「スパイダーマン:スパイダーバース」(2018)
- 監督:ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
- 脚本:フィル・ロード、ロドニー・ロスマン
- 原作:スタン・リー、スティーヴ・ディッコ、ブライアン・マイケル・ベンディス、サラ・ピシェリ
- 製作:アヴィ・アラッド、フィル・ロード、クリストファー・ミラー、エイミー・パスカル、クリスティーナ・スタインバーグ
- 製作総指揮:ウィル・アレグラ、スタン・リー、ブライアン・マイケル・ベンディス
- 音楽:ダニエル・ペンバートン
- 編集:ロバート・フィッシャー・Jr
- 出演:シャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソン、ヘイリー・スタインフェルド、マハーシャラ・アリ、リーヴ・シュレイバー 他
マーベルヒーロースパイダーマンの映画としては初となるアニメーション作品。
複数の次元世界のスパイダーマンが集結するというコンセプトにて、主人公は今まで実写映画ではおなじみだったピーター・パーカーから、マイルスという少年になっています。
今作はゴールデングローブ賞、アカデミー賞にてアニメーション賞を獲得。批評面でもそして一般観客からも大絶賛され、日本でも注目されていました。
一足先に先行上映に行ってきたので、IMAX3Dでの鑑賞になりました。先行の時は朝早かったからかそこまで混んではいませんでしたけど、年齢層の幅広さは感じました。
ブルックリンに暮らす少年マイルス。
彼は叔父と共にグラフィティをしている際に、謎の蜘蛛に噛まれたことで特殊な能力を得る。
ある日マイルスは、キングピンが次元を歪ませる装置を作動しようとしているところに出くわす。マイルスはキングピンを止めに来たスパイダーマンに助けられるも、装置の誤作動で起きた爆発により、スパイダーマンは死亡してしまう。
彼は最後に、キングピンの計画を阻止するためのデバイスを託し、マイルスに必ず街を救うように頼んだのだった。
スパイダーマンことピーター・パーカーの死がニューヨークの街を悲しみで包んだ。そしてマイルスは約束を果たすべく、マスクをかぶることになる。
スパイダーマンがいっぱい出てくる作品ということで、まずハードルを気にされる方がいるかもしれません。
確かに今までの実写映画スパイダーマンやアニメのネタがやや入ってきますし、キャラもいろいろ出てきますが、スパイダーマンを1ミリも知らないと楽しくないなんてことはないです。
そこはうまいこと、コメディネタにもなっている自己紹介があったり、ファンサービスや内輪ネタで盛り上がるようなスタイルにならないようになっているかと。
実際私もコミックのスパイダーマンは知りません。知ってるのは、サム・ライミ版スパイダーマンシリーズ、マーク・ウェブのアメイジングスパイダーマンシリーズ、そしてMCUのトム・ホランド演じるスパイダーマン、つまり実写映画で観てます程度です。
どちらかといえば、これは続きでもないですし主人公も新しいので、気になっているという人はもうすぐに観に行ってほしいです。
さて、キャラや脚本に入る前に、まずもっとも特徴的で素晴らしい映像表現について。
この作品はCGアニメーションではあります、しかしその質感がいままでにないようなものでした。
立体感は出しながらも、コミックがそのまま動いているような感覚。陰影や奥行きの造形がありますが、ライトが直線的だったり、紙面のようになにかパターンが入っていたり、言葉や効果音が文字になって出て来たり、またスローモーションと決め画のはざまみたいなショットや背景が消えてエフェクトだけになることも。
紙という媒体に時間を失って載せられた情報量が、アニメーションという映像に融合して、動きと流れを得ている。
スパイダーマンが多く出てきてからのアクションも好きですけれど、冒頭のマイルスがただ街を歩くシーンとか、世界の生命力に驚かされました。
今作の主役はマイルス。彼は観客と同じく、スパイダーマンをみている側の、普通の人間でした。
彼を通してみていくのは、スパイダーマンになっていくことだと思います。
もちろんマイルスも能力を手に入れるので、それをうまくコントロールして自分の力にしていく過程はコメディ交じりでおもしろいのですが、何より一人のヒーローになっていくことが中心に描かれていると感じました。
ピーターと一緒にスイングするシーンとか、私はすごく好きだった。スパイダーマンになって移動するのってこんな感じなんだなと、スパイダーマンのリード付きで体験できるんですから。
それにスパイダーマンになると、その平衡感覚や視点、まさに世界の仕組みがすこし違うっていうところが、カメラワークで色々と見せられていくのも楽しかったです。
ただそれに加えて今作では、スパイダーマンそしてヒーローになることに対しての大きな犠牲や責任もマイルスを通して見せていきます。
それぞれ魅力的なスパイダーマンたちが語っていくのは、大きな力を持ったことで伴った別れや犠牲、悲しみです。
スパイダーマン/ピーター・パーカーはその大きな責務を一人背負ってずっと闘ってきた。そんな偉大なことが、果たしてマイルスにできるのか。叔父の正体など、マイルスは自分の力、運命と向き合っていくしか道がなくなっていきます。
大切な人を失って、愛する人に秘密を作って。それをたった一人で背負っていくというのが何よりも悲しいことです。スパイダーマンに寄り添うことができる人がいても、スパイダーマンの背負うものを同じく背負っているわけではない。
それが今回、次元が交差したことで、運命を背負った者が集うんですね。いままでは孤独な戦いだったのに、初めてひとりじゃなくなります。
ピーター・B・パーカーも、グウェンも他のみんなも、今回こうして出会ったことで、自分は1人じゃないことがわかり、さらに強くなったと思います。特にピーターは、マイルスと出会ったことで、人生における再起を果たしますからね。
非常に切ない物語をもつ彼。みじめなピーターというのも新鮮で笑えるところではあるんですが、頑張っても失ってしまったら、ああなりますよ。
それがマイルスたちと出会って変わったのですから、本当に良かった。
あまりの高さにビビっていたビル、見上げるだけだったスパイダーマンスーツ。
マイルスの顔の位置がケース内のマスクとぴったり重なるようにガラスに映り、今度は”信じて跳んだ”高層ビルで、超絶クールなアップダウンショットが、これは落ちているのではなく飛翔だと伝えます。今度は序盤でビルから落っこちたときと同じ構図、吹き出しなのに、今度は上に行くのです。
メタ的な要素含めて、いままでのスパイダーマンの歴史が混ざり合い、スパイダーマンというコンテンツへの愛に溢れた作品です。この辺は「レゴ・バットマン・ザ・ムービー」にも感じた愛情でした。
スパイダーマンに孤独を埋める仲間を与え、さらに新ヒーロー誕生のオリジンをやってのける。それはすでにスパイダーマンがいる世界での誕生であり、だからこそ本当に、誰でもマスクをかぶることができるのだと思わせてくれます。
一人一人の孤独がありますが、きっとこの広い世界、もしくはもう別次元でも、自分と同じ悩みや孤独を抱えている人がいると思うのです。
圧巻のアニメーション表現とスパイダーマンへの最高の敬意を見せながら、コミック世界が果たす役割である、拠り所となる世界を広げて見せた素晴らしい作品です。
このアニメーションを見るならぜひ大画面、そしてIMAXは最高だと思います。他にないような映像体験の新たな形としても、そして史上最高のスパイダーマン映画としても披見だと思います。
感想はこのくらいです。それではまた。
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