「マ・レイニーのブラックボトム」”Ma Rainey’s Black Bottom”(2020)

「マ・レイニーのブラックボトム」(2020)

  • 監督:ジョージ・C・ウルフ
  • 脚本:ルーベン・サンチャゴ=ハドソン
  • 原作:オーガスト・ウィルソン『Ma Rainey’s Black Bottom』
  • 製作:トッド・ブラック、デンゼル・ワシントン、ダニー・ウルフ
  • 音楽:ブランフォード・マルサリス
  • 撮影:トビアス・A・シュリッスラー
  • 編集:アンドリュー・モンドシェイン
  • 出演:ヴィオラ・デイヴィス、チャドウィック・ボーズマン、グリン・ターマン、コールマン・ドミンゴ、マイケル・ポッツ、テイラー・ペイジ 他

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「サヨナラの代わりに」のジョージ・C・ウルフ監督が、オーガスト・ウィルソンの戯曲を映画化した作品で、1920年代のシカゴのスタジオを舞台に、ブルースの女王と彼女のバンドメンバーが織りなしていく、アメリカにおける黒人の地位と文化をめぐるドラマです。

ブルースの女王マ・レイニーを演じるのは「フェンス」「ロスト・マネー 偽りの報酬」などのヴィオラ・デイヴィス。

また今作が遺作となった「ブラックパンサー」などのチャドウィック・ボーズマンが、自身の成功を夢見るトランペット奏者を演じています。

もともとジョージ・C・ウルフ監督が舞台演出家ということもあって、長編映画自体はは実は2作目となる作品。

マ・レイニーは実在のブルースシンガーで、今作でも描写がありますが20世紀初頭にアメリカ南部を周り興行し、音楽のジャンルブルースを生み出した方。

作品内でも白人社会から「ブルースの母」と呼ばれています。

今作でレイニー・を演じたヴィオラ・デイヴィス、そしてレヴィ―を演じたチャドウィック・ボーズマン両名がアカデミー賞にノミネート。

実際ノミネートは5部門で、そのうちメイクアップとヘアスタイリング、そして衣装賞を獲得しています。

残念ながら、亡くなったボーズマンは「ファーザー」のアンソニー・ホプキンスに敗れました。

初めはデンゼル・ワシントンが監督すると話が進んでいましたが、結局NETFLIX制作となってデンゼルの舞台演劇の演出もしていたウルフ監督がメガホンを取りました。

自分ももちろん楽しみにしていた作品でしたので、NETFLIX加入後早速鑑賞です。

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1927年のアメリカシカゴ。ブルースの母と呼ばれる伝説的な歌手マ・レイニーはレコーディングのためにスタジオに呼ばれていた。

先にスタジオ入りしたのはバンドメンバー。

その中には独立して成功を夢見ている野心かなトランぺッター、レヴィーがいる。

レコード会社のアーヴィンはマの到着を待ちわびるも、彼女は遅刻してくる上に、逐一わがままを振りかざし、非常に横柄な態度をとっていた。

マがスタジオ側と揉めるたびに、バンドメンバーは控室にて待機するように言われるが、そこでレヴィーは自分の過去と将来を吐露することとなる。

そこにはマも含めて、この白人社会にて生き抜く黒人の葛藤と傷跡が現れてくるのだった。

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時間は90分程度と非常にコンパクトながらもダイナミズムにあふれ、黒人文化と彼らへの差別、対局とも同一ともとれるマ・レイニーとレヴィーの二人のサバイバルが濃厚に描かれる作品です。

両名を演じたヴィオラ・デイヴィスとチャドウィック・ボーズマンの演技には間違いなく圧倒されてしまうでしょう。

マ・レイニーを演じるヴィオラ・デイヴィスは、まったくもって傍若無人ともとられかねない態度を演じます。だから、ひょっとすると、観客側に一番嫌われてしまう可能性のある登場人物なのです。

しかし、レヴィーの独白やマが語る彼女自身のキャリアの話から、この二人が表面上は両極端に見えながらも、同じ意識を共有する黒人としてある種のつながりを持ち、ゆえに心の奥底を覗かせることから観客の魂をつかんで離しません。

