「ダーク・アンド・ウィケッド」(2020)
- 監督:ブライアン・ベルティノ
- 脚本:ブライアン・ベルティノ
- 製作:ブライアン・ベルティノ、エイドリアン・ビドル、ソニー・マルヒ、ケビン・マトゥソフ
- 音楽:トム・シュレーダー
- 撮影:トリスタン・ナイビー
- 編集:ウィリアム・ブーデル、ザカリー・ワイントローブ
- 出演:マリン・アイルランド、マイケル・アボット・Jr、ザンダー・バークレイ、ジュリー・オリバー・タッチストーン、リン・アンドリュース 他
作品概要
「ストレンジャーズ/戦慄の訪問者」のブライアン・ベルティノ監督が、田舎の農場を舞台に、深い絶望と恐怖を描くホラー映画。
主演は「最後の追跡」などのマリン・アイルランド、「ディック・ロングはなぜ死んだのか?」で注目のマイケル・アボット・Jr。
また、ザンダー・バークレイが神父の役で登場します。
正直あまり情報を入れていなかった作品ではありました。トマトメーターの高いこととかで名前が聞こえ始めたのと、映画館のチラシの不穏さにひかれていました。
ちなみに話自体は結構残酷ですが、描写はそんなにグロいということもなくPGは12になっているんですね。
公開週末に観てきたのですが、ある程度人が入っていました。意外だったのですが、カップルがなぜか多かったです。
〜あらすじ〜
アメリカの田舎にある農場。母は病気の父を看病しながら、その存在を感じ取っていた。
年老いた母が父の介護をするのは大変だと、娘と息子が家を訪ねる。
しかし母は早くここから去ること、来てはいけなかったとしか言わず二人を突き放す。
そしてその夜、母は自分の指を細切れに切り落としたあと首を吊って自殺した。
残された娘と息子は父の看病を続けているとき母の日記を見つける。
そこにはそれが父の魂を欲していること、そのためにすべてを死に追いやるといったことが記されていた。
2人は母の残す言葉を信じられなかったが、家では奇妙な出来事が立て続けに起き始めた。
感想/レビュー
情け容赦なくただ無慈悲
ホラーと一言でいっても、ホラー自体にもジャンルがあります。タイプといっても良いのかもしれませんが。
今作がテーマにしているのはタイトル通りのものと思います。
純粋に悪しき存在、悪魔といったオカルトものです。ただただ無慈悲で汚く惨い。
情け容赦のないテイストや脚本というのは、それだけでも最近はあまり見かけないので私は楽しむことができました。
何かを撃退するとか、脱出するわけでもない。
一方的に追い込まれ死んでいくだけの映画ですが、その救いのなさがまたホラー映画として光っていく。
今作は舞台のほとんどすべてを田舎の農家で展開します。古びた家は薄暗く影を落とし、日中ですら独特の荒んだ空気を発している。
納屋も動物の動き含めて騒がしく、落ち着きのあるのどかな田舎の農場なんかでは決してありません。
全体の画面からは色彩が奪い取られており、荒涼としていますね。空もいつも曇りがかっており、そして夜の闇はとても深い。
また、音響についても、家自体がとにかく古いためか様々な音を発します。
床や柱、扉がきしむ音一つとってみれば確かに古典的ではありますが、今作のテイストには非常に効果的ではないでしょうか。
ちなみに音楽については、なんだかまとまらない気がしました。
音楽のジャンル自体が複数といいますか、非常に多様な楽器が使われていて分散しているように思えます。
シーンごとに何かマッチさせていたのかもしれませんが、私には音楽における統一性のようなものが欠けており、散漫に感じてしまうところでした。
恐ろしさはあれど怖がらせ方は普通
さてホラーであるならば、しかもこのように王道をいく悪魔ものであれば、怖いのかどうかが非常に大切だと思います。
結論、そこまで怖くはないです。
一つはまずジャンプスケアが割と多めであることでした。非常に激しいシーンが長めに続くことはないですし、しつこいわけではないですが、基本的な怖さがジャンプスケアなのはどうでしょう。
しかも、先述した音楽が割とクラシックに”怖いシーン”な高音使用だったりすること、そしてワンテンポ早めなのももったいなかったです。
音から怖いシーンを示唆してくれていて、新設設計なのかもしれませんが。
しかし私としてはもう一つの要素が決定的に怖さを半減させている要素でした。
それは各人物の掘り下げの弱さです。
今作は非常に登場人物を絞っています。またその規模としても家を舞台に狭いですね。
その小ささを持っていながらも、母と父、兄弟の背景に関しての掘り込みがほとんどないのです。
確かにこの掘り込みが無くても、怖ければいいだろうということも言えますが、私は人物に襲い掛かる脅威に対して、どれほどその人物を気にかけられるかが怖さに影響すると考えています。
全く知らないモブキャラが殺されても、それは”事実”でしかありません。
しかし思い入れが出るような背景が描かれるキャラクターが殺されれば、そこには”悲しみ”や”怒り”などの感情が生まれますよね。
今作は父リチャードを守ろうとし奮闘する兄弟が主人公ですけれど、彼らに関しての背景の描写がほとんどないのです。
それによって、いかに何かが襲ってきていたり、恐ろしいものが接近しても、「この人には無事でいてほしい。生き残ってほしい。」という感情が生まれにくいのです。
だからこそ、距離が出てしまいあまり怖いとは思えない。ここはもったいなく感じます。
怖がっている顔が怖い件
演者はみんな良かったと思います。特に主演のマリン・アイルランドは非常にいい仕事をしていると思います。
彼女には脆さがあります。決して勝てないであろう弱者としての脆さです。
この一家の中で父を気遣い、懸命に抵抗していくその奮闘には、勇気は感じられない。ただ恐怖を押し殺してでも抵抗しなくてはという気持ちが彼女を突き動かします。
バランスが良いのだと思いました。
必死さは伝わりますが、それゆえに状況に打ち勝つ可能性というのは出さない。
あと、彼女の顔力。
ドラマなどでは結構きれいで活力ありますが、今作は、やつれていてやせ細った感じ。
それゆえに彼女の顔が生み出すしわや、大きく見える目が効果的です。
シャワーシーンとか特徴的ですが、彼女が怖がっている顔が怖いんです。
「シャイニング」から「ヘレディタリー/継承」に至るまで、やはり怖がっている人の顔が怖いホラーって良いのですよね。
その点についてはかなり満足しましたね。
全体には掘り込みが薄すぎて、人物に寄り添えないために怖さもむごさも表層的には感じましたが、それでも何もできぬままにただ邪悪なものに喰い尽くされていくこの悲惨さを楽しむことはできました。
たまにはこうした救いのないホラーが観たくなるものですね。
ということで今回の感想は以上になります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。
それではまた。
コメント