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「テルアビブ・オン・ファイア」”Tel Aviv on Fire”(2018)

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映画レビュー
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「テルアビブ・オン・ファイア」(2018)

  • 監督:サメス・ゾアビ
  • 脚本:サメス・ゾアビ、ダン・クレインマン
  • 製作:アミール・ハレル、ベルナルド・ミショー、ミレーナ・ポイロ、ギリス・サクト
  • 音楽:アンドレ・ジェジュク
  • 撮影:ロラン・ブリュネ
  • 編集:キャサリン・シュワルツ
  • プロダクションデザイン:クリスティーナ・シャッファー
  • 衣装:マグダレーナ・ラブズ
  • 出演:カイス・ナーシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン、マイサ・アブド・エルハディ 他

第31回東京国際映画祭、コンペティション部門出品、そしてイスラエル映画の現在2018枠であるこちら、サメフ・ゾアビ監督作。

監督はこれで長編としてはまだ3作目くらいとのこと。東京国際映画祭だけでなく、海外の映画祭でも注目の作品とのことで、今年のなかでも期待していた作品。

主演を務めるのは、「パラダイス・ナウ」(2005)などのカイス・ナーシェフ。

今回はQA付きの上映で、監督と、作品内では検問所所長アッシを演じたヤニブ・ビトンさんが登壇。そこでも触れていただきましたが、今回はEXシアターが終始笑いに包まれるとてもいい映画体験でした。

職もなく彼女にも愛想をつかされたさえない青年サラムは、テルアビブにあるテレビ局に勤める叔父の紹介で、大人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本チームの一人となる。

とはいえ話もセリフも全く思いつかないと困っていたところ、検問所で所長のアッシと知り合い、彼のアイディアを参考に脚本の執筆を始める。

アッシの案のおかげで、彼は職場で信頼を得てさらにドラマも好調だ。

しかし、チームで決めていったドラマの結末に、アッシと番組スポンサーが難色を示しだし、サラムはどうにか間を取り持ちながら、ドラマの完成をさせなくてはいけなくなった。

めちゃおもしろかったです。最高。

コメディの笑いに乗せて、ずっと楽しく見ていられながらも、すごく巧妙にイスラエルの歴史や現代、そしてそこに暮らす人々の今が織り込まれ、それだけでスゴいのに人物たちのなんとも愛嬌のあるキャラとドラマにのめりこんでしまいました。

全編コメディにしているのは、誰でも(イスラエル事情に疎い日本人の私でも)楽しく観れる、つまりイスラエルの現状へのアクセスとしてとても気楽で重くなりすぎず素晴らしかったと思います。

学べる間口がとても広いんです。

もちろん、正直笑えない事情も描かれます。

パレスチナの解放からオスロ合意の実質的な失敗。そもそもTAOF(テルアビブ・オン・ファイア)の舞台設定が第三次中東戦争直前の1967年だったりと、なかなかシビアです。

バカワイイ所長アッシも、やはり大きな壁で囲い人を隔てている検問所の人ですし、サラムが仕事に行くだけで感じる隔絶の現状は、決して笑うだけのものではないんです。

ただ、深刻にぶつからず、変だよね。おかしいよね。というように優しくアプローチしてしっかりと観る人に理解させてしまうその腕前には感服です。

サラムのうだつの上がらなさやアッシの子供じみながら常軌を逸したドラマ制作への口出しなどおかしさ満載に笑わせてくれる中で、イスラエルの今を生きるその感覚もわかります。

キャラクターがみんないい味を出していて、彼ら個人のドラマもとても見どころになっていて魅力的。

アッシは実際のところただ奥さんを驚かせたいだけですし、彼自身検問所の仕事には嫌気がさしています。検問所なんてなくていいのに、それがイスラエルから聞こえた本音に思えます。

またサラムも段々とですが、アッシ頼みではなく、自分で脚本を執筆し始めますね。そこかしこに想いを寄せるマリアンとの歴史をちりばめ、自分の物語にしていくのが熱かった。

私はそこにとても感動しましたね。個人的にですけど、イスラエルのドラマ製作を舞台にした「クリード チャンプを継ぐ男」だと思っています。

まあ言い過ぎかもしれないんですが、私にとってこの作品は、ダメ男サラムが必死に頑張り、文字通り自分の物語を書くことだと思うんです。

そしてそれは同時に、イスラエルの今を生きる若者が、自分の時代を、国の将来を描いていくことにも重なって見えたのです。

叔父との会話で、ラストシーンについてサラムが説得を試みるシーン。

たしかにアッシからの脅しもあるでしょうけど、あそこで「何を残してくれたっていうんだ。」が響きました。民族の分離、戦争、続く混乱と形骸化した合意。

たとえ将校と女スパイを結婚させてても、確かにアッシの言う通り、第2のオスロ合意つまりドラマ内での見かけ上の仲直りでしかないんです。

そして自爆テロはもちろん、誰も望んでいるわけのないエンディング。

そんなものばかり残されて、サラムは自らこの先を決めていきたいと訴えるわけです。

最後まで爆笑をもたらす仕掛けがあり、最高に楽しくて。

そして確かに、これからの国や自分の人生の脚本家は、自分だと認識させられました。

なりたい自分や、したい環境にしていく。そのために筆をもって頑張らなきゃ。サラムのように、私たちも自分たちのドラマの脚本執筆をしましょう。

サラムのようにうまく機転を利かせていけば、きっといつか理想のエンディングを迎えられると思うのです。

イスラエルからのコメディに託された歴史と現実そして将来への希望。かなり気に入った作品ですので、是非一般公開されてほしい1本でした。

感想はこのくらいで、それではまた~

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