「ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト」(2020)
- 監督:クレア・デュバル
- 脚本:クレア・デュヴァル、メアリー・ホランド
- 製作:アイザック・クラウスナー、マーティ・ボーウェン
- 製作総指揮:ジョナサン・マッコイ
- 音楽:レスリー・バーバー
- 撮影:ジョン・ガレセリアン
- 編集:メリッサ・ブレザートン
- 出演:クリステン・スチュワート、マッケンジー・デイヴィス、オーブリー・プラザ、アリソン・ブリー、メアリー・ホランド、ダニエル・レヴィ、ヴィクター・ガーバー、メアリー・スティーンバージェン 他
「Go!Go!チアーズ」などに出演、監督としても活動しているクレア・デュバルによる、クリスマスを舞台にしたロマンティックコメディ。
レズビアンのカップルがクリスマスを片方の実家で過ごすものの、実はカミングアウトも彼女がいることも家族に話しておらず、関係がバレないようにと奔走します。
カップルを演じるのは「チャーリーズ・エンジェル」や「パーソナル・ショッパー」のクリステン・スチュワートと「ターミネーター:ニュー・フェイト」や「タリーと私の秘密の時間」などのマッケンジー・デイヴィス。
その他オーブリー・プラザ、アリソン・ブリー、メアリー・ホランドなど幅広くコメディのできる俳優がそろっています。
クレア・デュバルの監督2作品目となる今作は、劇場公開向けにソニーで企画がスタートしていましたが、コロナウイルス拡大によってHuluへ配給を譲り配信での公開になりました。
昨年の11月ころに公開されていましたが、自分は観る手段がなく、今更になりアマゾンプライムに来ていたのでそちらでの鑑賞になります。
出ている俳優もみんな好きな人が多いですし、ロマコメのジャンルにこう明確にLGBTQの入れ込んでいくという点で、一つ時代の転換を感じられると、期待していました。
クリスマスシーズン。多くの家族が祝日に集まって過ごす中、アビーとハーパーの二人もクリスマスの過ごし方を考えていた。
ハーパーはアビーに自分の実家に来てもらい、両親や姉妹に会ってほしいと考えており、アビーはその誘いを受け入れ二人でハーパーの実家へ向かった。
しかし、ハーパーは両親に自分がゲイであることをカミングアウトしておらず、そしてアビーのこともパートナーではなくルームメイトとして家族に伝えていたのだ。
ハーパーの父は市議会選に立候補しており、家族のことで波が立つことや、そもそも両親が保守的なこともあってハーパーは事実を切り出せていなかったのだ。
二人はカップルであることを隠しながら過ごしていくが、アビーはハーパーが自分を大切な存在として家族に紹介してくれないことや、なかなかハーパーの家族になじめないことで不安といら立ちを募らせていった。
アメリカにおいてはこのクリスマスシーズンを舞台にしたロマンティックコメディは完全に文化になっています。
というかクリスマス自体が日本と異なっていて、本当に家族親類が集まって過ごすイベントになっていますね。
もちろんそれは保守的と言われるくらい、若年層なんかはその感覚も薄らいでいるのかもしれないですが。
いずれにしてもアメリカの映画史には本当にたくさんのホリディスペシャルなコメディはありますが、今作はそのテーマにLGBTQの要素を巧く入れ込みながら、伝統文化も守りつつ、”現代のホリデイ映画”を作り上げたと感じます。
キャストの中を見ていくと、クィアである俳優も多いです。クリステン・スチュワート、オーブリー・プラザ、ダン・レヴィにヴィクター・ガーバー。
特にヴィクター・ガーバーが保守的な父親役なんですが、彼の配役からも最後の展開は予想できます。
監督自身もクィアと公言しているクレア・デュバルですから、この映画の製作自体が、時代の変革を見せていると思えます。
そんな背景についても楽しいところでありつつも、何より王道と変革をしっかり融合してしまう手腕が見事な作品になっています。
王道としては、この手のロマコメの道をなぞっていく展開。
バレるバレないでいちいちあたふたするアビーとハーパーの可愛らしいカップルっぷりにはニヤニヤしてしまいますが、キャラクターたちの造形についても毒があったりハズれてたりとバラエティ豊か。
ただそれが機能的ではなくてドラマ展開に必然になっているのもまとまりよく感じるところです。
全体にはレズビアンカップルのカミングアウトに向けてのドタバタですが、ユーモアの間口が広めに作ってあるのでアクセスもしやすい感じになっています。
笑える部分についてはアビーに対する家族の対応もあり、ジェーンは彼女自身がコミックリリーフ感がありますね。
ただ、今作の苦笑い要素として特に繰り返されていくのは、その居心地の悪さ、アウトサイダー感ではないでしょうか。
アビーはただでさえ自分が孤児だという点をやたらと繰り返されますし(先手で自分から言うのは笑えます)、ハーパーの家族との距離がある点とか、知らないことが多いことでの疎外感が辛く感じられます。
なんか、完全に盛り上がっている仲間内の中に、そのメンバーの友達ってだけで呼ばれて、意味わからん状態でめっちゃ居づらいやつですよ。
差別的なしかも自覚のないものに不快感を覚えてしまう身としては、なかなか辛さが身に染みてしまう感じのパートも多く大変なところですが、完全にやっちまうレベルの嫌さはなくバランスも良かったかと思います。
まずはアビー視点でその居づらさを見ていくと、脇から出てきて謎の色気を発しているオーブリー・プラザには完全に惚れてしまう作り。
大切な人がみんなの前で自分をパートナーだと言ってくれないのは、たとえ事情を理解していてもつらいもので、そこにライリーが現れると、彼女とハーパーの背景から疑念すら生まれてきてしまいます。
全てまとめ上げているクリステン・スチュワート、さすがですね。
スタジオ関連から離れ気味でありましたが、彼女の持っているコミカルさも繊細さも全部出し切った演技で観ている側がしっかりと繋がることができます。
ただ、ハーパーのほうの抱えている怖さや不安というのも理解できます。
なんらかの受け入れられるかわからない事柄を、最後の拠り所たる家族へ打ち明けるというのは覚悟も勇気もいりますよね。
マッケンジー・デイヴィスの魅力、演技もあって、ハーパーが単純な臆病者や卑怯者とは映らずに、彼女自身の完璧な娘としての役目の重さを見て取れます。
そしてそこから、それまで敵対的だったスローン、そしていつも平和主義だったジェーンの想いも見えてきました。
ホリデイには家族が集まる。そこではそれぞれが、そのメンバー足り得るのかの再確認が潜みます。認めてほしいからこそ偽り、期待されているからされなくなることが恐ろしい。
ただ無条件で愛してくれという叫びを入れ込んだのが今作と思います。
完璧さはそのホリデーシーズンの装いに必要なのではなくて、どうあってもそれが素晴らしいと認めてくれる、そうあることのできる場所こそ家族です。
各俳優の演技幅が広いおかげで、コメディから切なさに振ってもそれを楽しめ、現代における家族像を更新していく。
楽しくて暖かくて、時代を定義していく映画となって何度か再訪問する作品です。
各ジャンルに対してこうしてどんどんとアップデートが加わり、描かれてこなかった葛藤が、芸術文化に残っていくと、今後それらを観た人たちが自分を観ることができる。
クレア・デュバル監督から素晴らしいクリスマス映画の贈り物でした。
今回の感想は以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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