「ラビング 愛という名前のふたり」(2016)
- 監督:ジェフ・ニコルズ
- 脚本:ジェフ・ニコルズ
- 製作:ジェド・ドハーティ、コリン・ファース、サラ・グリーン、マーク・タートルトーブ、ピーター・サラフ
- 製作総指揮:ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ
- 音楽:デヴィッド・ウィンゴ
- 撮影:アダム・ストーン
- 編集:ジュリー・モンロー
- プロダクションデザイン:チャド・キース
- 美術:ジョナサン・グッゲンハイム
- 衣装:エリン・ベナッチ
- 出演:ジョエル・エドーガートン、ルース・ネッガ、マイケル・シャノン、マートン・チョーカシュ 他
「MUD-マッド-」(2012)のジェフ・ニコルズ監督が自身で脚本も手掛けた作品。
アメリカに実在の夫婦の話を映画化したものでして、あのコリン・ファースが強く映画化を望み、製作に参加していますね。
主演には「ウォーリアー」(2011)や「ザ・ギフト」(2015)など素晴らしき才能を見せるジョエル・エドガートン、そして「プルートで朝食を」(2005)やさまざまなTVシリーズで活躍するルース・ネッガ。
エドガートンとネッガはゴールデングローブノミネート、ネッガはアカデミー賞にもノミネートされていますね。
3月公開作品の中でもかなり期待して待っていた作品で、公開日には行けませんでしたが、土曜日にさっさと観てまいりました。朝一でしたから満員ではなかったですけど、なかなかの入りでしたよ。
涙する方も多く、私も最後の方でかなりきました。そしてすごいのが、この映画の事をより振り返って考えるとき、さらに感動するという事です。
1958年のアメリカ、バージニア州。
幼いころから互いを好いていたリチャードとミルドレッド。ミルドレッドの妊娠を機に、リチャードはプロポーズをし、結婚することになる。
リチャードは自宅から近い場所に土地を買い、そこに2人と将来の子供たちのための家を建てたいと夢を語るのだった。
当時のバージニア州では、異人種間の結婚が違法であったことから、2人はワシントンDCへと出かけ、そこで結婚をすることに。
幸せな2人は故郷に戻るのだが、ある日突然保安官たちがやってきて、2人を逮捕してしまうのだった。
異人種間の結婚というと、スタンリー・クレイマー監督の「招かれざる客」(1967)という有名作品もありますが、あちらが周囲の影響という事や次代性が描かれていたのに対し、この作品は2人の愛について描いています。
そう、ふたりの絶え間ない愛。
この作品を観ておそらく、平坦でつまらないとかぬるいとか感じてしまうこともあるかと思います。
実際今作には盛り上がり所や、感動的な演説、差別への反抗などはないです。しかし静かだからと言って、この作品自体が弱いとは思いませんでした。
むしろ、その真逆です。徹底的に抑制された作りの中で、絶対に揺るがない深い絆と愛情に、私は心から揺さぶられ感動しましたね。
はじめからこの2人を映す撮影が印象的で、話し相手を外した構図から、ふと引き画になるとリチャードとミルドレッドは寄り添って座りすごく親密。彼らを撮るときはすごく美しい。
エドガートンって本当に少し困り顔で味わい深いw そしてこのリチャードの人物とよく合っていると感じます。黙々として、強く出られればひるみますけども、芯の部分で何か頑固さがあるというか。
そしてルース・ネッガ。彼女の演技も本当に素晴らしかったですよ。夫とはまた別のところで苦しみ、胸の裂けるような想いをしている彼女。
ジェフ・ニコルズ監督がもっているバランス感覚というのが私はこの作品でホントに好きなところです。
2人に焦点を当て続けるので、序盤の恐ろしく腹立たしいあの逮捕と拘留シーンがずっと後を引く作りですね。妊娠中だろうが関係なく、夜中に暴力的に逮捕し、公然と差別用語を吐き脅す。
あそこがずっと頭にあるものですから、2人が抱え続ける恐怖や不安が観客にもずっと共有されますね。子供たちが出てきてからはより、その恐れが強まります。
もちろん、実際にアメリカの憲法を変えるまでに至った話ですから、報道や権利関係の裁判も出てきます。ですが、ニコルズ監督は絶対に主題を切り替えません。
ずっとリチャードに寄り添い、彼が感じる、目立ってしまうことからくる恐怖を伝える。
ずっとミルドレッドと共にいて、彼女が故郷に帰れない辛さ、つまりは愛する人のいる場所で愛を育めない悲しさを痛感する。
雑誌もテレビも出てきて、やろうと思えばドラマチックな社会映画に転向することもできたはず。権利を叫んだり、人種問題や法廷劇もみせることはできたはずですが、監督はこのラビング夫妻から絶対に視線を外さないのです。
あくまで彼らの立場から、周囲の事を見ていくだけにとどめています。類まれなバランス感覚。素晴らしいです。
十分すぎるほどに強烈な不当性を序盤に見せつけ、その恐怖と怒りを確実にふたりを通して見せていく。押し殺して、抑えに抑えた作りだからこそ、絶対に譲れない想いが強烈になります。
この作品は人種差別問題を取り扱ったり、自由の権利などを叫ぶ社会映画ではないと思います。それはあくまで派生して生まれた産物であって、主題ではない。
実在のふたりがそうだったように、彼らが欲しかったもの、言いたかったものは、「差別をなくそう。」とか「権利を私たちに。」ではないです。
リチャードが唯一伝えてくれと言ったもの、「俺は彼女を愛してる。」それだけ。
人が人を愛しているという事、それは人種だろうが権利だろうが、社会が決めた摂理だろうが、全てを超越し普遍で正しいのです。
愛することは誰にも否定できない。逮捕しようが、違法とされようがラビング夫妻には関係ないのですね。
ニコルズ監督はこの映画を社会映画にせず、表層的な正しさや論理に偏ることなく、すごく個人的な作品にしています。
ふたりの物語。ほかの誰でも、どの組織でも団体でもなく、まさにラビング夫妻のお話です。静かにしかし絶対に揺るがない深い愛とそれに寄り添った作りに感服でした。
土地を買ってすぐに語ったあの場所。ラストで同じカットが出てきますが、家を作り始めるまでに何年かかったことか。長い道のりでしたが、リチャードとミルドレッドの愛が強いからこそ、あそこまで来れたのですよ。最後に流れる”Loving”も本当に2人の歌って感じで、力強い。
今年の作品で個人的にはかなり気に入っているところです。このバランス感覚が、「ハンズ・オブ・ラヴ」にも欲しかったんですよねぇ。しつこいですけど、ローレルとトレイシーの思い出をもっと見たいのですw
さてと、そんな感じで感想はおしまいです。公開規模が異常に小さいのが残念ですが、是非見てみてください。それでは~
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