「ロッキー」(1976)
作品概要
- 監督:ジョン・G・アヴィルドセン
- 脚本:シルベスタ・スタローン
- 製作:アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ
- 製作総指揮:ジーン・カークウッド
- 音楽:ビル・コンティ
- 撮影:ジェームズ・グレイブ
- 編集:リチャード・ハルシー、スコット・コンラッド
- 出演:シルベスタ・スタローン、タリア・シャイア、バート・ヤング、バージェス・メレディス、カール・ウェザース 他
言わずと知れたスポーツ映画の名作。
日本でも題名であり主人公の名であるロッキーは広く知れ渡り、ビル・コンティのテーマ曲も聞いたことがない人はいないレベルでしょう。
今作は当時無名のシルベスタ・スタローンを大スターに押し上げた他、その後シリーズ化し、ロッキーとしては6作。
さらに2015年にはスピンオフかつ魂を受け継いだ傑作、ライアン・クーグラー監督「クリード チャンプを継ぐ男」も公開されました。
今作はまさに映画史をいろいろと変えた作品だと思っておりまして、アメリカンドリームの復活にニューシネマの終わりのような気もします。
なによりこの映画とその製作自体が非常に熱い物なので、私は本当に観るたびにいろいろな想いが込み上げてしまいます。
監督は後に「ベスト・キッド」(1984)を撮るジョン・G・アヴィルドセン。
彼は本作でアカデミー監督賞を獲得し、作品自体も作品賞と編集賞を得ています。
~あらすじ~
フィラデルフィアでボクサーをしているロッキー。
彼は場末の試合に出るくらいしかできない落ちこぼれので、チンピラまがいの仕事を引き受けたりしてなんとか暮らす。
才能はあるのに努力をしない彼に、ジムのトレーナーのミッキーも愛想を尽かしている。
ロッキーはあてもない人生を漂うだけだが、彼にも想いをよせる女がいる。ペットショップで働くエイドリアンだ。内気な彼女だが、ロッキーは心から惚れているのだ。
そんなある時、世界チャンピオンのアポロ・クリードが、ショーとして無名選手との試合を組むと発表し、なんとロッキーを対戦相手に選んだのだった。
感想/レビュー
ニューシネマからの脱却、若者に夢を見る赦しを
今作が成し遂げたことはあまりに大きい。
ともすればアメリカ映画における流れを完全に変えてしまったと言ってもいいのかも知れません。
この作品が掲げたアメリカン・ドリームというか、まあ人生に希望を持つことをある意味許すようなメッセージ。
ベトナム戦争で疲弊し、ニューシネマや無軌道で退廃的な若者像、窮屈で怒りの蔓延した社会映画からすると、ここに出てくるロッキーはじめ、みんな美化はせずとも現実的な苦難を乗り越えていくものですからね。
よく言われるのはこの翌年に公開のジョージ・ルーカス監督による「スター・ウォーズ」(1977)でしょうが、あれは決定打と言えるものでしょう。
後ろ向きな時代から抜け出す
登場人物たちは、まあチャンピオンのアポロを除けば、みんな負け組的な存在ばかりです。
ロッキーは生きることに不真面目で、エイドリアンは世界に対し閉鎖していて。行き場もなく将来も見えない、そんな若者たち。
これってやはりニューシネマの名残のように思えますよね。
何もかもうまくいかないし、どこへ行くのかもわからない。
しかし、今作でスタローンが目指したのは、そんな1つの流れというか時代から必死にもがいて抜け出すことだと思います。
むき出しのみっともなさを受け入れて
スポーツドラマでありながら、この映画で描かれているのは必死に生きようと、自分の価値を見出そうとする一人の青年です。
ロッキーは自分に嘘をつき、自分をだまし甘やかしていましたね。
ボクシングを人生に置き換えて描かれるこのドラマに、熱くならずにはいられません。自分の努力しか頼れない、戦うのは自分だから。
でもリングに上がるまでを支えてくれる人だって大切。
エイドリアンもポーリーもミッキーも、この映画に出てくる人物ってホント嘘がないです。立派な人はいませんからね。
ですが彼らがぶつかりつつも彼らなりに目の前のチャンスを掴もうとする、そのドラマに引きつけられます。
耐え抜くこと
アポロとの試合。
ギリシャの神の名にふさわしい、見事に美しく鍛え上げられたカール・ウェザースの肉体。ホントに彫刻のように素晴らしい体してますよね。
このクリードとの対戦は、ロッキーの自分自身との戦いであります。
人生というリングでは、自分一人で戦うのです。その外に愛する人がいたとしても、やるときは自分の力でやらねばなりませんね。
そのリングでロッキーは必死に打ち込みますが、彼のスタイルは防御をしていないのです。どれだけ打ちこまれても、前に進めるか。
そのメッセージ性を帯びさせるために、あえてよけたり防御したりをさせなかったのでしょうかね。
ボクシングとして明らかに自分からパンチを受けすぎですし。
エイドリアンは、自分の愛する人が必死に立ち上がろうとする様を目にします。観客もあのロッキーが、決死の想いで立ち上がる姿を見ています。
ただ立っているだけだって、人生ではどれだけ大変なことか。別に大成功することだけが偉いのではないのです。
人生を自分の精一杯で生きること。それだけだってとっても大変で素晴らしいこと。
この作品はサクセスストーリーではないです。アンダードッグのテイストはありますけど、私は希望と同時に赦しの映画でもあると思っています。
暗く退廃的で無軌道な若者たちと文化。そんなアメリカの人々に対して、もう一度夢を見ても良いという許し、そして傷付いてやけになっていたことへの赦し。
勝たなくていいから、自分の人生を生きてみよう。
ギリギリのスタローンが頑固にも主演を譲らず脚本を携え、監督含め映画界ではやはり影にいた人々が、この作品をまさに人生のチャンスとして、絶対にあきらめない心で完成させた。
階段を駆け上がるロッキーの真似をみんながする。あのテーマ曲を聞いて魂を高ぶらせる。
ロッキー・バルボアとシルベスタ・スタローン。この映画が与えてくれたのは単なる感動ではなく、生きる力であるのかもせれません。
もうあんま感想という感想もないですよ。大傑作ですからね。
とにかくいろいろと勇気とか力をもらった作品です。是非とも見てほしいですね。
それでは、また。
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