「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」(2023)
作品概要
- 監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
- 脚本:デヴィッド・カラハム、フィル・ロード、クリス・ミラー
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原作:マーベル・コミック
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製作:フィル・ロード&クリストファー・ミラー
- 音楽:ダニエル・ペンバートン
- 出演:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、オスカー・アイザック、ジェイク・ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー 他
2018年に公開した「スパイダーマン:スパイダーバース」の続編であり、再び多元宇宙(マルチバース)に飛び込み多くの別のスパイダーマンたちと出会うマイルスと、彼が迎える運命に抗っていく様を描きます。
監督はホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソンの3人が努めています。また「レゴ・ムービー」のフィル・ロード&クリストファー・ミラーコンビが製作をしています。
主人公や主要メンバーの声の出演は、シャメイク・ムーアやヘイリー・スタインフェルドが続投しつつ、今回はマルチバースのスパイダーマンたちを統率し、運命の秩序を守る番人ミゲルをオスカー・アイザックが演じています。
プロジェクト進行や公開がコロナの影響から遅れて2023年になりましたが、無事に公開。北米では記録的なオープニング興収をたたき出して話題になりました。
あまり期間を空けずに日本でも無事に公開されました。
早速公開週末に、同じく多元宇宙モノである「ザ・フラッシュ」とはしごしてきました。
やはりスパイダーマン人気は高いのか、結構若いファン層で込み合っていました。
~あらすじ~
次元転移装置の暴走の事件からしばらく、自分の次元唯一のスパイダーマンとなっていたマイルスは、ヒーロー活動をしながら、次の進学へ向かっていた。
何かと自分を気にかけてくる両親にやや嫌気がさしながら、異空間への穴を作り出せる敵スポットと対峙するマイルス。
あわただしい日常の中、マイルスにとって嬉しい訪問があった。違う次元のスパイダーマン、グウェンが来てくれたのだ。
再会を喜びつつ、グウェンに導かれてマイルスは違う次元のスパイダーマンたちが集まる空間へ。
そこには彼らを統括しているリーダー、ミゲル・オハラもいた。
彼は多くの次元のスパイダーマンの物語と、運命と言っていい避けがたい事実をマイルスに話す。
それは大切な人を失うこと。それこそがスパイダーマンの運命ということ。
マイルスはひとりのスパイダーマンとして選択を迫られることになる。
感想/レビュー
多元宇宙のさらに先へ
前作「スパイダーマン:スパイダーバース」はいまだなお、史上最高のスパイダーマン映画ともされており、またアニメーション映画というカテゴリーにおいても群を抜いて突出した作品であるとの声も多いですね。
そんな中でコロナのこともあって5年ほど空いた今作は、その期待に応えるものになっていました。
作品自体の内容に触れていく前に、1点注意喚起があります。
既に発表もされていますが、この後に続編「スパイダーマン:ビヨンド・ザ・スパイダーバース」が控えています。
つまり、続編ありきです。2部構成といってもいいらしいので、今作を見る上ではその点がすこし驚くポイントかもしれません。
まあその点では評価が難しい気もしますが、それでも、主たる題材や新たな試みというものは十分に感じられる、やはりとてつもなく意欲的な作品であると思います。
前作がマルチバース(多元宇宙)という概念をかなり先行して切り開き、後追いでそれこそ「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」や「ザ・フラッシュ」までも誕生したのですが、やはり先行で動いたアニメシリーズ。
今回の目指すところもマルチバースの新しい解釈になっています。
実はそこそこ革新的であった「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」よりももう一歩先、もしくは別の道を切り開いていました。
圧倒的な情報量
いろいろと言う前にアニメーションに関して。
前作でも狂ったような表現でありましたが、今回は加速してます。
CGアニメであり、2Dでありセル画であり絵画でありポリゴンでもあるし・・・すべてのスパイダーマンたちが皆その属する世界のタッチで形作られていて、そしてそれぞれが同じ画面に登場する。
実写では絶対にありえない光景。
コミック調の陰影のついたキャラの横に、実践の少ない印象派絵画のようなキャラがいる感覚。ディテールもエフェクトも描きこみもすさまじい。
目に入ってくる情報量があまりに多すぎて、結構疲れます(笑)
でも、疲れるほどの情報であって決して退屈はしませんね。
映像世界に飛び込んでそれを満喫するだけでも非常に価値のある作品です。
ディテールを見逃さないためにも、本当に大きなスクリーンで鑑賞をおすすめします。
反抗する
さてメインストーリーで感心したのは、マルチバースがどうしても”運命”の中での戦いになっていた昨今の潮流で、徹底的に危険を冒したことです。
未知の領域はそのアニメーションだけでなく、ストーリーにもあったのです。
前作でマイルスは事故的に、次元の異なるクモに噛まれてスパイダーマンとなったわけで、今作はその点を掘り起こす。
マイルスがスパイダーマンの運命に逆らって、自分自身の手で運命を切り開こうとするさまには、カミングエイジのストーリーが見えます。
何か決まった道ではなくて、それは大抵親による人生の定義ですが、自分だけでレガシーを作ろうと試みる。青春。
両親と衝突するのはグウェンも同じですが、その外圧への反抗は、そのまま”スパイダーマンの運命”に逆らうことに繋がっています。
マイルスはどこまでも、自分だけの選択をしていくのです。
それが最高にカッコいい。
お前はスパイダーマンじゃない
その犯行の様ゆえに、異物であるゆえに、ミゲルはマイルスをスパイダーマンとしてすら認めなくなります。
次元を巡った先に出会うある仕掛けで、マイリスはさらに究極のアイデンティティ否定にさらされてしまう。
しかしマイルスはきっとスパイダーマンであろうとする。
この流れは、黒人のスパイダーマンに対しての風当たりの強さだったり、直近の「リトル・マーメイド」での#notmyArielのことも思い出しました。
またひいては様々な原作のある作品、「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」におけるファン層からのバッシングにも通じるのかと。
”カノン”を重視して、一切の例外を認めない。新しい試みを認めない。
だからこそ可能性もなくなるのです。
多元宇宙とは無限の可能性。
しかし多くの作品は共通点や運命、何かの”この人はこうあるべき”という型にはめて行ってしまう。(「エブエブ」すらアジア系の家族像の縛りがあったかも)
それすらもぶち壊してくれたのが今作です。
マイルスが走っていくのは、まだ誰も到達したことのない可能性なのです。
本当の意味で、多元宇宙の無限性を探求する、未知の先へ導く主人公。
なにかとファンサービスばかりで、原作やカノン、またはファンにこびへつらうような作品がおおいところで、この情熱は本当に痺れました。
素晴らしいアニメーションであり、青春と成長であり、アイデンティティの確立である。
マルチバースをぶち抜いていくこの続きも本当に楽しみです。
必見のスパイダーマン映画だと思いますので、大きなスクリーンでぜひ。
今回の感想はこのくらい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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