公式サイトはこちら

~あらすじ~

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車のショーでダンサーをしているアレクシア。

挑発的なダンスに彼女のファンも多いが、彼女は恋愛に興味はない。

幼いころに交通事故にあい、頭部の損傷を治療するためにチタンプレートが埋め込まれているからか、彼女の性愛の対象はむしろ車の方にあった。

ある時ファンの男がしつこく付きまとい、暴行を加えてきたことからアレクシアは反撃しその男を殺す。

そこからすべてが狂い、いやアレクシアにとっての本質が始まった。

彼女は愛する車との激しいセックスを経験し、その後さらに衝動的な殺人を繰り返す。

指名手配犯になった彼女は行方不明者のアドリアンという別人になりすます。

そしてそのアドリアンをずっと探し続けていた父ヴァンサンが彼女を息子として迎え入れるのだった。

感想/レビュー

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やってくれた。

映画を見るということはエンタメですが、同時にひとつ新しい世界への扉を開くことです。

驚愕がそこに待ち受けており、観る前の自分から見た後の自分への変容という不可逆的な事象が巻き起こるとき、ほんとうに映画を見ていてよかったと実感するわけです。

否が応でも観客を変えてしまう

その意味でジュリア監督が根底テーマに置く一つの、自己の変容というのがシンクロして自分にも起きることになるでしょう。

これを観て何も自分自身に影響しないなんてことはないと思うのです。

前作のようにこれまた車の事故から始まる今作は、頭部にチタンプレートを埋め込まれた坊主頭の少女をじっくりと映します。

その埋め込まれる部分はギーガーが描き出したエイリアンのコンセプトアートとかのような、生物と機械の融合体を象徴する造形が見事ですが、少女が車に抱きつきキスをしてこの作品はキックオフ。

タイトルの文字には柄のように髑髏が映る。

それはレントゲン写真のようで人間というものを透かしたメタファーにも、死を象徴するようにも思えて不穏。

ただ、エンディングにもう一度現れるタイトル文字は、その中に胎児のエコー画像が見えました。

この作品は誕生についての物語だということです。

独りの少女は死に、最終的には新たな存在が生まれるということ。

タイトルを同じく使いながらも、OPとEDでの変容を投影するのは、「RAW」でも同じことをしていました。

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精神への痛みの理解の深さ

さて、ジュリア監督といえばボディ・ホラー。

その痛々しくグロテスクな、吐き気を催すほどにガツンとやられる描写が特徴です。

前作では初めて指を食べるシーンが個人的にいまだに記憶に残るほど効いています。

今作では乳首ピアス周りが個人的には結構えぐかったです。殺人系はそこまでですかね。

ただし、肝心なのはやはり妊娠と出産に向けての描写でしょうか。

単純な身体的負担というだけではなくて、今作の脚本上アレクシアがアドリアンに変容するためにまた痛みを伴っていく。

ジュリア監督の肉体的な痛みというのは、脚本のページの上で読めばなんということはないはずです。

むしろもっとゴアの強い映画なんていくらでもあるでしょう。

しかし彼女によって映像化されたときに持つ鋭さ、音響や演技、演出から完成するその鮮烈さは、根底にその痛みが持つ心と精神への痛みの理解があるからと思います。

そこには女性としての(主に男性から性的対象とされる)辛さ、妊娠に伴う身体的な負担、さらにヴァンサンに見えますが男性のマチズモ(肉体を維持することや若さといってもいいかもしれません)などの心への負担からくるものと感じます。

圧倒的な孤独

強烈な殺人衝動の裏には、フェミニズムが感じられる気もします(初めての殺人が特に)が、人と本質的に違うことは前作から同じと思います。

アレクシアは反抗的な少女でした。エンジンのうなりを真似して、それに父は怒りといら立ちを示す。蹴りを入れる少女。

チタンプレートが埋め込まれてから対物性愛にめざめたのか、いずれにしてもクィアであるアレクシアの絶対な孤独。

対物性愛については「恋する遊園地」を思い出しました。真っ黒なオイルと裸体という描写も共有されています。

同じ家に住みながら終始無言でまったく異なるスタイルで食事するアレクシアと父との隔絶は、まさに映像から語られていました。

状況は暴力とセックスを経てさらに悪化し、アレクシアはトランスジェンダーのメタファー背負って孤立します。

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そこで隊長であり同じく孤独なヴァンサンに出会う。

過激な描写で境界線を越えた後、ジュリア監督はギアを変えて孤独な者同士の絆の物語にシフトしていくのです。

ここで先程の実の父との交流というか交流のなさが効果的に作用します。

完全に無口だったアドリアンがヴァンサンと会話していく。

前半までのホラーと代わり、ある存在同士の純愛ストーリーになっていくのは驚きです。

ヴァンサンの一人息子アドリアン。彼ヴァンサンの火災訓練での幻影は、実はすでにアドリアンを失ったことを示すのか。

重要なアイテムがロボットのオモチャというのも、金属を意識せざるを得ない今作では効果的に働いていると思います。

魂の身体表現であるダンス

ダンスというのが今作では複数出てきて大切に思えます。

ダンスには疎いので深く読み解くことができないのですが、凄まじいロングカットで繰り出される最初のショーでのダンスは、アレクシアにとって仕事でした。

それこそ観客は男性ばかりであり性的な眼差しの対象。

ただ後半の消防車の上でのシーンは変わっていると思います。

同じように男性に囲まれ見られていますが、ここでのアレクシア/アドリアンはすごく解放的に見えます。

もちろん、一人で踊るしかなかった寂しいアレクシアが、同じく一人で踊るしかなかったヴァンサンと共に踊るというシーンも輝いていました。

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タイトルのチタン、もともとギリシア神話のゼウス以前の支配者タイタンを指す言葉からきています。

神話的なイメージは、今回も組んでいていい仕事をしているジム・ウィリアムスの音楽にも感じますね。

カーセックスというかカーとのセックスシーンや、最後のシーンについては荘厳な音楽で、何か崇高な印象も持っていました。

ヴァンサンが自身を神であると言ったり、アドリアンをキリストと言ったり。

親殺しの要素もあったりしますしね。

変容が形から意味を取り去り、純愛が残る

こんな常軌を逸したストーリーなのに、行き着く先は純愛。

性自認や性愛対象などの境界線をぶっ飛ばし怪物的な力を見せながら、人間とは真に孤独な存在であり、誰かを常に必要としていると叫ぶ。

そばにいて支え、無条件で愛してくれるものを欲するというこの叫びこそが、普遍的な力を与えている。

この脚本を知ってから撮影まで2年かけて体を作りながら重要な魂を入れたヴァンサン。

初めての演技でありながら、アレクシアとアドリアンに完全に変容してみせたアガト。

連続殺人鬼、性を超越するもの、誕生する新たな人類。

メタモルフォーゼを繰り返すたびに器は意味を失っていきその純然たる愛だけが浮き彫りになる。

そこにこそ人間が存在するのです。

狂いながら頭から離れず炸裂する凄まじい傑作でした。

次にジュリア監督がどこへ行くのかもますます楽しみです。

こちら是非劇場で鑑賞を。というところで感想は以上。

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。

ではまた。

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