強烈な態度に負けず、ルックもゴールドに身を包みキラキラ、そして彼女の金歯が目立ちますね。

絶対に譲らないその態度。譲らなさは交渉を含んでいません。

冒頭での交通事故での口論ですが、そこにはっきりとマのスタンスが示されていました。相手の話(白人の話)を全く聞きません。

相手の話をさえぎってとか、反論をするのではなくて、耳を傾けるようなことは一切せずに、ただ怒鳴り散らすのです。

この黒人と白人のまったく意思疎通のできない様は、そのままアメリカという国を表しています。

マは表面上から反抗し、白人社会に決して迎合しない。

コーラの下りとかは笑ってしまうくらいですが、その毅然とした中に悲しみと絶望すらを覗かせるヴィオラには”偉そうな人”と見話せない切なさが見えていますね。

実は演出かヴィオラの演技か分からないですが、序盤にホテルから出ていくシーンが秀逸です。

彼女は周りの白人たちからの目線に気づきます。そこで恋人のメイと腕を組んで、甥っ子のシルヴェスターの肩に手を置きますね。

あれって、強気マが二人を守ろうとしているようにも見えますが、同時に彼女自身がその白人たちの目線を恐れたための所作にも見えるんです。

そうすると、あの傲慢さあふれる態度って、自己防衛に見えてきます。

権威ある存在のはずなのに、現実のマの扱いは・・・序盤から道での口論~終盤まで本当に効果的にマの扱われを見せていきます。

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そんなマに対して表面上に白人と対峙する黒人としてレヴィーが登場します。

登場時からスポットライトを盗もうとするような野心家で、行く先々で女性を見れば声をかけてしまう。

そして新しい靴を自慢げに履く調子のいい若者としての振る舞いは、マに比べて軽い存在にも思えます。

そんなエネルギッシュな若い力を、40代のボーズマンがチャーミングに見せてくれるのですが、途中でのレヴィーの悲しき、そしてあまりに残酷な過去を語るシーンでの演技も圧巻です。

白人による差別とその憎悪による犯罪を目の当たりにした彼の砕けた心。心にも残ったと象徴する大きな傷跡。

自分の母が目の前で暴行、レイプされ、自分もナイフで切られた。

完全なる絶望を経験しながらも彼は父の復讐劇から学び、白人に対して表面上はへつらい合わせ、従順な振りをすることで生き延びてきたのです。

しかし、マ・レイニーとレヴィーは心の奥底から白人を憎み、そして決して信用していないのです。

今作はこの二人がとにかく対照的に描かれていきますが、いずれにしてもアメリカにおける黒人と白人のあまりに深い溝を見せています。

レヴィーは綺麗な靴が自慢です。一方マの足取りは重い。

レヴィーが目指すのは大衆に受ける音楽。

それに対してマは自分自身のブルースを決してやめず、邪魔されたり変えられることを許しません。

レヴィーがどうにかして抜け出したいことを示すように、鍵のかかった扉に挑戦していったその結果。

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マはこの白人社会で自分自身であり続けようとしました。

だから白人の要求すべてを突っぱねて、自分の要求を曲げずブルースを守ろうとした。

たとえ実際の扱いは酷くとも、偉大なブルースの母として、黒人文化を体現するものとしてあり続けようと。

しかし、成功を夢見たレヴィーは結局、白人社会に迎合して自分を持たなかったことからか、そのかっこいい靴でどこかへ行く事もできず、また扉を開けても待っていたのは窮屈な閉鎖空間だけ。

地下の狭いところから、上を眺めるしかできません。

最後は白人との約束という非常に皮肉な展開で幕を閉じていく。

レヴィー約束を破棄され、嘘をつかれて音楽を盗まれ、白人のグループが彼の音楽を演奏している。

マはサインをせずに帰ろうとしましたが、最後はサインをしました。

このサインは、マのブルースを搾取する行為であり、また彼女自身の価値を安売りしてしまうことになると感じても。

帰りの車中のマは、彼女自身の価値が維持できなくなったことを悟り絶望しているようにも見えました。

徹底的に搾取され、暴行され差別され。

黒人たちがその白人社会のアメリカに置いて自分であり続けること、ただ生き抜くことの惨たらしいほどの難しさを、この90分にて描き切ってしまう。

2人の圧倒的な演技がこの悲哀を完成させます。

若干の難点としては、舞台劇っぽさが映画からも感じ取れてしまうところでしょうが、間違いない傑作でオススメの作品でした。

今回の感想はこのくらいになります。

この存在感あるボーズマンがいないことはやはり悔やまれますね。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ではまた。

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