作品解説

“キング・オブ・ポップ”として世界中で愛され続けるマイケル・ジャクソンの波乱に満ちた人生を描く伝記映画。
監督は「トレーニング デイ」、「イコライザー」シリーズのアントワン・フークア。
圧倒的な歌唱力と革新的なダンスで音楽史を塗り替えたマイケルの歩みを、「Billie Jean」「Beat It」「Thriller」など数々の名曲とともに描いていきます。
主演にはマイケル本人の実の甥であるジャファー・ジャクソンを抜擢。
脚本は「グラディエーター」のジョン・ローガンが担当し、製作は「ボヘミアン・ラプソディ」のグレアム・キングが努めています。
スタッフ
- 監督:アントワン・フークア
- 脚本:ジョン・ローガン
- 製作:グレアム・キング、ジョン・ブランカ、ジョン・マクレイン
- 撮影:ディオン・ビーブ
- 美術:バーバラ・リング
- 衣装:マーシ・ロジャーズ
- 編集:ジョン・オットマン、ハリー・ユーン、コンラッド・バフ
キャスト
- マイケル・ジャクソン:ジャファー・ジャクソン
- 幼少期のマイケル:ジュリアーノ・バルディ
- キャサリン・ジャクソン:ニア・ロング
- ジョセフ・ジャクソン:コールマン・ドミンゴ
- クインシー・ジョーンズ:ケンドリック・サンプソン
- ジョン・ブランカ:マイルズ・テラー
- スザンヌ・ド・パッシー:ローラ・ハリアー
- ビル・ブレイ:ケイリン・ダレル・ジョーンズ
あの伝説のマイケル・ジャクソンの伝記映画ということで、ついに来たのかという感じです。しかも監督はアントン・フークアということで、期待が高まった作品。しかし、後述の北米批評家試写での反響から不穏な空気が。。。
ただ一般層のリアクションはまた異なり、日本でも公開がすごく楽しみだった作品。
こちら先行上映も、今公開の1週間前に行われて、IMAXシアターを使っての限りある上映でしたがどこも満席になっていました。
私は一般公開の初週末、さっそくIMAXで観に行ってきました。往年のマイケルファンと思わしき人が多く年齢層は高めですが、ほとんど満員の劇場で、IMAXの素晴らしい音響で堪能してきました。
~あらすじ~

幼い頃から父ジョセフの厳しい指導のもとで才能を磨き、兄弟グループ「ジャクソン5」の一員として一躍スターとなったマイケル・ジャクソン。
やがて名プロデューサーのクインシー・ジョーンズと出会い、ソロアーティストとして新たな才能を開花させる。
次々と歴史に残る名曲を生み出し、世界的スーパースターへと駆け上がっていくマイケル。
しかし、その輝かしい成功の裏では、幼くして背負った名声の重圧や父親との複雑な関係、家族への愛と尽きることのない創作への情熱の狭間で苦悩していた。
感想レビュー・考察

マイケル・ジャクソンを描くことの難しさ
マイケル・ジャクソンの伝記映画、それ自体が結構大変なプロジェクトであると思います。
今作は北米圏での試写やプレミア時点で、批評家面ではかなりの酷評を記録しており、いわゆるトマトメーターも低評価、メタスコアに至ってはその辺の意味不明B級映画と同じかもっと低い扱いを受けています。
一方で観客の評価はかなりの好評。マイケルブームが再び巻き起こっている状態です。

