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「ウォーリアー」”Warrior”(2011)

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warrior-2011-movie-mma-tomhardy 映画レビュー
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「ウォーリアー」(2011)

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作品解説

  • 監督:ギャビン・オコナー
  • 脚本:ギャビン・オコナー、アンソニー・タンバキス、クリフ・ドーフマン
  • 製作:ギャビン・オコナー、
  • 音楽:マーク・アイシャム
  • 撮影:マサノブ・タカヤナギ
  • 編集:ショーン・アルバートソン、マット・チェス、ジョン・ギルロイ、アーロン・マーシャル
  • 出演:トム・ハーディ、ジョエル・エドガートン、ニック・ノルティ 他

2011年に公開され、総合格闘技を舞台に兄弟の戦いを描く本作。ニック・ノルティがアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたことで有名。

しかし公開時の興行収入でコケてしまい、口コミの広がりとDVDセールスで注目されるまでは認知がイマイチでした。

日本での公開が無かったのは興行の心配や、日本での人気俳優がいないことでしょうか?

今でこそ、主演のトム・ハーディは「ダークナイト ライジング」(2012)のべインを演じ、この先公開される「マッド・マックス」新作の主演も決定している注目の俳優ですし、ジョエルも「ゼロ・ダーク・サーティ」(2012)に出演、リドリー・スコット監督の新作「エクソダス」にも出演します。

とにかく、ライジングスターが共演し、ノルティのベテラン感も引き出された作品で、日本公開されなかったのが残念です。でもいつかスクリーンで観たいなぁ・・・

※2013年に初めて書いた記事に、追記更新をしています(2024年10月22日)

~あらすじ~

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父のアルコールと暴力が原因で離散した家族。母、兄弟は父から離れていたが、ある日弟のトミーが父の家に帰ってくる。過去を語らず、母の死だけを告げる彼はしばらく父のもとで生活を始める。

一方兄ブレンダンは父と離れた後家庭を持ち、娘たちと幸せに暮らしている。高校の教師である彼だが、家のローン返済に苦しみ、一度はやめたケージファイトで少しでも稼ごうとしていた。

それでも試合で受けたケガから高校側にブレンダンが地下格闘技のような場所で描け地合いをしていることがバレてしまい、高校を一時停職処分になってしまうのだった。

そんなとき、金融業界の大物が多額の賞金を掲げた総合格闘技の大会が開かれることに。

ブレンダンは賞金のために、そしてトミーもまた何かを考え格闘技の世界へ。離れていた兄弟がここで再び出会う。

感想レビュー/考察

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凄まじい迫力の総合格闘技映画

トレーラーで観るとなんかその手のファイト映画に見えるんですが、お話自体はどちらかと言えば家族ドラマかと思います。

ややサブプロットが余計にあって消化していなかったり、動機づけが分かりにくかったりしますが、引き込ませる力はあります。終盤には完全に見入っていました。

スポーツ映画で大切なのは、いかにそれらしく見せるかだと思っています。

その点でこの映画は納得の迫力があります。目につくのは鍛え上げられた体で、ジョエルもムキムキですが、トムの体は恐ろしいくらいに鍛えられていますね。

彼自身そこまで背が高くは無いですが、ものすごい迫力です。まさに闘うための体。

俳優たちに加え実際の格闘技選手らを集めているので、ファイトシーンもリアル。パンチ、キックの打撃、投げ技に固め技、そしてマウントを取っての猛攻は凄まじい!

