「トップガン マーヴェリック」(2022)
作品概要
- 監督:ジョセフ・コシンスキー
- 脚本:アーレン・クルーガー、エリック・ウォーレン・シンガー、クリストファー・マッカリー
- 原案:ピーター・クレイグ、ジャスティン・マークス
- 製作:ジェリー・ブラッカイマー、トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー、デヴィッド・エリソン
- 音楽:ハロルド・フォルターメイヤー、レディー・ガガ、ハンス・ジマー
- 主題歌 「Hold My Hand」レディー・ガガ
- 撮影:クラウディオ・ミランダ
- 編集:エディ・ハミルトン
- 出演:トム・クルーズ、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、グレン・パウエル、ジョン・ハム、ルイス・プルマン、モニカ・バルバロ、ヴァル・キルマー、エド・ハリス 他
「トロン・レガシー」などのジョセフ・コシンスキー監督が、1986年公開のヒット作「トップガン」の続編を描き、再びトム・クルーズが伝説のパイロット”マーヴェリック”としてスクリーンに戻る作品。
監督とトム・クルーズは「オブリビオン」でも組んでおり、また今作では初代「トップガン」でマーヴェリックの親友だったグースの息子役で「セッション」などのマイルズ・テラーが出演。
監督は「オンリー・ザ・ブレイブ」でマイルズ・テラー、ジェニファー・コネリーを起用していましたね。
その他に今回トップガン卒業生のエリートパイロットとして、「ドリーム」のグレン・パウエル、ルイス・プルマン、モニカ・バルバロなどが出演。
また、前作ではマーヴェリックとはライバル関係だったアイスマンとして、ヴァル・キルマーも出演しています。
企画自体は2010年くらいから上がっていて、当初はトニー・スコットとジェリー・ブラッカイマーに話が持ち込まれ、クリストファー・マッカリー監督にも脚本の依頼などあったようです。
いろいろと紆余曲折があってから構想自体も変化して撮影がスタート。実際の戦闘機に俳優がのっている撮影シーンなど公開され話題になりました。
しかし完成後も公開が延期、2020年には新型コロナの影響を受けて幾度となく公開を延期してきました。
そしてようやく、2022年になって世界で公開されることに。カンヌでのプレミアが空母で行われていたり、そこにトム・クルーズが自分でヘリを操縦してやってきりと話題が絶えません。
トム・クルーズは日本のプレミアにも来てくれて、SNSでは彼のファンへの信頼や愛ある対応が絶賛されていました。
一般公開の初週には都合が悪くて行けず、ちょっと遅れての鑑賞。IMAXで観てきましたが、年齢層がいつもと違う。やはり86年のリアルタイム世代がすごく多かった気がします。
そして初週も次の週も、朝から夜の回までほとんど満席になっているというのも、本当に久しぶりに見た光景。
映画が生き生きとしていました。
~あらすじ~
米海軍の戦闘機パイロットエリートの訓練所、トップガン。
その卒業生であり圧倒的な撃墜記録や飛行技術の記録を持つ”マーヴェリック”。
彼は素晴らしいパイロットでありながらも、反抗的な性格や生粋の飛行機乗りの資質から昇格はせずにいた。
今は新世代の戦闘機のテストパイロットをしているが、そこでも驚異的な記録を出しながら命令違反をしてしまう。
永久に飛ぶ権利を失うところだったマーヴェリックだが、旧友であり現在は司令官になっているアイスマンからの要請で、トップガンに戻って教官を務めるように言われた。
チームの目的は武装組織による核兵器開発プラントの破壊。
困難な飛行経路や空中戦の想定から訓練生たちへの特訓は難航するが、マーヴェリックには別の複雑な事情もあった。
それは候補生の中に彼のかつての親友でありトップガン時代に死なせてしまったグースの息子”ルースター”がいることだった。
感想/レビュー
まず前作というかオリジナルの1986年のトニー・スコット監督の「トップガン」について少しだけ。
実は結構前から見るのをスルーしていた作品であり、今作の公開に向けて初めて見たという状況。
そして端的に言うとべつに対していい映画ではないなという印象でした。
もちろん、その時代における熱量というものが関係していることも考えられます。
