「ディヴォーション マイ・ベスト・ウィングマン」(2022)
作品概要
- 監督:J・D・ディラード
- 脚本:ジェイク・クレーン、ジョナサン・スチュワート
- 原作:アダム・マコス
- 製作:サッド・ラッキンビル、トレント・ラッキンビル、モリー・スミス、レイチェル・スミス
- 音楽:チャンダ・ダンシー
- 撮影:エリック・メッサーシュミット
- 編集:ビリー・フォックス
- 出演:ジョナサン・メジャース、グレン・パウエル、クリスティーナ・ジャクソン、トーマス・サドスキー 他
「Sweetheart」(2019)のJ・D・ディラード監督がアメリカ海軍初のジェシー・L・ブラウンと彼の相棒トム・ハドナーを描く戦争ドラマ。
主演は「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」のジョナサン・メジャース、そして「ドリーム」や「トップガン:マーヴェリック」のグレン・パウエル。
その他クリスティーナ・ジャクソン、トーマス・サドスキーらが出演。
実話をもとにはしていますが、映画としてはアダム・マコスによる小説を原作としているようです。
ジェシー・ブラウンのことも知らずに、単純にニュースの中でグレン・パウエルがまたパイロットを演じるというのを知って、この作品に出会いました。
昨年中に公開と思っていたら、日本ではNETFLIXでの配信公開ということになりました。てっきり2週間限定で映画館でも公開があるかな?と期待しましたが、それもなく純粋に配信。
配信だとなぜか後回しにしてしまい、結局1月末頃に鑑賞。
今回改めて感想をまとめておきます。
「ディヴォーション マイ・ベスト・ウイングマン」のNETFLIX配信ページはこちら
~あらすじ~
1950年代。アメリカは朝鮮戦争に参加しており、北と南に分かれた朝鮮半島は緊迫していた。
海軍のパイロットとして新たに転属をしたトム・ハドナーは、ロッカールームの奥から何かを話している声を聴く。
そこから出てきたのはアメリカ海軍唯一の黒人パイロットであるジェシー・ブラウン。
はじめはぎこちない二人だったが、それぞれの腕前を認め合い親交を深めていく。
しかしジェシーにはトムが想像もできないような過酷な人種差別の壁があり、そしてまた同時に黒人としての期待のプレッシャーも背負っていた。
そんな時、朝鮮半島での戦闘勃発から、ジェシーとトムたちは実際の爆撃作戦に向けて訓練を始めることになった。
感想/レビュー
アメリカ軍における人種差別の歴史
実在のパイロットの熱い友情物語。
その面はもちろんありますが、今作が描いているのはアメリカ海軍における黒人、歴史における黒人軍人のドラマになっています。
そもそもアメリカでは第一次世界大戦あたりはまだまだ全然黒人の兵士というのは少なくて、第二次世界大戦において黒人部隊が多く採用されています。
ただその後の今作の朝鮮戦争でも、そしてベトナム戦争に至っても、やはり黒人兵士たちの扱いは白人の兵士たちと対等ということは決してなかったのです。
それは「ザ・ファイブ・ブラッズ」でも描かれていますが、同じく命をかけて戦場に赴き、いやむしろ白人よりもサポートが少なく不利な中での従軍にもかかわらず、軽い扱いを受け続けてきたという歴史です。
根強く残る差別意識が、ブラザーフッドの軍の中でも人種の壁としてかなり大きく存在するわけです。
今作はそれ背景に大きく置かれていて、ジェシーの苦難とそれを外側から眺めつつ行動するトムという構造を持っています。
熱いブロマンスと人種の壁
さてその課題の中で友情を育んでいくジェシーとトムですが、ジョナサン・メジャースとグレン・パウエルの二人がまあ熱いブロマンスを見せてくれます。
やたらと仲良くなるのが早いわけではなく、そこはうまく、ジェシーの妻とトムが仲良くなっていくことや家に呼ばれるタイミングとかで丁寧に描写していました。
夜に少し盛り上がっただけで警察に通報される。
玄関に来た白人がああいう風に高圧的だったシーンを挟むと、トムがいかにゆっくりとジェシーの信頼を得ていくかが分かりやすい。
そしてジェシーを演じるジョナサン・メジャースはやはり素敵な俳優ですね。
フィジカル的な意味でのかっこよさもさすがですが、悲しみと怒りと悔しさとが渦巻くジェシーの苦悩は彼の表情のおかげで強いドラマになっています。
ジェシーはたびたび自分自身にむけて、鏡の前で酷い人種差別的言葉を投げかけます。
おそらく彼がこれまでにかけられてきた言葉。それを繰り返し自分に投げつけて、自傷行為ともとれる行動をしているのです。
そこでみせる表情が、悔しいようでしかし怒りをそこで解放しているようで。圧巻です。
無意識下の差別と問題
そんなジェシーをなんとか助けたい気持ちのあるトムですが、彼自身の描き方は一つの点では都合の良い理想の男でしょうか。
人種差別をしない白人であり優しく正義感がある。よくいるタイプのヒーローキャラですが、グレン・パウエルだからうさん臭くないというか。
実際それだけであれば”White Savior”になってしまうところですが、ジェシーにまっすぐとトムの態度にある問題点を指摘されます。
まず助け舟自体が黒人を”助けてもらわないと何もできない人間”にしてしまうこと。
そしていつまでたっても結局は対岸の火事、同じ苦しみを味わうことはないこと。
そういったトム側に向けられる要素は、単純な”善い白人”にしてしまわない意味で良いものかと思います。
ただそれでも、トム彼自身のドラマというのは薄めに感じました。
空中戦や飛行シーンも見ごたえあり
戦闘機での訓練シーンとか、最終幕での戦闘シーン。
その辺ではCGも使われており、特に直近はトム・クルーズの「トップガン マーヴェリック」という圧倒的な存在もあり影を潜めそうですが、それでも画面作りやコックピット内の撮影は素晴らしかったです。
コックピットを空けるシーンがありますが、その時の風の音や振動などのつくり込みは本当にすごく高い上空を滑空している感覚がありました。
橋の破壊作戦の各戦闘機の動きとか敵機との戦いも。アクション的な見どころもありますね。
全体には主演二人の好演がその友情に重さと厚さを持たせてくれており、王道なパイロットものにうまく歴史と人種差別を織り交ぜていると感じます。
歴史上貢献したものへの認知を送るという意味でも意義ある作品になっているのではないかともいます。
清々しい飛行シーンもあるので、やはりスクリーンで観れたら良かったのですが、興味のある人はNETFLIXで配信があるので見逃さずにどうぞ。
今回の感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ではまた。
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