「マイ・オールド・アス 2人のワタシ」(2024)
作品解説
- 監督:ミーガン・パーク
- 製作:トム・アカーリー、マーゴット・ロビー、ジョージー・マクナマラ、スティーブン・レイルズ
- 製作総指揮:ダニエル・ベーカーマン、ブロンテ・ペイン、ミーガン・パーク
- 脚本:ミーガン・パーク
- 撮影:クリステン・コレル
- 美術:ザズ・マイヤーズ
- 衣装:ターシャ・ゴールドスウェイト
- 編集:ジェニファー・ベッキアレッロ
- 音楽:タイラー・ヒルトン、ジャコ・カラコ
- 出演:メイジー・ステラ、オーブリー・プラザ、パーシー・ハインズ・ホワイト、マディ・ジーグラー、ケリス・ブルックス 他
俳優として活躍しているミーガン・パーク監督の長編2作品目となる作品。幻覚キノコを摂取したティーンの女の子が、未来の自分と出会い変化が起きていくコメディドラマ。
主演は「ナッシュビル カントリーミュージックの聖地」シリーズで活躍し、歌手としても活動しているメイジー・ステラ。また「イングリッド -ネットストーカーの女」などのオーブリー・プラザが未来の主人公役で共演しています。
監督自身の体験がきっかけで自身で脚本を書き、そのあとでタイムトラベルのような夢のような要素を追加したという物語。
タイトルは作中のセリフからそのままですが、なんとも。私の古い尻っていうのは、作中で主人公が未来の自分のお尻を触ろうとした際に言うセリフです。
作品はサンダンスで上映され好評を得ていて、主演の二人も称賛されていますが、日本での劇場公開はなく、11月になってから配信での公開になりました。
~あらすじ~
もうすぐ実家を離れ、都会の大学へと進学するエリオット。
家族と離れ町を出て行く彼女は、心残りの内容に好きな女の子にアプローチしてセックスをし、親友たちと一日中遊びまわる。
そんなある夜、親友と森の中でキャンプをしていた際、ひとりが持ち寄ってきたマッシュルームを楽しむことに。たちまち親友の二人は幻覚にの世界へ飛び立ってしまうが、エリオットには特に変化がなく、ひとり退屈し始める。
しかし、突然大人の女性が現れたかと思えば、彼女は自分は39歳のエリオット自身だと言い始める。
幻覚症状の一種だと思ったエリオットは、面白半分に話を進め、年上の自分から「とにかくチャドって男は絶対に避けること。」と何度も念押しされる。
そして翌朝、変な幻覚を見たと思っていたエリオットの前に、チャドという青年が現れるのだった。
感想レビュー/考察
ライトで楽しいけど、繊細な感動をくれるタイム”トリップ”映画
タイムスリップして自分自身と会い、何かを変えようとする話はそこまで珍しいものではありません。
多くは過去の自分に対して何かすべきことやしてはいけないことを伝えるという話で、今作もそれにあたってはいます。
しかし、今作の主人公は若い頃の自分であり、未来の様子がビジュアルで描かれるわけでもなく、未来はオーブリー・プラザが演じる女性が少し語るだけ。
ただSF要素や大きな活劇とか、未来的な何かとか関係なく、この小さめのタイムスリップを使って、ものすごく意外な感動をくれます。
ライトで触れやすく、コメディとして笑えるのに、クライマックスでは思わず涙しそうな切なさと、人生を歩むことへの肯定がありました。
メイジー・ステラが演じるエリオット。活気あるティーンであり、等身大に悩んでいていい意味で大人びていない。素敵なエネルギーを持っている俳優で素晴らしいと思います。
バカなところとか幼いところも持ち合わせていながら、繊細な部分もよくみてとれます。
対してオーブリー・プラザも良いですね。実は登場時間こそかなり少ないのですが、短い中で人生の重みとか、しっかりと何かを経験して辛い思いもした女性を演じています。
