「Mr.ノーバディ」(2021)
- 監督:イリヤ・ナイシュラー
- 脚本:デレク・コルスタット
- 製作:ケリー・マコーミック、デヴィッド・リーチ、ブラッデン・アフターグッド、ボブ・オデンカーク、マーク・プロヴィシエロ
- 音楽:デヴィッド・バックリー
- 撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ
- 編集:ウィリアム・イェー、エヴァン・シフ
- 出演:ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、クリストファー・ロイド、アクレイセイ・セレブリャコフ、RZA、ダニエル・バーンハード 他
「ハードコア」の監督であるイリヤ・ナイシュラーが、「ジョン・ウィック」の製作陣と組んで送るアクションスリラー映画。
いつもうだつの上がらない平凡な父が、強盗事件をきっかけにその本当の姿を現していき、ロシアンマフィアを巻き込んだバイオレンスアクションを展開していくもの。
主演は「ネブラスカ」から「ベター・コール・ソウル」など幅広く活躍を見せるボブ・オデンカークで、本格的なアクション映画主演になるのはすごく珍しいですね。
その他にはあのドクことクリストファー・ロイドが主人公の父親役、また「ワンダーウーマン」のコニー・ニールセンが妻役で出演しています。
また、今作の実質悪役であるロシアンマフィアのボスを、「裁かれるは善人のみ」のアレクセイ・セレブリャコフが演じていますね。
ユニバールによって製作された今作ですが、そのプロットからして非常に繰り返されてきたB級映画ですが、「ジョン・ウィック」製作陣の参加とか、あと何より主演をボブ・オデンカークがやるという予想されなさが楽しみでした。
コロナの影響から2020年公開が先延ばしになり、アメリカでは3月公開。日本でも6月に無事公開されました。
何となくですが、昨年でいうところの「ザ・ハント」なども含めて、コロナ前は動画やTVでは広告宣伝がやっていないようなタイプの作品が結構CM流れている感じがします。
今作もTVもそうですしネットでも予告が流れたりと結構押し出されていますね。
公開の週末に観に行ってきましたが、人の入りはなかなかにいい感じでした。
ジャンルターゲットのおじさんたちもいましたが、結構若い人たちも来ていました。
ハッチは物静かな人生を送る普通の男だ。
妻子をもち、朝はバスで通勤、仕事をこなして夕方には帰る。温厚で平和主義な彼だったが、ある夜強盗が家に侵入してきた。
その際に強盗に反撃するチャンスがあったものの、そうはせずに少ない現金と腕時計を渡して逃がしてしまう。
夫としてそして父としての頼りなさに家族は心が離れ、また周囲の人間はみなハッチの臆病さを笑う。
大切な妻と子どもたち。自分を抑えることで逆にその家族を守るために行動ができなかったことに憤るハッチの中で、その抑え込む自分を解放したい気持ちが強くなっていく。
そして強盗の盗ったものの中に、娘が大切にしていた猫のブレスレットがあると知ったハッチ。
理由を得たハッチはやるべきことをやるために外出した。
実はものすごく強くて、決してケンカを売ってはいけない人が、何らかのきっかけでその殺人マシンっぷりを発揮してどんどんと悪人をぶっ殺していくというジャンル。
このカタルシスに溢れるB級映画はこれまでも本当にたくさんあるんだと思います。
ヴィジランテものとも近しいんですが、これ悪いやつらが主人公をなめてるほどに逆襲感があって楽しいんです。
「96時間」のリーアム・ニーソンはごく普通の父親、と思わせてめちゃくちゃ強い。
そして今作の製作陣が送り出した、キアヌ・リーヴス主演の人気シリーズ「ジョン・ウィック」は、誰でもないはずの男に手を出したところ、実は裏社会の殺し屋の世界でも伝説の男だったというもの。
そういう血統の中に生まれたこの作品ですが、まったく素晴らしい、楽しい最高のエンタメ作品に仕上がっています。
話がそこまでないとか、ドラマ性に欠けるとかはどうでもいいんですよ。
B級映画として、その最強の男ジャンルとして、出自を見事に証明して見せており、Aランクの出来栄えを持ったB級アクション映画。
個人的にこのような作品は本当にその空気作りとかアクションの見せ方など、作り方に心が込められているか次第と思っていますので、今作はその点で大満足のいく出来栄えです。
まず派手にアクションが始まる前段階での引き立てという点がしっかりと展開されます。