さらにファッション的な映画としてそのアイコニックな存在感はもちろん、トム・クルーズのアイドル的な作品としての魅力は認めるところです。
トニー・スコット監督がジェットエンジン音やドッグファイトをまるでそのものが一つの音楽のように描いている点なんかは私も好きではあります。
しかし熱中するほどののめりこみはしませんでした。
ファンでなくてもただ圧倒され痺れる最高の続編
そんなニュートラルと言っていい気持ちと期待で、実に30年以上の時を空けた続編というもの鑑賞しました。
その感想は、最高。
具体的に何がどうというと結構言語化に苦戦します。
ただ全編にわたってよくわからないけれど涙ぐんでいました。
ファンだというなら、スクリーンでマーヴェリックが見れるだけで交付うんでしょうけど、別に思い入れはないのです。
それでもなぜか身体が熱くて感動がこみあげていました。
想い出だけでなく、訪問になるOP
OPは完全に86年を再現した作りです。有名なトップガンのアンセムが流れ、その後”Danger Zone”。
画面はザラついていて全体に黄味がかっている。
セリフはなく変わりに戦闘機が発着陸するその轟音こそが観客への映画開始の合図のようでした。
このつくり込みだけでも、ファンは卒倒レベルに思いますが、私も興奮しました。
それは、86年の当時映画館でトップガンを観ることのできなかった世代に、それを体感させてあげようという試みに思えたからです。
あのシークエンスだけ、2022年ではなく、86年にタイムスリップしその当時の音、空気、ビジュアルを味わったようでした。素晴らしい。
正直マーヴェリック初登場時についても、これは恐ろしい現象ですが、トム・クルーズの変わらなさもまたノスタルジーです。
白いTシャツにあのジャケットを羽織り、バイクにまたがり疾走するまでの一連の流れで、確実に年を重ねているはずなのにやはり変わらないマーヴェリックがいました。
しかしこの作品は、変わってはいけない部分は変えないでおきながら、確実に新時代の進化を遂げています。
圧倒的アクションシークエンス
製作でも予告でもとにかく騒がれていたアクション。
戦闘機に観客をそのまま搭乗させて空へぶっ飛ばすような体感型の今作は、他の追随を許さない圧倒的な力を持っています。
今作では俳優陣が実際に戦闘機内に登場し、パイロットによる操縦からくる実際のGを受けています。
その必死の表情に息遣い、顔面の歪みまでもが本物。
訓練時でも実際のミッションでも、コックピット内に専念して繰り出される飛行映像には、思わず足を踏ん張り座席のひじ掛けを掴み、全身に力が入ってしまいます。
この感覚をもって、トム・クルーズが以前にもこの感覚を自分にくれたことを思い出しました。
2018年の「ミッション:インポッシブル フォールアウト」です。あそこでも同じ全身の緊張を体感し、「こういう作品があるから、私はアクション映画を見続ける」と思ったのです。
トップガンの俳優陣が厳しい訓練を受けて、さらに実際のトップガンや海軍などの協力と撮影クルーの技術が合わさり、素晴らしい映像表現が可能になっています。
整備された情報が没入感を助ける
純粋なアクションについて、ある危険性もはらみます。
それは派手であるほどに情報量がおおすぎて、主目標や戦闘の勝利条件、各ステップが分かりにくいことです。
その点での整理力が今作は一番素晴らしかったと思います。
そもそものプロットが、困難なミッションの遂行であり、そこまでの時間的リミットもはじめに提示されます。
なんのための訓練なのかなど含めて映画のゴールが明確なのです。
さらに機体の適正や敵の戦闘機との性能差も会議の形で自然に提示され、そうした軍事的な背景知識を持たなくても観客は置いていかれない。
わざわざミッションの飛行経路と必要なテクニックもブリーフィングで示されていくのでその分混乱せずに飛行アクションに集中しやすかったですね。
何をどうしたら勝ちなのか、アクション映画では地理的にも戦術的にも整理されていると、アクション自体にのめりこめるのでとても丁寧な作りでした。
王道のストーリー
また見やすいなと思うのは、話自体を変にこねくり回さなかったことでしょうか。
このあたりは最近よく見られるデジャヴ的なリブートや続編映画の系譜に近い気もします。
シンプルストレートですし、熱い展開はそのまま昔ながらの感じ。