彼女が嘘っぽいと、エリオットのこの体験全てが軽く無意味にもなりかねないですから、オーブリーの力は偉大だと思います。
主演二人の共鳴とトーンを信じた演出
コメディのラインもちょうど良くて、全部をふざけているわけではない。ドラマ部分はシリアスだけど、ちょっとした点でライトなおかしさをくれます。
「将来のネタバレはしない。でも今は大学に通ってるの。専攻が何かはお楽しみ。」
「お楽しみ?40代で学生やってるのに?」
「30代(39歳)!30代!」
この会話最高に好き。
兄弟たちとの仕方なしの交友やら(弟がシアーシャ・ローナン好きすぎる笑)、チャドの裂け方がおかしすぎたり。
ユーモアのトーンも見事に調整されていて、バカらしさに振っていない丁寧さがありました。実際のところ、パーク監督は脚本の中にあること以外に、主演二人のケミストリーを信じてアドリブも結構入れたそうです。
脚本の中で若いエリオットが未来の自分にキスしていいか聞くシーンがありますが、実際にするのはステラのアイディア(ちなみにステラはオーブリーのファンだそうで、普通に喜んでいたようです)。
さらにそこで、「したいけど、若い自分ってなんか変」というのはオーブリーのアドリブだそうです。お互いにその共鳴の中で遊びをもって演じたのが、自然で可愛らしいおかしさになっているんだと思います。
ぶつかって進む、未熟な自分
ボートを操縦しながら進むOPで、彼女はまだまだボートをうまく扱っていない。人生を歩むことそのもののように、あちこちにぶつけてしまう。それでも何とか桟橋には到着。
このボートは今作を見ていくうえで結構重要な要素なのかと思います。誰を乗せて何をするのか、ボートを売り払おうとしたり。
終盤に湖の上でエンジンが落っこちてしまって動けなくなるところも、人生が進むためにエリオットに必要な人と重なったように感じましたし。
そんなまだまだ未熟な自分と、その当時には気づかなかった周囲にあった大切な人やモノ、そして場所。
二人のエリオットがそれぞれに影響して成長していく
この作品はエリオットの成長、青春映画でもありながら、同時に未来のエリオットにとっても39歳にしてまた成長をする物語。
未来のエリオットは、大切だった人チャドを失ってしまった。それでとてもつらかったけれど、出会わなかった方が良かったというのはやはり間違っていたんですね。
若いエリオットの視点から、愛への出会いや自分自身を知っていくと追うことを見せていく。しかしその視点だけじゃなくて、未来のエリオットの物語も同時に語られる。
これがこの作品の素晴らしいところであり、単なるタイムスリップでの自分との会話にとどまらない奥深さがある点です。
未来のエリオットの言葉。人に対しても、場所に対しても。ノスタルジーを感じます。だから大人になった人がこの作品を観るとき、人のことや、昔よく言った場所を思い出すでしょう。
こういった大人側からのノスタルジーは、パーク監督がこの作品を思いついた起源にあるでしょう。
もともとコロナ禍にアメリカから実家のカナダに帰った時、自分の子どもの頃の部屋にいてすごく懐かしく、そしてなんであの頃は、こんなに素敵な故郷を離れようとしたのか、自分で振り返っていたそうです。
誰しも、昔の思い出の場所とかってありますよね。それが今はなかったり。また人との別れも。
キノコでのタイムトリップの物語は、そのユーモアとキュートさでポジティブで楽しい。しかし、とっても真摯で優しく、人生における喪失を抱きしめてくれます。
パーク監督の持っている視点、それを描き出す手腕に、それにこたえて素敵なケミストリーを見せてくれた素晴らしい主演二人が最高な作品でした。
意外な拾い物。こういう作品にふと出会うととても嬉しいです。まだアマプラで観れると思いますので、気になる方は是非。
今回の感想はここまで。ではまた。
コメント