「ダーリンズ」(2022)
作品解説
- 監督:ジャスミート・K・リーン
- 脚本:ジャスミート・K・リーン、パルヴィーズ・シェイク
- 出演:アーリヤー・バット、シェファリ・シャー、ヴィジェイ・ヴァルマ、ロシャン・マシュー、ラジェッシュ・シャルマ、ビジェイ・モーリャ、キラン・カルマルカル 他
普段は優しいが酔うと暴力をふるう夫に悩まされ、ある事件から復讐を始めようとする妻の姿をブラックコメディテイストで描くドラマ映画。監督はジャスミート・K・リーンで、彼女にとって初の長編映画です。
プロデューサーはシャールク・カーンの妻ガウリー・カーン。
主演には「RRR」などのアーリヤー・バット。彼女は今作の製作にも参加しています。他にはシェファリ・シャー、ヴィジェイ・ヴァルマ、ロシャン・マシューが出演。
相変わらず正直インド映画にはまだまだ全然疎いため、作品の存在もあまり知らなかったんですが、NETFLIXで配信されていたので鑑賞して観ました。結構様々な配信サービスにインド映画が来てるんですね。ネトフリは字幕付きでした。
アマプラで見つけた映画だと、英語字幕のみでしたから助かりました。
~あらすじ~
恋人からの熱烈なプロポーズで結婚したバドル。夫婦生活は順風満帆に行くはずだったが、夫のハムザには問題があった。
毎晩酒に酔うと暴力を振るうのだ。しかし翌朝になれば真摯に謝る彼を、バドルはつい許し続けていた。
なんとか酒をやめさせれば、優しい夫のままでいてくれると試行錯誤するも、そうした干渉が逆にハムザを怒らせてしまう。
そしてバドルが子どもを授かった頃、泥酔した上に逆上したハムザによって最悪の事態が起きてしまう。
感想レビュー/考察
アーリヤー・バット主演で送るこの作品、悪い言い方をすればどっちつかずです。
描かれているのはDVであり、それは妻に対するモラハラに暴力。また劇中では妊娠した主人公を階段から突き落とし流産までさせています。
DVを描き出すうえでは本当に胸くそ悪く最低最悪のクソ男の話なんです。ただ、描き方についてはコメディ。ブラックコメディとして進行していくのでものすごく暗いわけでもないし、ドタバタ劇みたいなテイストです。
芯がしっかりしているのでジャンルミックスしてもブレていない
このギャップについてテイストミスだとおもったりアンマッチで機能していないと捉える人がいるかもしれません。個人的にもややそんな感じ方はありました。
ただ見終わって考えてみると、芯が強くあるおかげで核心部分は素晴らしいと思いました。そしてこのコメディという描き方にもある程度納得できる部分もあります。
コメディは笑えて、間口が広いんです。アクセスがしやすい。だから広範囲の人に見てもらえるわけで、描かれることが厳しい女性への抑圧や暴力であっても、見ていきやすい。
シリアステイストであるとあまりに酷くてついていけないこともありますから。
アーリヤー・バットはやはりどこか可愛げある少女のような快活さと美しさ、可愛らしさを持っていて、それを振りまきながらも心の奥に芯の強さも感じさせます。
ポップさと同時に、残酷な現実についてそこまで薄れさせない演技の力があります。
実際事実だけを並べると、酒癖の悪い夫に少しでも料理が気に入らなければ首を絞められ殴られ。何か買い物をすれば贅沢だと罵られ指をつぶされ、妊娠している妻でも階段から突き落とし流産もさせる。
シリアステイストでいけば地獄すぎて見てられない方もいると思います。だからこそすこしライトにしたというのは、リスクも追いながらも多くの人にこの現状を届けるためなのかもしれません。
リスクとはもちろん、問題を矮小化してしまうことです。DVを笑っていいことだと思われかねないリスク。でも、この作品では一貫して夫を悪にします。徹底的に。
被害者を操るDV男の見事な描写
そして人物の造形として、DVクソ野郎の描き方として本当に素晴らしいのです。それは夫が普通に見ていて悪人に見えないということ。
彼は酔いがさめればバドルには優しい。見た目から割るって程でもないし、外での暴力はほぼないんです。情けない感じも出すし、変な可哀そうさもある。だからリアルで質が悪い。
バドルに対して、この人も謝っているし。。。とか、チャンスを上げようか。。。と思わせてきて、その罪悪感を利用してずるずると関係を続けさせる。だからこそ最悪なんですよね。
途中でバドルが夫を告訴しておきながら、可哀そうになって、チャンスを上げたくて告訴を取り下げて家に連れ帰るシーンがあります。
コミカルに描かれていますが、実際こういう風にどこか精神的に縛られてしまう女性も多いでしょう。
絶対に許さない姿勢
そのうえで、この映画はこのクソ男に赦しは与えません。本当に質が悪い男のやり口とそれに引きずられる女性は描くんですが、作品として男を許さない。
最後の最後までバドルはハムザの行為を許すってことはない、最終的には人生から消え失せろと叫ぶんです。最終的にハムザが列車にひき殺されていくのは、監督からのメッセージかつ、現実にはない断罪なのだと感じます。
映画の中ではせめて、決して女性の手は汚さずにこうしたクソ男を始末してやるってのは良いもんです。
そして母の物語が明らかになり、こうした男性からの加害というものが、女性たちを長い間苦しめ続けていること。一件ではなく世代を超えてこのようなことが続いてきたこと。
ただ、すべての男性を悪とはせずに、味方になってくれたおじさんもいます。実際、お母さんのことを好きになって支えようとする若い男性もいます。
インド映画と言えばダンスや歌と思いがちですが、ジャンルのバランスを取りつつ女性主体でマッチョではない映画。屈せずに決して甘い赦しなんて与えない連帯と叫びを込めた女性映画で楽しめました。
アーリヤー・バットを「RRR」で知った方も多いと思うので、彼女の主演って理由で観てみるのでも良いでしょう。
なかなか良い映画に出会えました。感想はここまでです。ではまた。
コメント