「TENET テネット」(2020)
- 監督:クリストファー・ノーラン
- 脚本:クリストファー・ノーラン
- 製作:エマ・トーマス、クリストファー・ノーラン
- 製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ
- 音楽:ルドウィグ・ヨーランソン
- 撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
- 編集:ジェニファー・レイム
- プロダクションデザイン:ネイサン・クローリー
- 出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー 他
「ダークナイト」や「ダンケルク」などのクリストファー・ノーラン監督が描く、逆行する時間をめぐるスパイアクション映画。
主演は「ブラック・クランズマン」のジョン・デヴィッド・ワシントン。また組んで行動するエージェントは「ハイ・ライフ」などのロバート・パティンソン。
その他エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナーらが出演。
ノーラン監督の新作とのことでかなり前から話題になり、本物の大型ジェットを使ってのクラッシュ撮影なども注目されていました。
新型コロナウイルスの影響で公開が危ぶまれた中で、他のスタジオとは異なってほぼ予定通りの公開をした作品。
さすがに話題サクトもあるからか、IMAXでもかなり混みあっていました。
ちょうど観てきた劇場は食事制限の代わりに座席を全席指定可能に変更したこともあって、グループでの鑑賞がしやすかったのかも。
CIAエージェントとして任務にあたる男は、ウクライナの劇場でのテロ事件に、当局のフリをして潜入。
本当の目的はCIAが追っていた謎の装置の回収だった。
そこで彼は壁に打ち込まれた弾丸が逆行するように飛び出し銃へと戻っていく現象を見る。
さらに彼は謎の集団に捕縛され、拷問を受けてしまい、仲間をかばうために支給された毒薬を飲み自殺を図った。
目が覚めると、すべてはテストだったと聞かされ、今度は世界の破滅を防ぐ任務を与えられる。
クリストファー・ノーラン監督はその映像や時系列を巧みに構成し、一連のドラマ展開の中に、観客がピースをハメていくことでの心地よさや発見を組み込むことが多く感じます。
非常に独特なSF世界を展開し、それをできるかぎりフィジカルなやり方で実現していく。
今作も公開前の評判に違わず、複雑で難解な設定を広げていく、そして逆行するアクションを前へ進行するアクションと組み合わせて観たことの無い世界をみせてくれています。
まずここで言いたいのは、主演ジョン・デヴィッド・ワシントンの体術。
彼のフィジカルの使い方に関しては、この逆行アクションのかなめと言っても良いのかもしれません。
また彼はスーツ映画要素もある今作で、そのファッション部分も見せてくれています。
まあその点でいうと、私はロバート・パティンソンの演じたニールのスーツのチェック柄や、あのオシャレなドレスシューズがかなりツボですが。あんなシューズ欲しいな(履きこなせないけれど)
そしてもちろん、本物のジェットを倉庫に突っ込ませるのをガッツある長めのシークエンスで見せるとか、船やボートなど、相変わらずのスケール感を楽しめます。
そしてルックについてももちろんですが、音響、音楽もさすがの構成です。
IMAXというのもあったのですが、音の構成は逆行する音含めて迫力があり、体の震える轟音は「ダンケルク」に近いものがあります。
また今作曲家界の筆頭ともいえるルドウィグ・ヨーランソンのスコアも良かったですね。
現実世界音かのようにに思わせてのスコアという点は「クリード チャンプを継ぐ男」の頃からカッコいい。
また今作ではスコアについても逆再生している箇所もあったかと思います。
しかし撮影ではイマイチな点も。
ホイテ・ヴァン・ホイテマが撮影監督ですが、今作は動きはあっても圧倒されるようなショットはありません。
印象強い絵面って、今回はなかった。
とまあもちろん一定以上のスリルや楽しさがあり、決してつまらないわけではないのですが、今作に関しては私はあまり楽しめませんでした。
ひとつ大きな点は、まずCIAを絡めての世界の滅亡を食い止めるスパイアクションとして、話が魅力的でない事。
これは時間移動の概念を入れ込んだとしても、それ自体はありきたりなものでした。結局は謎の人物は全て自分って、もう飽きました。
スパイものとして007をモロに意識したような、悪のボスに近づくためにその妻に取り入る設定とか、先ほど書いたようなスーツ映画要素とか。
スパイものとしてはガジェット、アクション(単純にうるさい)、展開設定などに魅力がなかったです。
騙しあいやツイストは時間移動に吸い取られていて、その他にウィットに富んだ感じがしません。
そしてもう一点は複雑であること。
というよりも、複雑であることで作品の質が上がると思っているような点です。
確かに他の作品にくらべて、科学考察やら時系列での遊びの多さから、1回観ただけでは完全に把握することは難しいかもしれません。
しかし、話が難解であることと、質の高い作品であることは乖離していると考えます。
あまりに人物に説明台詞をしゃべらせるノーラン監督の苦手な部分が今作は露骨に出ています。
個人的には「ダンケルク」のように映像が語ることで理解する方が好きです。今作はアクションの無いシーンではしゃべってばかり。
その情報過多の本流で、観客をごまかそうとしているように思え、それはかなり失礼だなとすら感じます。
さらに、今作はドラマ性に欠けています。
もちろん、ニールと主人公の、絶対に交差しない、お互いの始まりが終わりである友情は切なく熱いものですが、何しろ気になったのは、主人公が極めて無条件にキャットを救おうとする点です。
エリザベス・デビッキも、訛り方が面白いケネス・ブラナーも良い演技ですし、注意喚起が必要なほどに精神的なDV、支配欲を描くのは良いのです。
ではなぜ主人公はああまでしてキャットを救おうとするのか、その点につながりを見て取れませんでした。
さらに、自分自身理解を完全にするための複数鑑賞の必要性も、すべてドラマ部分ではなく機械的な、技術や時系列整理のものしかありません。
だから何度観てその細部のディテールを理解しようとも、それはアクションや逆行シーンに関してピースが埋まるにすぎず、哲学的な部分での疑問・解決点は無いのです。
つまるところ、そのような哲学の部分ではかなり単純な話でしかない。
それを映像と休ませることの無い情報で覆い流し込んでいるだけに思えます。
間違いなく各セクションのレベルは高いですし、正直主人公とニールの時を超えた、交差しないが非常に強いつながりを持った友情は、映画史に残っても良い可能性があります。
ただそれらを薄めるほどに、疲弊するほど喋りまくり設定だらけで情報過多な圧力が存在します。
個人的には残念な作品です。
合う合わないの話ですが、「ダンケルク」のストーリーテリングが好きだったので、これが「インセプション」よりになってしまったのはちょっと悲しい。
劇場をでて友人と話しても、やはり展開に関してのディテールの疑問はあっても、ドラマに関する解明欲求はありません。
とりあえず劇場鑑賞がおススメですし、設定考察が好きな方には最高の作品です。哲学に関して、そしてスパイアクションとして物足りないということです。
今回は好きになれなかったですが、今後もノーラン監督は間違いなく斬新な切り口を提供し続けるでしょうから、期待の監督です。
感想は以上になります。最後までありがとうございました。
それではまた次の記事で。
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