各呼応するアクションが、それぞれのトップガン卒業生たちの成長を語る点もスマートです。
ルースターに呼びかけるというシーンが2回ありますが、なんと呼ぶか、そしてどんな反応をするかだけで信頼性と関係性を進展していますし、ずっと自分のために飛んでいたハングマンは最後仲間のために飛ぶ。
ヴァル・キルマー演じるアイスマンとのやり取りについては美しくまとめたなと思います。
嘘をつかずにヴァル・キルマーの病気の点もそのまま、それをアイスマンが託すマーヴェリックへの想いに重ねて。
どこで声を使うのかも良い判断ですし、そこでのマーヴェリックのとてつもない感情の揺さぶりには、こちらもグッときます。
トム・クルーズというアクション映画の作り手
今作はトム・クルーズというスターが、アイコンであるマーヴェリックとして次世代、この作品ではグースの息子ルースターに生き方を見せていく。
マーヴェリックは変わらず飛行機乗りで反抗的、しかしただ無鉄砲な若いころとは異なり、経験を積み重みのある中での行動が良かった。
マーヴェリックが勝手に戦闘機を飛ばし、不可能はないということを証明するシーンがあります。
マーヴェリックの飛行技術のすごさを見せるシーンでもあるのですが、肝心なのは無理だとか不可能だとか、自分の限界を決めつけるなということです。
「大事なのは機体じゃない。パイロットだ。」
これが根底に。
技術の進歩は素晴らしい。思い描くヴィジョンを形にする方法はさまざまになりました。
でも最終的には、人間の限界値こそが最高点。そしてそれは努力と熱意によって、高く高く押し上げられていく。
自身の身体をもってできる限り挑戦し、観客に素晴らしい体験を届けるために尽くしてアクションを作り上げてきたトム・クルーズと、マーヴェリックの言葉はそのまま重なります。
身体的アクション映画の在り方
無人機によってとって代られようとする有人戦闘機、パイロットたち。
パイロットの絶滅という厳しい言葉を贈る少尉に対してマーヴェリックは「いつかはあなたの言うとおりになるかもしれない。だが今日じゃない」と言います。
個人的にはここが身体的なアクション映画、またひいては劇場大作映画についての言及にすら思えました。
現代のCGI技術により、成せないビジュアルはないと言っていいでしょうし、もちろん素晴らしい映像作品が多いのも事実です。
しかしだからと言って俳優やスタント、各セクションの努力が不要になるわけではなく、その価値が落ちるわけでもない。
このあたり、「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」でのIMFの存在意義とも重なります。
劇場で観る映画体験の力
そして奇しくもこの作品は新型コロナの拡大と重なり公開延期を繰り返してきました。
その裏で、映画というものの在り方は本当に大きく変わり、劇場で観るという前提は崩れ配信で観ることが映画鑑賞であるという定義の変遷すら感じられます。
もはや映画館での体験というものすら、昔の映画の見方になりかけている。
その中で決して配信の権利を与えずに劇場公開にこだわり続けたパラマウント、トム・クルーズ。
間違いなく言えますが、大正解です。この作品の真価は劇場で観ることによって最大限に発揮されます。
劇場の力を信じそこでの体験の価値を信じた。
どこでも観れることは確かですが、やはり映画にとって劇場こそがホームなのだということを、アクションをけん引するトム・クルーズが実力で証明してみせた熱さがここにありました。
次の世代へのエールと映画文化をつなぎとめる魂のこもった力作です。
初代に全然ピンと来ていない私でも、熱意に涙してしまうので、ファンにはたまらないですね。
ドラマ部分の王道具合、見やすい脚本、すさまじいアクション。完璧なブロックバスター大作として、再び映画を生かした。
是非とも劇場の、できればIMAXなどで鑑賞をおすすめの作品でした。
私が映画人としてのトム・クルーズが好きなのもあってつい長めの感想になってしまいました。
今回はここまでです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ではまた。
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