日本でも同様の傾向はあるように見えますが、この人によっては許しがたいほどに低評価になり、一方で素晴らしいマイケル・ジャクソンの映画として支持を得ているのは、なかなか難しい背景があると思います。
誰もが違う「マイケル像」を持っている
映画の中身自体がどのようなことを描くのか?
マイケル・ジャクソンというひとりの人間、男、息子、末っ子。そしてアーティスト、パフォーマー、夫、疑惑の対象。
彼が持ち合わせる影はあまりに多く、そして光もあまりにまばゆい。
そのどれもがマイケル・ジャクソンであり、だからこそみんなそれぞれに”これがマイケル・ジャクソンだ”というマイケル像があるのだと思います。
その偶像にそぐわない内容であれば、”これは違う””マイケルを描けていない”となる。そして求めている偶像を与えられれば、まさにマイケル・ジャクソンの物語だとほめそやすのでしょう。
私はマイケル・ジャクソンの大ファンではないし、やはり世代ではない。生まれたときにはもう大スターで、むしろもの後ごろ着いた時には、彼はスキャンダルと疑惑の的。
メディアからやたらと騒ぎ立てられる存在でした。

光も影も大きすぎる男
今作では、彼がジャクソン5としてデビューしてから、青年となりソロデビューする物語が描かれます。あの有名な「Bad」が披露されるところまでで映画は終わるのです。
1987年くらいまでが描かれていて、いわゆる大スキャンダル的なアイコンになるよりももっと前までなのですよね。まずこの点で、北米の批評家は”これではマイケル・ジャクソンの映画にならない”と批判しているようです。
映画はもろもろの権利関係で、今作で取り扱う時代のことでも、描くことができないものもあるようです。
そして、次に後編?続編が作られているようですが、そちらでもやはり法的な問題は尾を引いているとか。
まとめて言うと、今作はあくまでマイケル・ジャクソンという人物の数多ある光と影の中から、一筋のまばゆい光を取り上げて描いた作品ということ。
なので彼の輝きをもう一度見たいという人にはウケる。それ以外も観たい人には嫌われるのかと。
前置きが長くなりましたが、結果として私は甘い部分もありながら、キング・オブ・ポップを再びスクリーンに蘇らせた、大衆向けポップコーンムービーとしてすごく楽しめました。

父ジョセフという名の恐怖
今作が様々なマイケル・ジャクソンの物語の中から取り上げたのは、父親の呪縛です。
映画が始まってすぐに、舞台はマイケルが少年だった頃に遡ります。
そこでジャクソン兄弟は家のなかで歌とダンス、演奏の練習をしているのですが、ジャクソン家の長であるジョセフが見守っています。
いや、見守っていると言うよりも、監視している。
コールマン・ドミンゴが非常に素晴らしい演技をするおかげで、アイスグレーの瞳に冷徹さを宿したジョセフが全編を通して怖い。
ジョセフはミスを許さず、暴力も厭わない。
序盤からベルトで幼いマイケルを思い切り叩くシーンを入れてくることで、その後ジョセフが具体に行動しなくても、怒らせた結果が脳裏に焼き付くというスマートな語りです。
実際のマイケルのインタビュー記録などにもありますが、ジョセフは「デカ鼻」とマイケルの鼻を揶揄することがあり、のちの整形手術に繋がる。
コールマン・ドミンゴが最高の演技
今作ではマイケル役の二人が注目されますが、私はコールマン・ドミンゴこそが今作の目玉かなと感じました。
いるだけで空気が悪く、皆が萎縮してしまう。家に帰ったとき、いないといいなと思ってしまう。そういう存在感をしっかりと感じさせる。
ジョセフ周りの描写はホラー映画のようです。
冷蔵庫のドアを閉めると現れる。なんて、まるっきりホラー映画で怪人が出てくる所。
マイケルが鼻の整形手術をした直後、ジョセフに見つかってしまう。
顔を保護しなきゃいけない包帯だらけのマイケルの前に、剃刀を持って現れるジョセフ。恐ろしい演出を考えるものです。

