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「愛を耕すひと」”The Promised Land” aka “Bastarden”(2023)

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「愛を耕すひと」(2023)

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作品解説

  • 監督:ニコライ・アーセル
  • 製作:ルイーズ・ベス
  • 脚本:アナス・トマス・イェンセン、ニコライ・アーセル
  • 撮影:ラスムス・ビデベック
  • 美術:イェッテ・レーマン
  • 衣装:キッキ・イランダー
  • 編集:オリビエ・ブッゲ・クエット
  • 音楽:ダン・ローマー
  • 出演:マッツ・ミケルセン、アマンダ・コリン、クリスティン・クヤトゥ・ソープ、シモン・ベンネビヤーグ、グスタフ・リンド 他

マッツ・ミケルセンが母国デンマークの開拓史に名を刻む英雄を演じた歴史ドラマ。

デンマークの作家イダ・ジェッセンが史実をもとに執筆した小説を原作に、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」でマッツ・ミケルセンとタッグを組んだニコライ・アーセルが監督を務めます。

脚本には「ライダーズ・オブ・ジャスティス」のアナス・トマス・イェンセン。ドラマ「レイズド・バイ・ウルブス 神なき惑星」のアマンダ・コリンがアン・バーバラ役を務め、「シック・オブ・マイセルフ」のクリスティン・クヤトゥ・ソープが共演しています。

今作は2023年の第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門に出品されました。

マッツ・ミケルセンは以前、しばらくハリウッドなどの海外の作品出演からは離れると言っていましたね。どうしても長期間家族と離れることになってしまうので、デンマーク国内の作品をメインにすると。

今作はまさにデンマーク国内作品のようです。観行くのが遅くなってしまいましたが鑑賞してきたので感想を。

「愛を耕すひと」の公式サイトはこちら

〜あらすじ〜

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18世紀のデンマーク。貧しさに苦しむ退役軍人ルドヴィ・ケーレン大尉は、貴族の地位を得るために未開の荒野を開拓しようと決意する。

貴族たちは到底無理な話だとバカにしつつも、デンマーク国王にとっては悲願の開拓でもあるため、試しにやらせてみると、これを許可した。

しかし、ケーレンの動きを、自らの権力をそぐと危険視した有力者フレデリック・デ・シンケルは、あらゆる手を使ってケーレンを追い払おうとする。

厳しい自然の脅威とデ・シンケルの圧力に立ち向かう中、ケーレンはデ・シンケルのもとから逃げた使用人の女性アン・バーバラや、家族に見放された少女アンマイ・ムスと出会い、次第に家族のような絆を築いていく。

感想レビュー/考察

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重厚で見ごたえある叙事詩

元になった人物や実話、それを記した小説には詳しくないのですが、とにかく言えるのは、これは良い大河ドラマだということ。

最近なかなかこういう作品は観なくなっていたので、久しぶりにすごく良質な歴史ドラマを見た気がします。

叙事詩的で人間の人生というモノを、過酷さ、苦難をそのままに彫り込む。

土地に木を植えてそれが育つようにじっくりとゆっくりと、しかし力強く。

2時間くらいの上映時間ではあるのですが、気持ちいいくらいに重厚で満足感たっぷりの作品です。

上映時間は割とまとまっているのに、人生の大きな流れを感じ取れるのは、全体に余韻や静寂などの抑制の効いたトーンが関係していると思います。

静寂という音の空間や、カットやカメラの動きなどが落ち着いていること。

目の前で起こることに対してだけではなく、それを受けた人物たちの心情に対しても、結構丁寧に観客が読み込む時間を与えてくれます。

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大まかなプロットは退役軍人が名誉を求めて土地を開拓し、最終的には成功して貴族の称号を得るというものです。

ただ、真にはタイトルを求める男たちの喧騒の中で輝く女性たち。そしてそれに影響されて称号夜も大事なものに気づき人生を変える男が描かれていると思います。

厳しく優しい大地を捉える見事な撮影

渦巻くドラマを切り取るのは素晴らしい撮影。荒涼として厳しい大地を、寒いと感じられるほどの風、空気までとらえる。そして降りしきる雨や夜闇の世界がうす青く染まったような画面。