アクションの前にリアクションを見せていく手法は、本当に「ジョン・ウィック」1作目のそれと同じような楽しさがあり、そしてアクションの火ぶたが切られた際の爆発力を大いに増強してくれます。
リアクションはアクションを伴いません。ただハッチがそこにいる。
しかしあの退役軍人のビビり散らした態度やその後の笑っちゃうくらいに鍵をかけるしぐさなどは、このハッチが”何もしていないのに恐れられている”様をこれでもかと高めてくれます。
ちなみにハッチの手首に見えたトランプの2と重なる7のカードですが、”死”を意味するものだとか。
そして謎の通信相手とのやり取りや、そもそもの会社のオフィスに各市として内蔵されたプレイヤーと擬態している連絡装置。
お父さんを訪ねて買わされる意味深な会話など、下準備が周到ですね。
そして思い返すと、ランニングを欠かさず、懸垂して鍛えているハッチ。
そして義理の弟が銃を渡す際の仕草も伏線でした。
ルーチンはハッチの戦闘力維持のためであったわけです。
そして義理の弟に銃を向けられてビビったのは臆病だからではなく、馬鹿な弟と違い、ハッチは瞬時に安全装置が外されていることを見抜いたからなんですね。
なるほど周到にスキルを覗かせていたわけです。
そしていざアクションが始まったときの炸裂は爽快でした。
大切なのは見易さですね。もちろんCGでの血しぶきなどはあるにしても、一通りの戦闘やカーアクションがカット割りや揺れるカメラではなく丁寧に映されていきます。
一連の動きがしっかりと見れるという点で、ごまかしなくハッチの能力を見せつけていき、ゴア描写含めて気骨を見せていく。
そしてやたらに綺麗な動きとか小ぶりな動きではなく、結構血みどろ傷だらけアクションですね。
ハッチが初めてキレるバスでのシーンは、あえて銃を使わずに相手を身体的に痛めつける点でまあ血なまぐさいものでした。
ここで素手で5人相手を見せているのも良いですね。
ハッチがただの超人ではなくて、殴られればアザができそして刺されれば血を流し、ボロボロになることで、ちゃんと人間であると示しておき、さらに素手でも5人を完全にぶちのめせる強さがあると見せています。
だからこそのちにフル装備状態になった際の無双状態も急な感じがしません。
カーチェイス含めて現実離れしていないからこそ硬派なアクション映画になっています。
そして何よりも、この作品を支えているのはキャラクター。特にボブ・オデンカーク。
彼がここにきてアクション俳優として鮮烈にデビューですよ。
地味で素朴な感じもハッチには必要ですが、実際に動けるのは素晴らしい。
彼は今作の役処にすごく熱心に入れ込んでいて、2年間のトレーニングに励んだとか。彼自身今作では製作にも参加していますね。
また、作品コンセプトに関わりますが、ボブ・オデンカーク自身が強盗被害にあったことがあるんだそうで、その際には地下室に強盗を閉じ込めたそうです。
その時あまり警察などが役に立たなかったことや、自分がもしめちゃくちゃ強かったら?というところから今作の着想を得ているとのこと。
いずれにしてもボブ・オデンカークあっての作品になってますし、アクションスターとしての道が見える結果となりました。
個人的にはノリノリで超楽しそうなクリストファー・ロイドが最高かわいいとか、ロシアンマフィア演じたアレクセイ・セレブリャコフのキャラ立ち具合も好きですね。
最後はホームアローンのような殺人ピタゴラスイッチを炸裂させながら、華々しく終結し、果てには「トゥルーライズ」などに連なるような奥さんのポジションチェンジで締めていく。
ジャンル映画の中で王道を歩むというのは実は難しいのですが、スコアも楽曲もストーリーを盛り上げ、丁寧かつ真摯な姿勢にてアクションスリラーを作り、最大限にコミットするその真面目さがしっかりと結果を出しているのは間違いないです。
ボブ・オデンカークの新境地。シリーズ化しても良いかなと言う素敵な作品。
ただただ劇場で楽しいなと感じながら、嬉しさに溢れた映画鑑賞体験で、エンタメを浴びた幸せに溢れた1本でした。非常にオススメです。
幸い一般認知される大スターがいなくて監督も有名ではなくても、公開規模は比較的大きいので観るチャンスは十分にあると思います。
近くの劇場でやっていたら是非鑑賞を。
今回の感想はこのくらいになります。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございます。
それではまた次の映画の感想で。
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