「パトリオット・デイ」(2016)
- 監督:ピーター・バーグ
- 脚本:ピーター・バーグ、マット・クック、ジョシュ・ゼッツマー
- 原案:ピーター・バーグ、マット・クック、ポール・タマシー、エリック・ジョンソン
- 製作:スコット・ステューバー、ディラン・クラーク、マーク・ウォールバーグ、スティーヴン・レヴィンソン、パッチ・パーカー、ドロシー・オーフィエロ
- 製作総指揮:エリック・ジョンソン、ポール・タマシー、ニコラス・ネスビット、ダン・ウィルソン、ジョン・ローガン・ピアソン、ルイス・G・フリードマン
- 音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
- 撮影:トビアス・シュリッスラー
- 編集:コルビー・パーカー・Jr、ガブリエル・フレミング
- 出演:マーク・ウォールバーグ、ケビン・ベーコン、ジョン・グッドマン、J・K・シモンズ、ミシェル・モナハン 他
「バーニング・オーシャン」が公開されて記憶に新しい、ピーター・バーグ監督作品です。
こちらも実話ベースのお話に、主演はマーク・ウォールバーグと、かなりコンビが出来上がっている様子です。
共演にはケビン・ベーコンやジョン・グッドマンにJ・K・シモンズなどが揃う豪華な布陣。作品自体は去年の早くから聞いていまして、アメリカではオスカーレースあたりの公開という事でした。
世界中に衝撃を与えた、ボストンマラソンの爆破テロ事件を扱う本作。当時のニュース報道も、犯人追跡と逮捕の瞬間も結構覚えています。
タイトルは愛国者の日という事ですが、このボストンマラソンの日にちは州で定めた祝日なんですね。
公開日に観たのですけども、結構人が入っていましたよ。若い人は見かけなかったものの、ほとんど満員状態で観ました。
2013年4月15日。毎年この「パトリオット・デイ」に開催されているボストンマラソンは、多くの人が参加、応援する一大イベント。
そのマラソンの最中に、ゴール地点付近で2度の爆発が起きる。
警備を行っていた市警のトミーは、パニックの中無線連絡を駆使し、避難誘導と人命救助に奔走。
後にFBIが到着し、これはテロ事件であると断定した。
犯人はまだ逃走し、ボストンは恐怖に包まれている。これ以上の被害を、そして他の都市を攻撃することを絶対に防ぐため、市警やFBIは全力をあげて犯人逮捕へ尽力する。
ピーター・バーグとマーク・ウォールバーグのWバーグコンビ(なんかファーストフードのセットメニューみたいですねw)は信頼できる。ここまで来たら納得せざるを得ないでしょう。
私は「バーニング・オーシャン」でも素晴らしくスリリングさと人間を描いていると思ったのですが、今作もまさに。
監督は題材に対してすごく巧いバランスをとれる人なんだと思います。
そもそもピーター・バーグ監督なのですから、この作品が”アメリカ万歳!イスラム過激派潰す!”みたいな映画ではないのは周知の事実ですが、今作で非常に誠実なのが、対テロに関する難しさと狂気をしっかりと見せているところだと思います。
ケビン・ベーコン演じるFBI捜査官リック・デローリエの置かれる厳しい状況。彼が慎重に感情を抑えようとする場面、テロという断定が与えうるコミュニティへの被害や経済影響などを考慮するシーン。
とにかく、大衆の流れや感情に任せそうなところで必死に止めようとする役割です。
テロの対処と言うと、それこそ諜報やテロ組織との交戦は描かれますが、このようにテロリズムを扱うこと自体の非常に緊張感のあるやり取りを見れたのも良かったです。
また、テロ対策の狂気もしっかりと刻まれています。
途中で容疑者の妻(この人もまた怖い)を尋問するあの組織と女性。なんですかあれは?怖すぎませんか?何でも知っていて、そして彼らの事は何にも明かされない。
FBIも市警も”誰?”のまま放置。まったくの謎ながら、テロに対処するにはああいった正体不明の何かが動いているという恐ろしさが見えました。
次々と移りかわる視点。
ボストンとこの事件に関わった人々がたくさん登場し、主演とされているマーク・ウォールバーグのドラマ部分もすこまで深くは見せません。しかしだからと言って彼らが薄いとか、視点が散漫だとかは全く感じないのは、今作の真の主人公がボストンという街そのものであるからだと思います。
「ハドソン川の奇跡」(2016)がニューヨークであるならば、今作はボストンの良心と結束が主役なんですね。
あのとき行動したすべての人、あそこにいた人たちが感じた恐怖そして勇気。搬送されてきた人々を助けた医師たち。
中国から来ていた若者、戒厳令の中で庭のボートを調べ通報した老人。亡くなった子供の遺体のそばにずっと立ち続けたあの警官。今作に英雄は出てきません。
人々が結束して恐怖に打ち勝つ物語。超絶な力も英雄も必要ないのです。
何気ない日常の数々、その喪失もまた胸が痛みつつ、そこから立ち上がる姿に勇気をもらいます。恐怖と憎悪が世界を覆いそうになったときに、ただ助けが必要な人のそばにいて支える、そんな小さなことがそれらに打ち勝つ力となるのです。
効果的に挿入される記録映像的なカメラや写真。通りに反響する銃声と爆発で犯人追跡のスリリングさをみせつつも、最小限のリアリティ描写で、それぞれの人物をみせていく。各ピースだけで観れば小さくても、ボストンと言う大きな流れでキラキラ光ります。
テロリズムの台頭する時代はまさに私たちの今です。恐怖と憎しみに飲まれそうになっても、愛の力をみせた本作。トミーの言葉と、日本での宣伝文句が心に響きましたね。
「語り継がれるのは、”悲劇”ではなく、”希望”」
ピーター・バーグは信頼できる男!またしても絶妙なバランス感覚で、事件も人もそして概念も描き切ったと思います。哀しくない、むしろ、最後に出てくる人々に勇気と愛をいっぱいもらえる作品でした。
というところで感想は終わりです。それでは、また。
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