「潜入者」(2016)
- 監督:ブラッド・ファーマン
- 脚本:エレン・ブラウン・ファーマン
- 原作:ロバート・メイザー
- 製作:ブラッド・ファーマン、ドン・シコルスキ、ポール・M・ブレナン、ミリアム・シーガル
- 製作総指揮:マーティン・ラッシュトン=ターナー、キャメラ・ガラーノ、ピーター・ハムデン、ノーマン・メリー、ブライアン・クランストン、ロバート・メイザー
- 音楽:クリス・ハジアン
- 撮影:ジョシュア・レイス
- 編集:デビッド・ローゼンブルーム、ルイス・カルバリュアール、ジェフ・マカボイ
- 出演:ブライアン・クランストン、ジョン・レグイザモ、ダイアン・クルーガー 他
実在の潜入捜査官であるロバート・メイザーを元にした伝記映画。監督は「リンカーン弁護士」(2011)のブラッド・ファーマン。主演にはブライアン・クランストン。最近はほんと良い感じの演技を連発する彼ですね。
今話題?というかなかなか取り扱われるものとしては多くなっている、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルを扱っています。
そういえば去年「ナルコス」ってドラマがありましたっけ?まあ、今作はインサイダーではなく、アウトサイダー物語で、より実在の捜査官たちの任務に焦点を当てている作品になっています。
うーん、まあ公開したてで人は多めでしたが、この手の映画なんでね。めちゃくちゃ怖いって感じではないですが。
アメリカ関税局の潜入捜査官であるロバート・メイザーは、麻薬組織やギャングに潜入しその見事な腕で逮捕に尽力していた。
危険な仕事であり、また年齢もあって引退を考えていたロバート。そんなところに同じ潜入捜査課に来たエミールにある話を持ちかけられる。
それは大きなコロンビア麻薬組織の潜入捜査に関するものだった。
始めは渋るロバートだったが、最後はその潜入捜査に協力することに。それは麻薬王パブロ・エスコバルにもつながる、マネーロンダリングに対峙するものだった。
潜入物は数多くありますが、今作を観てとにかく脳裏に浮かんだ映画は、ブライアン・デ・パルマ監督の「フェイク」(1997)でした。あちらも実在潜入捜査官の話でしたね。
というのも、構成やその要素が似ていますから。麻薬組織に触れ、深入りしていくなかで、自身のアイデンティティーに葛藤し、また倒すべき相手に情が移ってしまうんです。
そうなると、主演の存在に大きな役割を背負わせることになりますが、今作でのブライアン・クランストンは十分にロバートの心情をドラマチックに表現できていると思います。
この作品は彼の輝く演技のショーケースと言っていいです。
感情が高ぶる演技というよりも、感情を高めなければいけない場面に追い込まれた男の演技。自分でない自分を演じることに苦悩するという演技。複層的で見ごたえもあります。
彼がリードしていく中に、ダイアン・クルーガーやジョン・レグイザモの、死に直面する恐ろしさも増していると思います。
と、リードするブライアン・クランストンが光っているのは良いのですが、そこでちょっと気になったのはお話の部分。
潜入捜査物の特にスリルのある部分は、バレるかバレないか、そしてどこかでしくじってしまうのではないかという怖さだと思います。その点では、結構普通に話が進む上、ロバートが信用されていく要因が分かりにくいと感じます。
エスコバル側が彼を許す理由や、血の棺を届けるだけ個人特定しているのに尚潜入を許しているところなど。いまいちしっくりきませんでした。
またスリル要素として、言語面の演出が気になります。組織の連中がスペイン語で会話をしているところで、丁寧に英字幕を出すのですが、相手が何を言っているのかわからないという怖さを消してしまっているように思えました。
ここはあえて伝えないことで、ロバートと共に闇の中切り抜ける怖さを体感できる方が良かったかも。
終盤にかけての心情描写もしっくりきませんでした。
そこまで組織側との心の距離が近づいた感覚が汲み上げられていない気がします。というのも、やはり組織側の人間と仲良くするところでは、常に一定の緊張感が置かれているので、リラックスしないんです。
リラックスして、人として心の距離が近くなる描写があれば、最終的に逮捕することが”裏切り”に見えて辛いのですが。
ブライアン・クランストンは素晴らしい演技で、潜入捜査によって複雑で緊張のある心理状態に追い詰められていく男を見せてくれます。
彼を追いかけることは間違いなくこの映画の見どころですが、クランストンに対して脚本や演出が並び立つことができていないような印象でした。
ということで、レビューはおしまい。クランストンは主演でもっていきすぎかも?w良いことですが、彼に負けないカウンターと監督とかが必要なのかも。そんなところで。では、また。
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