「パッセンジャー」(2016)
- 監督:モルテン・テォイルドゥム
- 脚本:ジョン・スペイツ
- 製作:ニール・H・モリッツ、スティーヴン・ハメル、マイケル・マー、オリ・マーマー
- 製作総指揮:デヴィッド・ハウスホルター、ベン・ブラウニング、ジョン・スペイツ、リンウッド・スピンクス、ブルース・バーマン、グレッグ・バッサー、ベン・ウェイスブレン
- 音楽:トーマス・ニューマン
- 撮影:ロドリゴ・プリエト
- 編集:メリアン・ブランドン
- プロダクションデザイン:ガイ・ヘンドリックス・ディアス
- セット:ジーン・セルディーナ
- 出演:クリス・プラット、ジェニファー・ローレンス、マイケル・シーン、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシア 他
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2014)のモルテン・テゥルドゥム監督最新作。脚本は「プロメテウス」(2012)のジョン・スペイツによるもので、ブラックリストに載っていたということです。
主演には「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2014)や今年公開した「マグニフィセント・セブン」のクリス・プラット。そして「X-men」シリーズや「ハンガー・ゲーム」シリーズ、「世界にひとつのプレイブック」(2012)などのジェニファー・ローレンス。
公開日のレイトショーで観てきたのですけども、なかなか遅い回の割には人が入っていましたよ。
ちなみにこの作品はすごく大きな仕掛けがあるんですけど、ネタバレせずに感想を書く技量がないので、申し訳ないですがネタバレします。なので、劇場で先に観てね!
巨大な宇宙船アヴァロン。この船ははるか彼方にある星への移住のために、乗客5000人をのせて、100年以上の旅に出ていた。そのたびの間、乗客はみな冷凍装置で長い眠りについている。
しかしある時、巨大な隕石が衝突した衝撃でシステムにエラーが発生し、ひとつの冬眠カプセルが壊れてしまう。そうして目覚めた乗客のジムは、船内に誰もおらず、自分がはやく目覚めてしまったことに気付く。
衝撃の事実に戸惑うものの、命の危機があるわけでもなく、ジムはそれなりに楽しく暮らそうとする。
しかし、この先あらたな星に着く前に、たった一人でこの宇宙船で年老いて死を迎えるという現実が確実に彼の心を蝕んでいった。
この作品はいい意味で、思っていた作品と全然違いました。予告編や宣伝は全て完全なるミスリードと言ってもいいかもしれません。
ホントに、ネタバレとかは何も知らないで、事前知識は無いまま映画館へ行った方が良い作品なのは間違いないでしょう。
宇宙に二人きりで・・・という感じから、「オデッセイ」(2015)のようなものを想像していたのですけども、全然違いました。SFの舞台に思考実験を持ち込むような作品でしたね。
ジムのパートには人の生そのものを問うようなテーマが置かれていて、命の危機がない宇宙船内で、楽しんで好き放題するわけですけど、やはり空虚なんですよね。誰かがいるから、ジムはジャケットを着るか着ないか悩んだりしてました。
しかし完全に一人になると、何をしても無意味。本当にただ生きているだけ。でも生命活動をしていることだけでは、人間は生きているとは言えないわけです。
そのようななかなか哲学的そして実験的な命題を結構ぶち上げてくる映画でした。
王道な宇宙ロマンス映画というと、まあ最後はそんな感じですが、結構考えさせようと働きかけてくる作品。
アカデミーノミネートの美術ですが、デザインも面白いと思いましたけど、やはり空間の感覚が良かったと思いました。デザインは宇宙船の、バラバラに見えて、一点から観ると円になるとか、あの階段とかいろいろ楽しかった。そして空間に関しては、特に最初のジムパートで効果的かな。
広々としてて、結構奥行きや幅を感じさせるシーンがありました。ランニングしたりね。そうして広いこの宇宙船を余計に意識させると、さらに孤独感がキツくなってきますから。
部門で言えば、トーマス・ニューマンの作曲賞ノミネートも納得です。メインテーマの不穏な感じや、Spacewalkの美しいメロディなども良かった。
で、初めに言ったような命題設定で今作の好みの分かれ目であり、一番のいいところであり悪いところなのが、宣伝では全くそんなことだとは思えなかった、ジェニファー・ローレンス演じるオーロラが目覚める理由にあります。
壮絶な孤独の中、無意味にただ続く生。それに耐えられなくなった男がついに禁断の行為をしてしまう。殺人よ!と後に言われてますが、その通り。
ここまで贖罪の仕様のない行為は無いでしょう。この行為がどういう展開にしても絶対に償えないものであるからこそ、後々何が起きてもそれがしこりとして残ります。なので、この行為以降もうこの映画嫌いと言われても仕方ない。
ただ自分は、この設定は楽しく観てましたが。個人的にはね、超どす黒くキツイ設定ながら、クリス・プラットのどこか気の抜けた感じが大きく助けになっていたと思います。
最近珍しいご都合映画ですし、あの人なんて説明とプロット進行とアクセス権のために出てきて死ぬわけです。
ただ、この先死ぬまで一緒の唯一の他者が、自分の全てを奪った最悪の人間だったら?
そして倫理的にも個人的にもすべてにおいて許しがたい人間と、協力する以外に道が無かったら?
立てられる命題そのものは思考的にはかなり楽しんで観ることのできるもので、ジムの罪やこの2人の置かれる状況などは映画を観てから存分に議論していけるものです。
あと、すごく個人的にですけど、アーサーいるじゃないですか、マイケル・シーンがすごく良いですね。で、もう時間の余裕なんてないのに、壊れてしまったアーサーに駆けつける2人。壊すことで救うあのシーンがすごくグッときました。
キューブリックへのオマージュなども多く、哲学思考を促す作品。実際に事が大きくなると、映画的に盛り上がれば盛り上がるほど、そこまでの巧妙で静かな議論はどこかへ行ってしまう。ちょっと惜しい作品でした。
とりあえず、観てみて、色々話すのが楽しい作品ですね。そんな感じで感想は終わりです。それでは、また~
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