「シークレット・エスケープ パリへの逃避行」(2017)

  • 監督:ドミニク・サヴェージ
  • 脚本:ドミニク・サヴェージ
  • 製作:ガイ・ヒーリー
  • 製作総指揮:ジェマ・アータートン、ポール・ウェブスター、ジュリアン・バード、ジョセフ・バリー・Jr
  • 音楽:アレクサンドラ・ハーウッド、アンソニー・ジョン
  • 撮影:ローリー・ローズ
  • 編集:デビッド・チャラップ
  • 衣装:ライザ・ブレイシー
  • 出演:ジェマ・アータートン、ドミニク・クーパー、ジャリル・レスペール 他

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「Love + Hate」を監督し、俳優や脚本家としても活躍するドミニク・サヴェージが送る、ある妻の逃避行。

主演は「人生はシネマティック!」などのジェマ・アータートン、夫役には「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」などのドミニク・クーパー。

作品は第31回東京国際映画祭の特別上映で披露されていましたが、当時はスケジュールが合わずに見ていませんでした。

その後一般劇場公開はなかったようです。

今回はソフト販売で安くなっていたので購入して鑑賞。正直ジェマ・アータートン主演に惹かれてみました。

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タラは成功した夫と二人の子供を持ち、豊かな生活を送っている。

郊外の広い家に住み、車を2台所有。不自由のない生活に思えるが、タラは苦しんでいた。

彼女は夫と子供の食事を作り、世話をし、妻として母としての務めを果たし続ける。夜の夫婦生活も彼女にとっては責任ある務めであった。

そんなとき、ふとロンドンでみつけた美術の本でそのタペストリーに心奪われるタラ。

長らく感じたことのない自分の時間、自分の人生を一瞬でも味わった彼女の中で、変化が起き始める。

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プロットだけを読めば、なんともありきたりなメロドラマというか、正直お昼にやってる不倫ものドラマのように感じるかなと思います。

DVDとかの宣伝文句も、「欲望と裏切りに満ちた官能サスペンス」とか書いてあるんもので、そういう勘違いをするかと思います。

事実でいえば、確かに妻が家出してパリで不倫して帰ってくる話であるにしても、ここに描かれているのは魂の旅であるのだと思います。

つまり表層の事実以上に、深いところまでの観察です。

目の前に起こる行動や態度に、夫のドミニク・クーパーが困惑する様も見事ですが、タラは彼女の中にかかえこんであまり表に出さないため、観客がよく観察する。

撮影するカメラはカットが割られずにそばにいるような距離から、タラを見つめています。

ダルデンヌ兄弟の作風のように感じる手触りで、タラの日常をキッチンから保育園、そして寝室まで追っていくカメラ。

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ジェマ・アータートンは物静かで、しかしその眼や表情で雄弁にタラの塞ぎきってしまった人生を語ります。

そこに触れることのできる感情や、感情が抜けきってしまった表情まで、観ている側が深く察することで、今作の探求に繋がることができます。

ジェマ・アータートンが見事すぎて観てくださいとしか言えません。

彼女は、気づけば自分は他者の所有格付きの名刺であり、主格を失った絶望にも思える状況を、周囲に対応する身体と、押し込められる心の解離をもって伝えています。

クロースアップで写し出される日常の中、身体と心が近くなるはずのベッドでのシーンは辛いです。

顔を合わせない構図、夫と妻の反応の違い。

「I’m not happy」という明解ストレートな言葉。

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心象描写が多めなところはやや目立っていますが、口に出すことすらできていないタラの心の描き方としては適切に思えます。

そして先にも書いたように、夫のドミニク・クーパーの力もかなり大きいのかなと思います。

別に悪役ではないんですよね。

彼は彼なりに、(それがタラにとっては負担だとしても)夫婦関係を保ち、幸せな家庭を続けたいわけで、一方的に加虐的なわけではありません。

妻との隔絶に恐れを感じている表情などすごく良かったです。

このリアクションもあってこそ、タラの逃避が複雑なものになるのです。

愛していないわけではない。

ただ、愛するゆえに妻、母であることに縛られる。

誰しもがどこかで妥協し、逃避している。

究極、人生とはままならないもので、自分の望んだ形に収まるわけでもないんです。

ドミニク・サベージ監督がジェマ・アータートン、ドミニク・クーパーの力を得て、表層的には繰り返された話において、そのレイヤーの下へと観客をくぐりこませる作品でした。

今回の感想はこのくらいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

それではまた次の記事で。

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