雄大な自然の厳しさを見事に切り出していて、ケーレンたちが直面する環境を感じ取れます。

そしてただ厳しいのではなくて、優しい陽の光や温もりも感じられ切るような大地の土も捉えています。

撮影面で楽しめる点では、引きのショットで広大な土地を見せるショットなど、監督もインタビューで答えているようにデヴィッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」からの影響も見えますね。

映画でこそ見せられるスケール感や奥行きをこれでもかと投入し、壮大さとドラマを盛り上げているんです。

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気持ちいくらいの悪役シンケル

そんな環境下に登場する人物たちですが特筆すべきはまずケーレンを脅かす悪役であるシンケルです。

地元の有力者であり権力に固執する悪党。

自らを高貴に響かせたいからとシンケルではなくデ・シンケルと呼ぶこの男は高慢でサディスト、うぬぼれが強く甘やかされた残虐な子どもです。

もう徹底して最低最悪のクズ。最近なかなか見ないくらいストレートな純粋悪で、だからこそケーレン側の話含めて真っ直ぐな脚本になっています。気持ちいい。

シンケルを演じたシモン・ベンネビヤーグさんがとにかく良いですね。

見事に悪逆の暴君を演じきっていて、画面に出てくるたびムカつきましたもの。でも、こいつが出てくるとシーンも支配するし本当に存在感なども見事でした。

所作に子供じみた点を見せたり、涙ぐんで悔しがってたり。

ただシモンの演技は、シンケルに哀れみを抱かせない点です。かわいそうだとは思わせない、嫌悪感を保つ演技に魅せられました。

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虐げられ搾取される者たちが家族になっていく

そしてそんな悪役に打ちのめされ続けながら、どこかに気高さを持っているのがケーレンやアン・バーバラ、神父たち。

彼らはみな弱者であり、虐げられてきた人間です。

ケーレンはまさにシンケルのようなメイドに手を出す領主によって生まれた子どもです。母は使用人であり、領主に手を出されて生まれながら認知されない。

実は今作のデンマーク語のタイトルの意味は”私生児”という意味です。これはケーレンを世界がどう見ているのか示しています。

貴族の称号、権力に憧れるのは彼の出自ゆえでしょう。

そしてアン・バーバラは使用人であり、シンケルに何度も性暴行されながら、ついには夫すら殺されてしまう。

アンマイ・ムスは作中でも唯一、当時のデンマークでは非常に珍しいタタール人。人種差別によって虐げられる存在。

また貴族側であり持てるものに見えるエレル嬢ですが、彼女も父親からシンケルの財産のために政略結婚させられそうになっています。彼女自身には力がなく、道具とされているのです。

力のない者たちが集まって疑似家族になるというのは、「駅馬車」にはじまり「アウトロー」など西部劇でもありますね。

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自分で道を切り開く女性たち

王道であり叙事詩的。精神の旅であります。

ケーレンを主人公として、マッツ・ミケルセンが静かで厳格な大尉を演じます。すごく厳しくて、自分の家を”王の家”なんて呼ぶような男。決して高潔なヒーローではないのですが、彼の変化を見せる演技が良かったですね。

目的のために猛進する男から、徐々に他者への思いやりを見せていく。彼を変えたのは他でもなく3人の女性たちです。

本当の主人公はアン・バーバラたち女性陣かもしれません。今作で何かを勝ち取っていく、自分の道を開いていくのは彼女たち。

アン・バーバラはケーレンに助けてもらうのではなく、自分でシンケルに決着をつけます。

エレル嬢も政略結婚についてはずっと拒絶し続ける。アンマイ・ムスも常に自分で自分の居場所を決めていきました。

男性に解決してもらうのではなく、女性自らの力で事態を解決する描き方は、原作からなのかはわからないですが現代的な側面を持っているとも言えます。

貴族の称号よりも大切なもの

終幕、ケーレンは貴族の称号や報奨金も得ています。でも、アンマイ・ムスが自分の居場所を見つけて旅立つと、念願であった開拓地を去ってしまう。

同時にすべてそのためだったはずの貴族の称号すら取り下げられてしまいますが、そこまでして彼が向かった先が重要です。

彼はシンケル殺しで捕まったアン・バーバラを救出しに行くのです。ずっと彼女が夢見ていた海に向かって馬を進めていくラストカットには希望も見えました。

何より、ケーレンは貴族の称号なんかよりも大切なものを見つけたのです。

重厚で満足感たっぷりな大河ドラマとして、楽しめました。

今回の感想は以上。ではまた。

 

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