「ノースマン 導かれし復讐者」(2022)
作品概要
- 監督:ロバート・エガース
- 脚本:ショーン、ロバート・エガース
- 原作:サクソ・グラマティクス「アムレートの伝説」
- 製作:マーク・ハッファム、ラース・クヌーセン、ロバート・エガース、アレクサンダー・スカルスガルド、アーノン・ミルチャン
- 製作総指揮:ヤリフ・ミルチャン、マイケル・シェイファー、サム・ハンソン、トーマス・ベンスキー
- 音楽:ロビン・キャロラン、セバスチャン・ゲインズボロー
- 撮影:ジェアリン・ブラシュケ
- 編集:ルイーズ・フォード
- 出演:アレクサンダー・スカルスガルド、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコール・キッドマン、イーサン・ホーク、ウィレム・デフォー、クレス・バング 他
「ウィッチ」、「ライトハウス」など独自の世界観と映像美で高い評価を得るロバート・エガース監督の新作。
アムレートの伝説をもとに、父を殺された王子がヴァイキングの戦士となり、さらには奴隷に扮して復讐の旅をする物語。
主演は「ゴジラVSコング」などのアレクサンダー・スカルスガルド。またエガース監督とは「ウィッチ」でも組んだアニャ・テイラー=ジョイが魔術師の女性を演じます。
その他イーサン・ホーク、ニコール・キッドマンが両親役を、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」のクレス・バングが主人公の仇であるフィヨルニルを演じます。
エガース監督には今回70million$以上の予算が与えられ実に壮大な大規模映画が任されることになりました。
今作の最初のキービジュアルが出たときには、アレクサンダー・スカルスガルドの肉体改造と変貌ぶりが話題になりました。
バイキング映画なのかなとも思いましたが、よりファンタジックな要素も盛り込まれた暴力の度になっているようで、楽しみにしていました。
公開週末には見に行けなかったのですが、平日レイトショーで鑑賞。
〜あらすじ〜
800年代、北欧の地。
大鴉王として君臨する父の元育ったアムレートは、いつか王位を継ぐために準備を進めていた。
しかし、叔父であるフィヨルニルが兄を裏切って殺し、アムレートの母である王妃を攫った。
独り逃げ出すことに成功したアムレートは、父の仇を討ち母を救うことを誓った。
それから数年後、アムレートはロシアでバイキングの狂戦士として数々の村を襲い、殺戮の限りを尽くしていた。
ある襲撃で奴隷を得たところ、彼らをフィヨルニルに売り払うと聞きつけたアムレートは、自らを奴隷と偽って密航。
フィヨルニルの治めるアイスランドの集落へとたどり着く。
今こそ誓いを果たす時。アムレートは人の肉を被った獣となる。
感想/レビュー
ロバート・エガース監督が神話や宗教を題材にしているのは継続。
今回はあのハムレットのモデルとも言われているスカンジナビアの伝説アムレートが主人公です。
「ウィッチ」そして「ライトハウス」と、そのおどろおどろしいながらも美しい映像を見せるエガース監督ですが、今作はよりハードでバイオレンス。
血生臭くも荘厳な映像美
全編において血なまぐさい作品になっています。
グロい描写を先行しているわけではなく、世界観として必要なものです。
そこには雄大な北欧の大地が映し出され、息を呑むような壮大さもありますし、夜の村や剣を手に入れる塚などの闇と光の絶妙なバランスからくる妖しさも。
視覚的に様々に変化して楽しいところでした。
炎はアムレートの心を映すように、復讐の心として登場。己の身をも焦がすような最終決戦の溶岩は究極形でしょうか。
一方でその一歩前に、アムレートが選択をするシーン。
これまでの彩度低めな画面に比べて、なんとも鮮やかな海の青、そしてオルガの美しいブロンドの髪が見せられます。
作中随一の彩度と美しさですが、そこに至るまでの曇り淀んでいた画面づくりが下準備になっていました。
歩く暴力
ビジュアルの没入感に対してはもちろん主演のアレクサンダー・スカルスガルドのボディの作り込みも貢献しています。
非常に大きく発達した全身。それはアスレチックなしなやかさではなく、破壊と暴力の化身。
獣のように首が垂れて歩く姿など迫力が凄まじい。
本来の美しいブルーアイが、影に曇ったままで亡者のように舟をこぐ。集落のをお総裁の止められない暴力を宿す顔などすごかったですね。
個人的には大きな転換点となるシーンの、ニコール・キッドマンの演技が素晴らしかったと思います。
「ライトハウス」でのウィレム・デフォーのように、その場を飲み込んでいく悪、毒牙を持っていて、炎の灯りに照らされた顔が怖かった。
アクションとしてもワンカットで映されていく王国の崩壊と逃げるアムレート、バイキングの襲撃、そしてフィヨルニル村でのアムレートの殺戮。
一連の事態が目の前で途切れずに展開するところと、横軸移動が絵巻物などに見えることなどかなり好きです。
音楽についても、今作では3つほど派閥があるのですが、それぞれどれも凝った音楽と宴?のシーンがあったりで楽曲も世界観のつくり込みに貢献しています。
話はアムレートの復讐の物語を踏襲しているのですが、今作は彼自身の出自に対して厳しいはしご外しをします。
物の語り方が巧い
その時に紐解かれる伏線が心地よい。
OPすぐ、アムレートが母の部屋に入るとノックせずに入ったことを叱責されます。確かに着替えていた最中であったのですが、手を上げかけるほどに母は怒りました。
そして宴の席でのフィヨルニルによるヘイミルの叱責。そこでは王妃への忠誠ゆえの軽口への怒りに思えます。
ただ、母からの真相を聞いた時、それらが持っていた別の側面が見えてきました。
語り口が見事です。
暴力のサイクルを断ち切る
暴力のサイクルは人間の歴史そのものと言っていいでしょう。
奪い奪われ、アムレートは狼になった。
予言では選択を迫るときが来ると言われますが、最後にアムレートは両方を選びます。
愛と憎しみの交ざった存在こそが人間ということなのかもしれませんが、この選択によってアムレートは、父のころからの暴力の輪を断ち切りオルガを逃がしました。
復讐の旅路として、実は結構真っ当なラスト。
何にしてもこの世界のつくり込みが気に入った作品。
太古より語られた物語は文字と画を持っていたでしょうけれど、ロバート・エガース監督の手により映像というメディアですさまじい力を与えられました。
監督自身の意図は一部スタジオ側で規制され、エガース監督としては再編するのがもっとも心苦しい作業だったそうです。
また大きな規模の作品を撮るのかはわかりませんが、今後はあの「吸血鬼ノスフェラトゥ」のリメイクを任されているエガース監督。期待が高まります。
というところで今回の感想はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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