「MaXXXine マキシーン」(2024)
作品解説
- 監督:タイ・ウェスト
- 製作:ジェイコブ・ジャフク、タイ・ウェスト、ケビン・チューレン、ハリソン・クライス、ミア・ゴス
- 製作総指揮:レン・ブラバトニック、ダニー・コーエン、ジェレミー・ライツ、ピーター・ポーク、サム・レビンソン、アシュリー・レビンソン
- 脚本:タイ・ウェスト
- 撮影:エリオット・ロケット
- 美術:ジェイソン・キスバーデイ
- 衣装:マリ=アン・セオ
- 編集:タイ・ウェスト
- 音楽:タイラー・ベイツ
- 出演:ミア・ゴス、モーゼス・サムニー、ジャンカルロ・エスポジート、エリザベス・デビッキ、ケビン・ベーコン、ミシェル・モナハン、ボビー・カナベイル、リリー・コリンズ、ソフィー・サッチャー 他
タイ・ウェスト監督とミア・ゴス主演で贈るスリラー映画「X エックス」、「Pearl パール」に続くシリーズ第3弾。
舞台は1985年、実在の連続殺人鬼“ナイト・ストーカー”の影が差すハリウッドとなり、時間軸としては前作となっている「X エックス」でテキサスの猟奇殺人事件を生き延びた女優志望のマキシーンが、夢を追いながらも次々に立ちはだかる脅威と闘い、ハリウッドの頂点を目指していく姿が描かれます。
マキシーン役には前作に続きミア・ゴスが続投。
彼女を主演に起用する映画監督役を「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス」や「テネット」などのエリザベス・デビッキが演じるほか、スクリームクイーンとして注目を集める女優役で「心のカルテ」などのリリー・コリンズ、そして何物かに雇われマキシーンにつきまとう私立探偵役としてケビン・ベーコンが出演しています。
前2作品も、そのメタ的な映画好きなら嬉しいポイントが多いこととか、なにしろ才能に溢れるミア・ゴスのとんでもない魅力にみせられたので、今作も楽しみにしていました。公開初週は行けなくて、次の週に観に行くことができました。
というか、まあ地元だけとは思うのですが、公開週も翌週も1日1回だけ上映って、さすがに扱いが悪すぎますよ。。。
人の入りはそこそこって感じでした。
~あらすじ~
テキサスでの惨劇をただひとり生き延びてから6年。
ポルノ女優として名を上げたマキシーンは、新作ホラー映画の主演に抜てきされ、ついにハリウッドスターへの夢をつかもうとしていた。
だがその頃、街では連続殺人鬼“ナイト・ストーカー”による凶行が続発。マキシーンの周囲でも女優仲間が次々と犠牲になっていく。
そんな中、彼女の前に6年前の事件を知る謎の人物が現れ、不穏な影が再びマキシーンに迫る。
感想レビュー/考察
抑えられ傷ついた女性の物語最終幕
まさかシリーズ化するとも思っていなかったタイ・ウェスト監督によるこの3部作。
「X エックス」は「悪魔のいけにえ」他様々なスラッシャー映画へのオマージュを捧げる作品でありつつ、強烈な老婆パールという繋がれてしまう人間臭さを持った怪物を生み出しました。
ホラーの定石にある、奔放なブロンドは死ぬという概念を覆してみせた作品は、怪物側であった老婆の前日譚として「Pearl パール」を生み出します。
第一次大戦頃という全く異なる時代において、いかにしてパールがあのような殺人鬼になったかを描くホラーでしたが、そこでは40年代や50年代のアメリカ映画的な描かれ方でまたしてもメタ的な要素を含みました。
ただその上で何もかもにも縛られて生きることに、諦めと絶望を見出した悲しい少女が描かれます。
夢の産業映画に華やかさを感じる、そんなトーンの「Pearl パール」はその実、そこにある悪夢と搾取、切り捨てられる人間の絶望を描き、クラシックなテクニカラー的な画面に対してストーリーや顛末はなんとも歪んでいた。
そして、すべてをまっすぐ見ることになったパールの悲哀に満ちた限界の笑顔で幕を閉じました。
80年代全開の空気が最高にエネルギッシュ
今作でもまたタイ・ウェスト監督は同じラインの女性を主人公に、メタ的な作り込みをします。
舞台は1作目よりはあとですが80年代という喧騒と常軌を逸した空気を持つ時代。しかもその最前線たるロサンゼルスとなります。
ちょうど「映画検閲」でも描かれたような、映画での激しい暴力や性描写に対して社会的にそれを悪として規制を求める声に溢れる頃。
80年代のホラーやスラッシャージャンルへのオマージュにも溢れていますが、何よりも空気を作り出したのが凄い。
80年代の映画群だけが持っている独特の空気。がメインの色合いとテクスチャ、音。それらがそこにある。
ネオンライティング。暴力、セックス。コカイン。
病的なまでの力にあふれた時代におけるマキシーンの物語は、シリーズの終着として私は最高に好きです。
今回は、今度こそは、諦めず勝って幸せになってくれ
繰り返されてきた、”逆境に直面する女性”という物語は、まさにこれまでの2作を見て感じてきたこと、願ったことを実現してくれました。
テキサスでの惨劇を生き延びたマキシーンは、ポルノ映画界でも生き延び本格的な俳優としてキャリアを進めようとする。
今作はマキシーンがオーディションに挑むシーンで始まります。
素晴しいワンカットで登場するミア・ゴス。ポルノ映画界で有名になった彼女に対して、「なぜその道を選んだの?」という問いが出される。
ただ、エリザベス・デビッキが演じる監督エリザベスは演技力を見せろという。できないことのないようなミア・ゴスはここでも素晴しいパフォーマンスを出しますが、マキシーンの魅力の詰まったOPだったと思います。
