「クリード 過去の逆襲」(2023)
作品概要
- 監督:マイケル・B・ジョーダン
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脚本:キーナン・クーグラー、ザック・ベイリン
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原案:ライアン・クーグラー、キーナン・クーグラー、ザック・ベイリン
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製作 アーウィン・ウィンクラー、チャールズ・ウィンクラー、ウィリアム・チャートフ、デヴィッド・ウィンクラー、ライアン・クーグラー、マイケル・B・ジョーダン、エリザベス・ラポーゾ、ジョナサン・グリックマン、シルヴェスター・スタローン
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製作総指揮 セブ・オハニアン、ジンジ・クーグラー、ニコラス・スターン、アダム・ローゼンバーグ
- 音楽:ジョセフ・シャーリー
- 撮影:クレイマー・モーゲンソー
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編集:タイラー・ネルソン
- 出演:マイケル・B・ジョーダン、ジョナサン・メジャース、テッサ・トンプソン、ウッド・ハリス、フローリアン・ムンテアヌ、フィリシア・ラシャド、ミラ・デイヴィス=ケント 他
ライアン・クーグラー監督が生み出した、「ロッキー」シリーズのスピンオフ「クリード チャンプを継ぐ男」。
その続編の「クリード 炎の宿敵」を経て、第3作品目が作られました。
チャンプとしては引退したアドニスの前にかつての親友が現れるも、それは同時にアドニスの忘れたい過去が蘇ったことにもなるといった話。
今回はこれまで主演を努めてきたマイケル・B・ジョーダンが監督デビューを果たし、自身のサーガを描き出します。
その他テッサ・トンプソンらも続投。今回はロッキー役シルベスター・スタローンの出演はありません。
アドニスの旧友であり今作のヴィラン的な位置になるデイムを演じるのは「アントマン・アンド・ザ・ワスプ クアントマニア」や「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」のジョナサン・メジャースが演じます。
前作からは5年経過し、クリードが現役引退をしてからの話ということ、また「ロッキー3」のクラバーを思い起こさせるような、凶暴で危険なデイムの登場を聞いて、どんな内容になるか楽しみにしていた作品です。
北米での興行収入はシリーズのなかでもトップだったようですね。また、日本でのプレミアではマイケル・B・ジョーダンが来日したりと話題でした。
公開週末に早速IMAXで鑑賞しました。
〜あらすじ〜
チャンプのタイトルを獲得し、強敵ドラゴとの死闘で防衛にも成功したアドニス・クリード。
華々しい引退試合を終え、後進の育成に取り組む彼の前に、かつてグループホームの頃親友だったデイムが現れた。
ある事件から18年もの刑期を終えて社会復帰したデイムに複雑な感情を抱くアドニスは、自分のジムで練習するように誘う。
かつては地区のチャンプでもあったデイムに居場所を与え、トップ選手とのスパーリングをさせる。
周囲の反対を押し切ってもデイムをサポートしようとするアドニスであったが、トップ選手のタイトル戦の相手が怪我をし、デイムを代わりに戦わせるという判断から、全てが大きく狂い始める。
感想/レビュー
今の若き世代の物語
新時代のクリードサーガも実に8年の歴史を重ねてきました。
私は2015年に始動したこのシリーズは、かつてロッキーシリーズがそうであったように、この時代を生きる若者への応援であると思っています。
偉大な世代を持つことや、豊かさをベースに生まれた世代が、それでも自分の時代を切り開く。
ミレニアル世代など、物質的に満たされた私達が、精神を鍛え親たちの遺産を超えて己の人生を歩む。
その意味で、今作もまたそのチャプターを進めているのだと感じました。
ストーリーとしてもですし、マイケル・B・ジョーダンが監督を務める意味でもです。
ロッキーシリーズのテイストから抜け出る
まずマイケルが監督を努めていくのは、純粋に嬉しかったです。
それこそスタローンが最終的に「ロッキー ザ・ファイナル」を自分で描いたのと重なる熱さもあります。
ただもっと嬉しかったのが、ロッキーシリーズのスピンオフから、完全にクリードサーガに独立したことです。
もちろん世界と歴史は共有していますが、今作はロッキーを登場させないことや、アポロの話題も最小限になっていて、アドニス本人のみにすごく絞り込んだ脚本です。
ここはロッキー的なものを期待しすぎるともしかするとミスマッチを起こす観客もいるとは思います。
スタイルとしても割りと精錬さがあり、泥臭さが抜けていますし。
自己のスタイルで描き、自分ものに
特にマイケル監督が自己流のスタイルを落とし込んだ点も好きです。
本人が日本の漫画やアニメの大ファンであることを公言していますが、そのアニメ的表現を特にファイトシーンに強く反映しています。
スローモーションなんかは特別なものではなく今までにも使われてはいます。
ですが目線のショットにその目線が向けられている場所のショットなど、漫画のコマ割りのようでした。
また最終幕のデイムとの対決では、精神世界での戦いを投影するために二人を除いて周囲が消え去るという表現もあります。
これはスポーツ映画でもあまり見たことないのでフレッシュでした。
ただ、最終決戦の半分以上をその表現にしたことで、やや長さを感じてしまいます。
くどくなりすぎた点は事実かもしれません。
デイムに関してはファイトスタイル、構えなどユニークで、ボクシングとしてはどうか分からないですが、キャラクターとしては目立ってアクションしています。
その他に、壁や鏡を挟んでアドニスとデイムが向き合い、対峙する構造など、空間を超えつつもモンタージュから因縁や運命を感じさせるなども印象的なショットです。
全体にマイケルが監督、主演として本当にこのシリーズを自分のものにしたのだと感じました。
マグネティックなジョナサン・メジャース
さて、敵としてスタイルに独自性のあるデイムですが、やはりジョナサン・メジャースが稀有な俳優であることが確認できます。
デイムの脆さや悲しさに加えて、しかしふとした瞬間にはすごく危険な空気を纏うことができる。
焦燥の鋭い切り取り
今作でデイムに彫り込まれたドラマもすごく好きでした。
彼は人生のいわゆる黄金期、若い時代を無駄にした。
能力を持ちながら試すことすらできずにいた。
だからこそ自分を試し、その上成功を掴んだアドニスに、激しい嫉妬や羨望を持ってしまう。
もう時間がない。若い時代は終わる。でも何も成し遂げていない。
他人の持つ”あったかもしれない生”を見て羨むこの感覚は、アドニスとともに歳を重ねてきた世代の今にあるものです。
この辺の感覚の鋭さは、ライアン・クーグラー監督と共通しているように思いました。
アップデートされた描写
現代的な感覚では、女性たちの扱いもあります。
そもそも、チャンプである夫に付随する妻ではなくて、自分自身のキャリア(音楽)を追いかけている時点で、ビアンカの在り方はまさに現代の女性像でしょう。
ただ今回はトレーナーに女性がいたり、娘アマーラにボクシングを教えていたりと、ボクシングの面にも男女の垣根を取り払うような試みが見えました。
ロッキーシリーズのようないい意味での泥臭さと熱さを、清廉さとスタイリッシュさに置き換え、現代のエッセンスをより増した作品。
ものすごい熱さとかは正直感じなかったというのと、ファイトの部分でやりすぎた点もありますが、個人的には満足な続編でした。
今回の感想はここまでです。
クリードは4の噂もありましたが果たして。いずれにしても自分が完全におじさんになって歳撮った時に、「ロッキー・ザ・ファイナル」のような作品になってたらいいなと思ってみたり。
それではまた。
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