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「荒野にて」”Lean on Pete”(2017)

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映画レビュー
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「荒野にて」(2017)

作品解説

  • 監督:アンドリュー・ヘイ
  • 脚本:アンドリュー・ヘイ
  • 原作:ウィリー・ブローティン 「Lean on Pete」
  • 製作:トリスタン・ゴリハー
  • 製作総指揮:リジー・フランク、ダーレン・M・デメトレ、ヴァンサン・ガデール、サム・ラヴェンダー
  • 音楽:ジェームズ・エドワード・バーカー
  • 撮影:マグヌス・ジョンク
  • 編集:ジョナサン・アルバーツ
  • 出演:チャーリー・プラマー、トラヴィス・フィメル、スティーヴ・ブシェミ、クロエ・セヴェニー、スティーヴ・ザーン 他

「さざなみ」(2015)などのアンドリュー・ヘイ監督がウィリー・ブローティンの小説を原作として映画化した作品。

主演を務めるのは、「ゲティ家の身代金」(2017)で誘拐されてしまう孫を演じていたチャーリー・プラマー。

また彼が出会う競走馬のオーナーをスティーヴ・ブシェミ、ジョッキーをクロエ・セヴェニーが演じています。

今作はヴェネチアでのプレミアなどのキャンペーン後に今年公開されましたが、各映画祭では高い評価を受けていますね。前から気になっていた作品なので、今回はブルーレイを輸入して干渉しました。

~あらすじ~

15歳の少年チャーリーは、父の仕事の都合で各地を転々としていた。

前の地を離れてきた彼は、新しい学校にも通わず、父のいない間はただあたりを走っているチャーリー。

ある日彼は、競走馬のオーナーであるデルを手伝ったことから、そこで馬の世話などの雑用を仕事として引き受けることになる。

世話を担当する5歳の馬、リーン・オン・ピートは、もう勝つことの難しい馬であったが、チャーリーは一生懸命に世話をし、レースを見守っていた。

そんなある時、チャーリーはピートが勝てなければメキシコに売られ、そこで処分されることを知ってしまう。

感想レビュー/考察

アンドリュー・ヘイ監督の新作は、少年と馬の物語。

しかし、やはり監督はありきたりな少年と馬の友情映画にはしていません。そこで描かれていたのはもっと広く普遍的な、生と死や成長と世界、孤独などだと感じました。

主人公を演じるチャーリー・プラマーですが、様々な面でとても生々しい、剥き出された感情をみせてくれています。

本来必要である保護者からの愛を失ってしまった少年の、哀しさや怒りは計り知れません。

お父さんは立派な父と言うよりは、大きな子供のような人でしたが、チャーリーにとっては触感のあるただ一人の家族で、愛をくれる人でした。

そんな父がいなくなってしまい、チャーリーはその場で泣くこともせず走り去る。

悲しいときに、泣けない。泣いてもそれを抱擁してくれる人がいないことを、チャーリーは知っているのです。病院に入ってからの長いカットで見事な演技でしたね。

そして彼は同時に、少年から青年へ、いや、無理にでも大人になるしかなくなってしまう。

叔母を求めてとは言えども、チャーリーはいやでも一人で生き、旅をしなくてはいけないんです。そこでは受け皿もなく、堕ちるならどこまでも堕ちてしまうとてつもない不安と孤独、怖さがあります。

彼を映し出すカメラ。

今作は正方形まではいかないですが、ワイドなスクリーンではないです。それでチャーリーとリーン・オン・ピートが荒野を歩く姿を遠くから映し出します。

ちっぽけで、そして空がやたらと大きく見える。広さと対比的な少年の小ささと、誰もいない寂しさ。

そして、街や建物では、その窮屈さが目立ちますね。ドア枠や壁がスクリーンに入り込み、チャーリーのいるスペース自体がとても狭苦しい。

マグヌス・ジョンクによる撮影が残酷すぎますよ・・・

チャーリーは実際かなり危ういところまで堕ちていきます。

それは貧困の底であり同時に、暴力を振るうという倫理的なところにも。プラマーは生き抜くために、自分を守るために他者を傷つけるまでに至ってしまったチャーリーの、自分に対する恐怖まで繊細な演技で引きつけてくれています。

チャーリーは拠り所なく、ただピートに対し独り言でありながら会話をして旅します。

自分の昔の友達や学校のこと、昔叔母としたキャンプのこと。

そうした会話は全てただのお話ですが、どれもがチャーリーの深いところにある感情ですね。それは昔感じた孤独への恐怖。

夜の闇に包まれたときに、外にいると寂しくて耐えられなかった。

また学校の思い出は切なすぎて観ていて泣けてきました。

馬を連れてホームレスになって荒野を歩く自分ではなく、今も父と遊びに行き、新しい学校でフットボールをやっているチャーリーを覚えていてほしいなんて・・・

少年だからとか関係なく、やはり尊厳があるんですよ。恥があるんです。苦しすぎる。

またこの作品は出会う人物みんなが何気ない会話をしますが、その全てがとても意味深く印象深いですね。

そして監督はどれも説教臭さや、カメラの後ろからの語り掛けを感じさせずに、あくまで自然に人物から出たものに感じさせてしまうんです。スゴイ。

人物は誰も完璧な人はいませんが、残酷な人に思われそうな、スティーヴ・ブシェミが演じているデルにすら、ホロリと切ない味わいがありますね。

「これ以外何もできなくなる前に、こっから出ていけ。やれることが他にもあるうちにな。」

ホテルでの台詞は彼の人生となにか後悔を感じさせ、しかし多くの観客も抱える感情を引き出すようです。どうしていまこういう人生を送っているのか。もちろん人によるかもしれないですが、何かできたかもしれないというのは常ですし、そして若い人であれば、その無限に思える可能性がだんだんと輝きを失う怖さを感じると思います。

その行き詰まりは、若くてもあるんですし。

途中チャーリーが出会った少女。祖父にひどく扱われながらもそこでしか生きることのできない彼女が、チャーリーに言う台詞もまた普遍的。

ああして苦しむ人って本当に多いと思うんですよ。

その爺さんに軍人の男が、「文句言うな。少なくともそうやって面倒見てくれる人がいるってのは幸運なことなんだ。」と言い放つシーン、すごく良かった。

その直前に、体が半分にちぎれた少女を観た話をした彼がいうからこそ、何か粗暴なことへの怒りが強く感じられますし。

馬はチャーリーにとって自分自身でしょうか。

使えなくなれば捨てられてしまう。持ち主はあくまで市場価値において所有するだけで、親のような保護者もいません。

ボニーは散々、愛着を持ってはいけないと言いますが、自分自身を重ねていたのだとすれば、チャーリーがピートを自由にさせたい気持ちも分かります。

貧困。愛と保護の喪失。チャーリーを主軸に世界を、その残酷さも赤裸々に示していく本作。

そしてチャーリーだけでなく、この世界に生きている人物たちのそれぞれの人生も残酷にもみせています。

少年と馬の物語はどこまでも枠を超えて、普遍的な人間の恐怖や不安をあぶりだすものに。ただそれでも、チャーリーのように私たちは走り続けるしかない。いつかその足がダメになれば、終わりが来ると知っていても、やはり生きていくしかないんですね。

アンドリュー・ヘイ監督の新作、素晴らしかったです。チャーリーでもデルでも、誰かに自分が見えたり、自分の過去が見えて辛いですが、だからこそ響いてきて大切な作品でした。

感想はこのくらいで。それでは。

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