カメラでのとらえ方についても良いと思います。

俳優陣は実際かなり怪我をしたらしく、撮影中の通院もしばしばあったそうで、その努力のおかげで素晴らしいファイトになっていると思います。

それぞれが背負う過去と語り口の巧さ

ファイトの迫力に試合の大切さが加わるといいですね。

その戦いに意味を持たせるというか。

父の贖罪を果たそうとする姿。ニック・ノルティは素晴らしい演技で、ただ兄弟再会のきっかけだけに終わらないドラマを見せてくれます。

兄ブレンダンは今ある家族を失いたくない。自分のせいで家族が家を失う、共に暮らせなくなる。父のようにはなりたくないのです。

トミーは家族を失いました。父は家庭を怖し、兄は去ってしまった。海兵隊で新たに得た兄弟たち。その家族のために闘います。

力不足で母を救えなかったこと。父のようになりたくないのは彼も同じでした。

今作がそんなドラマチックな部分を持っていながらも、監督の手腕が光るのはそれらを語りすぎないこと。

回想シーンもなく、明示されるような父の暴力はない。ただ壊れてしまった父子の関係性や会話の冷たさからどれだけのことが起こったのかを、観客に感じ取らせるんです。

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やり直そうとする家族の葛藤を観客自身が深く入り込み考える

3人の抱えている問題は分かる。みんながやりなおそうとしている。

起きてしまったことについては十二分に感じ取れる演出を入れておきつつ、考える余地を多くとっている。そこで俳優たちに任せて各人物もまたほんのり曖昧な描き方にして、だからこそ葛藤を際立たせる。

父は子どもたちと再び親子関係を取り戻したいようにも思えますし、しかしただ赦しを求めているようにも思えます。

戦争に行っていたと語る姿や、「白鯨」を繰り返し聞きながら、エイハブ船長を非難するのは、もしかすると彼自身が上官のせいで仲間を失うことになったのかもしれません。

そうすれば酒に逃げて泥酔して家族を殴っていたことも、ただのクソ男とは片づけられない。

ブレンダンも実際父を許せないのか、今もまだ父に振り向いてほしいのか。トミーは怒りに満ちているように見えながら、悲しみに囚われているようにも見える。

トム・ハーディが戦士した仲間の妻に電話するシーンがありますが、あそこでの笑顔や心遣いある優しい口調など、荒れ狂う嵐のようなトミーにかつて持っていた安らかさを感じ取らせるのはすごく芸達者です。

誰にでも感情移入できて3つのドラマがすべて押し寄せる

それぞれがはっきりと白黒ではない。だから善悪もないし、主人公が全員にも見える。

誰にでも感情移入していけて、息子たちを見守る父の物語にも、救えなかった弟に愛を伝える兄の話にも、孤独と喪失の中もがいて家族のもとに帰る弟の旅路にも見える。

この解釈を自分の中で醸成する仕組みが、今作をなんともエモーショナルなものにして、観客を飲み込む力を生んでいるのです。

感動のスポーツドラマで、総合格闘技を舞台にドラマを織りなす本作。

ラストの5分くらいは、台詞も一切なく、ただビジュアルと音楽だけで締めていく。

最後のタップアウトは、降参の意味ですが、ここではまさにどうしても兄を許せなかったトミーが、最後に赦しを与えているということです。

ここでは一人で抱え込むことをついにやめて、助けと他者からの愛を受け入れることができるようになったトミーがいます。

傷つき、信じる者を失っていたアメリカ社会

ちなみに映画がアメリカで刺さった理由には当時の社会背景もあった気がします。

ピッツバーグはラスティベルトとして産業の中核の街。しかしリーマンショックで経済は大きく揺れてしまい、しかも他の都市と違って立ち直れない。

イラク戦争での暗部が公になり始め精神も深く傷ついたアメリカ。

苦しい生活や行き詰まり。ブレンダンに対して冷たく役立たずな銀行マンがでてくる。またトミーは戦争で味方の爆撃を受けてしまった。

経済や国家への不信と失望が根底に置かれ、そこにパディの信仰へすがる姿や、兄弟の魂の旅が響いてくるんでしょう。

個人的にはかなりおススメです。輸入盤BDなど手に入れるのは比較的簡単なのでできれば観て欲しいです。それよりいまからでも日本公開を・・・

今回はスポーツ映画の感想紹介でした。

ではまた。

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