「オリオンと暗闇」(2024)
作品解説
- 監督:ショーン・シャルマッツ
- 製作:ピーター・マッカウン
- 製作総指揮:ボニー・アーノルド、ウォルト・ドーン
- 原作:エマ・ヤーレット
- 脚本:チャーリー・カウフマン
- 音楽:ロバート・ライデッカー、ケビン・ラックス
- 出演:ジェイコブ・トレンブレイ、ポール・ウォルター・ハウザー、コリン・ハンクス、ミア・アケミ・ブラウン 他
エマ・ヤーレットの絵本「オリオンとクラヤーミ」を原作にしたドリームワークス製作の長編アニメーション。監督はショーン・シャルマッツ。これまで「レゴムービー2」などでストーリーボードなどを手掛けてきた方で、実際にフィーチャーを監督するのは初めてのようです。
「マルコヴィッチの穴」「エターナル・サンシャイン」などの脚本家チャーリー・カウフマンが脚本を担当しています。
「ワンダー 君は太陽」のジェイコブ・トレンブレイが主人公オリオンを、「リチャード・ジュエル」のポール・ウォルター・ハウザーが暗闇の声をそれぞれ演じています。
劇場公開はされていなくて、Netflixで2024年2月2日から配信されました。配信を眺めていたら見つけたのであまり前情報は知らないままに鑑賞して観ました。
~あらすじ~
小学生の男の子オリオンは、とても怖がりで、ハチや犬、海、携帯電話の電波、殺人ピエロなど、子どもならではの様々な不安を抱えている。
そんなオリオンが最も恐れているのが、毎晩訪れる“暗闇”だった。
ある夜、その暗闇が化身となってオリオンの前に現れる。暗闇は夜が怖くないことを証明するため、オリオンを夜の世界旅行へと連れ出すが……。
感想レビュー/考察
あらすじや設定を観るだけでも何となく想像はついてしまうプロットライン。
これは恐怖とどのように向き合っていくかを描いた作品で、なにかと世の中怖いことって多いけれど、それを抱えて生きていくことを子どもたちに伝えていくような作品になっています。
その点でいうとホラー映画を見るよりは間口は広いですし、怖いこととか怖がることに対してのレッスンのように、子どもたちに観てほしい作品ですね。
ただそこだけで終わらないことが今作の強みというか魅力になっています。
これは脚本にチャーリー・カウフマンが参加していることが大きいと予想されますが、彼がこれまでにも「もう終わりにしよう。」などでくみ上げてきたような、メタ構造を利用していることにあります。
大筋としては主人公のオリオンが、学校のいじめっ子からちょっとした冒険、そして部屋の暗闇が怖いって話です。しかし、この暗闇との旅の中で、なんと自分自身の将来の娘とも行動を共にする。
そして娘は子どもの頃のオリオン、つまり父と冒険しつつも、実際に大人のオリオンとも会話していくのです。
果てには孫まで出てきたりして、孫の場合にはSFまで入ってくるという結構飛び出した映画。このへんの判断はメタ構造をもって脈々と続く恐怖との対峙ととらえるか、単純に散漫に映ってしまうか、別れどころでしょうね。
流石に唐突だなとは思いましたが、個人的にはオリオンだけではなくいつの世代の子どもも怖いって感情を抱えていることを描いたのは良いことだと思います。
”臆病なこども”って烙印で話を進めていくわけではないのです。
さらに、こうした家族のつながりが全体をもって一つの物語に完成されていくのも美しく感じました。
親子が物語に組み込まれていくことが、自分で自分自身の幼少期を見守るような感覚もくれています。観ている大人こそ、自分自身や幼少期を思い返すことになるかもしれないですね。
そして親子でそろって子どものオリオンの冒険を支えていくと、暗闇の抱える悩みも相まって恐怖という感情により奥深く潜ることができます。
そもそも何かを恐れていくことは、生きる上で必要だということ。危険を察知できなければ自然界で死んでしまいますし、生存本能なのです。
さらに、暗闇に何かが潜んでいるかもしれない。未知の領域に対して想像力を働かせるということは、感受性の豊かさにもつながっているとされます。
ともすれば、子どもが何かを怖がることにたいして、それを肯定したり、その理由として想像力が豊かだからこそだと伝えてあげることもできますね。
そしてオリオンのように、自分の子どもに対しても自分自身だって何かを怖がったし、今でも怖いものはたくさんあるんだって伝えてあげられる。また、暗闇の件のように、やたらに怖がってしまったり嫌うのは、相手だって傷つくんだってことも。
闇と光のCGでの造形や美麗さなど視覚的にも楽しめるアニメーションですが、メタ構造をうまく親子間の絆や対話に落とし込み、そこから恐怖というをもの見つめていく素敵な作品でした。
配信だけなので、大きなスクリーンで夜闇や光の表現を観れないのが残念ですが、NETFLIX加入されている方はぜひ鑑賞してみてください。
今回の感想はここまで。それではまた。
コメント