「マニャニータ」(2019)
- 監督:ポール・ソリアーノ
- 脚本:ラヴ・ディアス
- 出演:ベラ・パディーリャ、ロニー・ラザロ 他
第32回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品されたフィリピンの作品。
顔に大きな火傷跡を持つ女性スナイパー主人公となる物語。
監督はポール・ソリアーノ。
また脚本には監督として活躍するラヴ・ディアスが参加しています。
フィリピンの映画自体が私には新鮮で、第29回の東京国際映画祭で「I America」を見たくらいだとおもいます。
そちらにも今作主演のベラ・パディーリャさんが出ていますね。
今回はあらすじに惹かれたので観賞。
QA付きの上映でしたので、ソリアーノ監督と主演女優のベラ・パディーリャさんの質疑を聞くことができました。
あらすじ
フィリピンの軍でスナイパーとして活躍する主人公。
彼女は健康的な問題を理由に軍を除隊されると、生きる目的もなく毎日バーで酔いつぶれるだけだった。
しかし彼女は何かを計画しており、電話をかけ送金をする。
そしてある夜の電話から、彼女は荷物をまとめて旅立つ。
かつての故郷へと向かって。
すごく特徴的なのは、ワンシーンの長さ、というか全体のテンポの恐ろしいほどのゆっくりさでした。
個人的にはちょっと伸ばしすぎる気もしますが、退屈になるまではいかなかったです。
昨今のメインストリーム作品の展開の速さや盛り上がりの多さに比べれば、人によってはその時間の使い方に緩みしか感じないかもしれません。
ただ私としてはこの長々とした描写は、それこそ主人公に流れる時間なのだと思います。
送金処理、食事、タクシーやバスの乗り込みや移動。
アクションから待ちになる時間まで含まれ描かれます。
思うように事は進まないのです。
人生そのものに停滞と閉塞を感じるからこそ、このテンポは必然なのかもしれません。
またそれだけ時間をかけながらも、主人公を遮ることもします。
車やバイクが目の前を通りすぎるのも印象に残りますが、やはり格子上のものが画面を覆い、主人公を檻に閉じ込めたような画面構成をとることが強烈に思えます。
ベッドで空を見つめる瞬間、売店でビールを買うシーン。
過去に、暴力に囚われる彼女を画面が語ります。
その暴力の連鎖に対し、今作は歌が大きな力を持ちます。
実際に歌がおおくの場面で流れており、言葉数少ない人物に代わるように雄弁に語ります。
QAでも監督がおっしゃっていましたが、かなり入念に選曲したそうです。
警察が歌うのは実際に歌っている歌だそうで、ラヴ・ディアス監督も歌を作ってくれた(ベッドの上とラストの俯瞰シーンで流れる曲)とのこと。
主人公はフィリピン政府の徹底した麻薬組織撲滅作戦に従事し、標的を射殺します。(こちらOPの臨場感も素晴らしい)
そして再び暴力によって過去の暴力と対峙しようとする。
そこで歌が解放を示し別のアプローチをもって暴力の連鎖を終えるのです。
同じく彼女を俯瞰でとらえるカットでも、OPとラストでは大きく異なっていましたね。
心の傷そのもののような火傷跡のない顔で、涙を流す。
すこし言うと、かなり外的な要因でのみ彼女が連鎖から解放された(自力で何かをするわけではない)点が気になります。
ですが、実際に効果をあげているマニャニータ作戦の意味、平和的解決を望む者たちの力をダイレクトに感じる作品。
独特の時間の使い方含めて印象深い映画でした。
フィリピンの映画って配給面どうなんでしょうか。
配信でも良いので、たくさんの人が観れるようになると良いですね。
感想はここまでです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた次の記事で。