「フェンス」(2016)

  • 監督:デンゼル・ワシントン
  • 脚本:オーガスト・ウィルソン
  • 原作:オーガスト・ウィルソン 「Fences」
  • 製作:トッド・ブラック、スコット・ルーディン、デンゼル・ワシントン
  • 音楽:マーセロ・サーヴォス
  • 撮影:シャルロッテ・ブルース・クリステンセン
  • 編集:ヒューズ・ウィンボーン
  • 出演:デンゼル・ワシントン、ヴィオラ・デイヴィス、スティーブン・ヘンダーソン、ミケルティ・ウィリアムソン、ジョヴァン・アデポ、ラッセル・ホンズビー 他

俳優としてオスカーも得ているデンゼル・ワシントンが監督した今作。オーガスト・ウィルソンによる同名の戯曲が原作で、舞台として有名のようですね。

主演もデンゼル本人が務め、妻役に「スーサイド・スクワッド」(2016)でも強烈な印象を残したヴィオラ・デイヴィス。彼女は今作でアカデミー賞助演女優賞を受賞。

去年の批評家筋の評判からずっと期待していたのですが、日本公開はいつ?少し前に配信があり、6月にはソフト販売もありますけど、つまりは劇場スルーという事かな。

とりあえず洋盤ブルーレイを入手して鑑賞しました。別に悪いとかではなくて、これは特段劇場で公開すべきというわけでもないかもしれません。

1950年代のピッツバーグ。

ゴミ収集の仕事をしているトロイは、親友のボノ、妻のローズと一緒に世間話をして幸せに生活していた。

ある日、長らく疎遠だった長男のライオンズが家を訪れる。ミュージシャンをめざし、安定した職に就いていない彼が、金を借りるために来たことを知ると、トロイは激昂する。

また、次男のコリーが大学のフットボールチームのスカウトを受けていると聞いた時も、息子に対し厳しい言葉を投げるトロイ。

彼が抱えたもの、そんな彼を受けて家族や周囲の人が抱えたもの。時の流れと共に家族がぶつかっていく。

はじめにこの作品を観て、最後まで感じていたことをあげるとすると、それはこういった戯曲、というか舞台が映画になったときの一つの課題です。

映画というメディアに移ったとき、そのダイナミズムを活かしているかというのは非常に重要だと考えているのですが、その点で今作は映画にはなっていない気がしました。

やはりどこまでも舞台なんですね。舞台を色々な角度からカメラで記録したような。そこは残念なところとして、どうしても残ってしまった印象です。

しかし、それを越えて余りある素晴らしいものが、この作品にはつまっているのです。

それは素晴らしい演技とそのアンサンブル。

圧倒的な力をみせる役者陣には終始魅せられてしまいます。

デンゼルが演じるトロイを中心とする物語ですが、彼はすごくバーバルですね。台詞の多さからも分かりますが、とにかくよくしゃべる人物です。

トロイは彼個人として抱えるものは口に出しませんが、周囲に対してかなり話しかける、アクションを起こす人物。彼の台詞にはことごとく野球の記録や例えがあり、息子に対しての警告すらスリーストライクを使っていましたね。

トロイの葛藤というのはメインのドラマとして描かれていくため、自然と注目が行きますし、そこはデンゼルの素晴らしい演技が手堅く、重みのある人物として見入ってしまいます。

ただ、私はオスカーを獲ったヴィオラ・デイヴィスに感嘆しましたね。彼女こそ今作で非常に映画的な演技を見せていますし、疑いの余地のない圧倒的なパフォーマンスでした。

妻のローズは、とにかくリアクションというところ。

トロイのとめどないアクションをただ受けているように見えて、実は所作などノンバーバルな部分で非常にいいリアクションを見せていましたね。

もちろん、妻や母という枠を外したところにいるはずの個人としての自分を叫ぶところは名シーンです。しかしそれ以上に、息子とトロイが一触即発になる瞬間、カメラの端っこでピントすらあっていないのに、ふと自分の手を握るなど絶妙なリアクションには本当に感動しました。

黒人、夫、父、様々な枠にハマりつつも、トロイという一人の男であろうともがき続けた。

彼は自分を超えてほしいという父としての感情と、一人の男としての嫉妬を息子にぶつける。そして時代への怒りも抱えていましたね。時代のために持てなかったものを、違う時代の人間は容易に得てしまう。悔しさも分かります。

自分の歩んだ、歩んでいる人生と重ねても、この50年代のピッツバーグの黒人一家を確かな手触りで感じることができると思います。それこそ物語の素晴らしさである、タイムレスな普遍性です。

社会的に決められた役割や、そこで葛藤する個人を描きだし、完璧な演技とその怒涛のアンサンブルでみせる。

非常に重厚なドラマで、そして時代や場所を超越して観ている人に共感できる作品だと思いますね。最後まで舞台的で、ビジュアルによる面白さに欠けているのは残念ではありますが、おすすめの作品ですね。

そんなところで感想は終わりです。しっかり劇場で観てみたいというのもありますけど、今作はそれが絶対であるとは言い切れないかな。まあ何でも配信というのは味気ないですが。

それでは、このへんで。また。

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