神童マイケル誕生の瞬間
このジョセフの脅威にさらされながらも、必死に努力するマイケルの、少年期を演じるのがジュリアーノ・バルディ。
この子が本当にすごい。出演時間は前半と言うか序盤だけですが。まあとにかく末っ子感のかわいらしさと、圧倒される歌唱力とダンスの上手さです。
最初にデビューしていくきっかけになる、スタジオでのレコーディング。
音楽に合わせて身体が動いてしまう彼の、天に触れるような歌声を大スクリーンで聴いた時の気持ち。
歌が上手い、それ以上の何かがあります。人は神聖なものに触れたとき、愛に満ち歓びを感じると思いますが、そんな感じ。
あの場面でマイケルの歌声を聴く、プロデューサーの顔のアップのショットになります。
そこにはビジネスチャンスや新たなスターを見つめる以上に、心を震わされ歓びに包まれた男の表情がありました。

スクリーンによみがえるキング・オブ・ポップ
青年期になり話題のジャファー・ジャクソンが登場。彼もまた叔父であるマイケルになりきり、声と繊細さをうまく表現していた。
普段はか弱い印象なのに、パフォーマンスではまさにキングというべき表現を炸裂させる。
ここに来て、あのマイケル・ジャクソンが再びそこにいると感じられたのです。それは純粋に嬉しいこと。
マイケルの子ども時代に大人にならざるをえなかったゆえの、幼さ。そして孤独と葛藤。それらを感じ取ることができるのも、このジャファーのおかげだと思います。
出てくるのはどれも名曲であり、ジャファーのパフォーマンスも大スクリーンに投影され圧巻です。

名曲の裏側を描く贅沢さと物足りなさ
いい面は多いですが、アーティスト マイケル・ジャクソンとしては少し物足りなさも感じます。
と言うか、名曲はただ歌うのではなくその背景部分を掘る。Beat Itはギャング抗争のグループを集めるシーン。Thrillerは大掛かりなMV撮影シーン。
非常にいいですが、普通に曲を全部聴きたくなります。
構成としては最終幕のみ、ライブ会場でのBadのフルを見せてもらえるのでクライマックスまで溜める意味もあるでしょうねど。
終幕はライブが2個続くというのも、最終の炸裂としては薄らいだ気もします。
『マイケル』というタイトルが示すテーマ
今回はそのアーティストという面も強いですが、主題は父との確執や解放ですかね。
ジョセフにより人生を支配されてきたマイケル・ジャクソンが、兄弟は、母は愛しているものの、なんとか”ジャクソン”から離れていこうとする。
父親に代わる存在は、サウンドミキサーを教えてくれたプロデューサー。そしてボディガード以上に家族になっていたビルですね。
ジャクソン5のひとりとか、”マイケル・ジャクソン”ではなく、マイケルとして接してくれる存在です。
父は違う。ジャクソンであることしか見てくれません。
父親からの解放を成し得る作品だから、タイトルはファーストネーム、マイケルだけなのかもしれません。

光だけを残すという選択
すごく難しい題材であるのですが、やや表層的にせざるを得ないところで父親との話にドラマフォーカスを置いたこと。
何より2人のマイケルのパフォーマンスが素晴らしかったことが成功要素と思います。
続編はこの後の時代を描くでしょうから、どうしてもスキャンダルは避けられないのかと思いますその点をどのように描き出すかによって全体の評価も決まってくるのではないかなと思いました。
最後に、美談すぎるという意見やマイケルがよく描かれすぎているという意見に対し少し思うところを。
言うとおりだと思います。
聖人化しすぎるとは感じますが、マイケルはこれでいいかなと思いました。
彼は生前、推察や憶測でかなり苦しめられました。真実については結局誰も知らず、マイケルだけが知っていた。
彼が亡くなってから十数年経ってもまだ、映画というメディアで彼をスキャンダラスに描いたり、また苦しめるようなことはしなくていいと思うのです。
誰もが疑惑の件だけを思い出してしまうなら、せめて映画では彼というアーティスト、パフォーマーの光の部分だけ残してもいいのではないかな。
複雑な事情が多いですが、誰もが知るキング・オブ・ポップの姿を大きなスクリーンで見れることは、ライブ映画的にも楽しいので是非劇場へ。
今回の感想は以上です。ではまた。


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