彼女はポルノ映画女優であることを1ミリも恥ずかしいことだと思っていない。
そして様々な逆境に対して、決して負けずに諦めない姿勢を持っています。
「33歳なの、もうハードコアは無理。だからってぜったいに諦めない。」
パールはあきらめることで絶望した。正気になってすべてが見えたとき、ものすごい悲しさに苛まれた。
そんな前作があるから、マキシーンは絶対に夢をかなえてくれ。勝ってくれ。って思えるんです。
孤高で強く、それは自分ルールで生きるアウトロー。人は殺すけど悪人じゃない。エリザベス監督がいうようにイーストウッドとブロンソンの融合。
希望の物語としての3幕目だと思います。
マキシーンが強くてホラーとしての怖さはない
ちなみに、だからこそ全編が怖くないという弱点も持っています。ホラー映画として期待してみていくと、正直微妙。
なぜならマキシーンが恐れていないから。
バスター・キートンのコスプレ犯罪者にも、男としての人生に終止符を打ち、ケビン・ベーコン演じる性差別的かつ職種差別的な私立探偵もまさかのカギナックルにサイドミラーへし折り。最高です。
(ケビン・ベーコンはあのベイツモーテル舞台で私立探偵ならちょっと期待するシーンが有りましたが、そこはスルーでした。)
自律してカッコいい女性たちのシスターフッド
むしろ、マキシーンだけではなく今作の女性たちは皆強く自立しています。
ミシェル・モナハン演じる刑事はマキシーンがセックスワーカーであることを気にしない。彼女の目的は連続殺人を止めて次の被害者を出さないこと。
同僚たちも足引っ張ることない。マキシーンを応援してくれる。
女優達もいじめもなく良い関係。監督は突き抜けてカッコいい。
ソフィー・サッチャー演じる特殊メイク担当も含めて、なんというかプロであり厳しいながらもシスターフッドを感じる素敵なキャラクターが多いです。
やはりフェミニズムのシリーズであり、そしてこの最終作はXの3つめ。Maxxxineという最後の集約として、女性が勝利する物語なのです。
ハリウッドという夢の呪縛と、男性の呪縛と
連続殺人鬼とスラッシャー映画的なオマージュと。でも根幹にあるのは、このシリーズが芯に描いてきたことは、やはり夢の産業と男性社会に縛られる女性の話だと思います。
まさにハリウッドのてっぺんに登るということを文字通り舞台にして、あのHollywoodサインの足元を最終幕に展開する今作は、マキシーンを縛ってきた宗教と父親という真犯人と対峙します。
パールは映画産業に憧れた。
でもそこには搾取的な男性者の闇がある。テクニカラーをぶっ壊せ。そんなことをエリザベス監督が語りますが、パールで描かれたような夢のようなカラフルな世界は毒がある。
今作で、惨殺された女性たちの遺体が、ジュディ・ガーランドの墓を見に来たゲイのカップルによって発見されたというシーンがあります。
ジュディが同性愛者に対して寛容であったことから、その行為は理解できますが、そもそもジュディ・ガーランドと映画産業を考えると、あまりに酷い。
詳しいことは「ジュディ 虹の彼方に」でも描かれていますが、彼女は子役として(パールができなかった)映画界に入って成功した。
でも、そこではプロデューサーからの性的な虐待や過労を超えるほどの搾取があり、覚せい剤を打ってまで仕事を続けさせられ何もかも壊されてしまった。
夢に見たハリウッド、それすら男性に邪魔される。でもその先にも、本当に美しい世界が待っているの・・・?
不穏の先に、幻想でも構わないから輝くマキシーンを観たい
父親との決着をつけるマキシーンには、強烈な警察のヘリからのライトが、まるでスポットライトのように当たる。ふと映される、大成功したマキシーンのビジョン。
その後にはやはり女優としていったマキシーンが映されますが、すこし現実かどうかあやふやです。
顔にあるシミを、そばかすを、全く化粧で隠さないマキシーン。自分を偽る気はないって感じ。そして「X エックス」の時とは違う紙幣を使って、俳優組合の会員カードでコカインを吸引。(まだコカインやってる感じもちょっと不穏)
生首エンディングという何とも言えない不安を湛えるエンディング。
そして流れるエンディング曲は1981年リリース、キム・カーンズによる”ベティ・デイビスの瞳”。これもまたちょっとね。
ベティ・デイビスといえば、ハリウッドではジョーン・クロフォードとのこととかありますし。それに彼女の「何がジェーンに起こったか?」とか、まさにハリウッドの子役とかその闇を描いた作品もあるし。
すっきりとハッピーエンディングではない。それはきっと、タイ・ウェスト監督が、映画産業はどうしても闇がある危険さを持っていると言いたいのでしょう。
それでも、監督はこの3つの物語を通して、異なる時代の同じ境遇の女性の話から、強く前に進むフェミニズムに満ちた女性たちを描き出しました。
影があるのは分かる。でも、パールの人生の哀しさに泣いた自分にとって、パールと接触したマキシーンが到達した場所は、彼女の輝きは、やっぱりうれしいし感動しました。久しぶりにここまで、映画の中の人物を応援して案じて、そして幸せを嬉しく思いました。
私はシリーズ全体が素晴らしいし、そして今作でコンプリートされたと思います。傑作だと思いますね。公開規模とか小さい観たいですし、早くも上映終わり始めているのが本当に残念ですが、今年のベストに入れたい素晴らしい作品でした。
今回の感想はここまで。ではまた。
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