作品解説

「ゴッドランド GODLAND」で世界的な評価を獲得したアイスランドの映画監督フリーヌル・パルマソンが監督・脚本・撮影を手がけたヒューマンドラマ。
アイスランドの片田舎を舞台に、離婚後も奇妙な距離感でつながり続ける元夫婦と子どもたちの日常を、四季折々の美しい風景とともに、ユーモアとほろ苦さを交えて描きます。
主人公アンナを演じるのは、コメディアンや歌手としても活躍するサーガ・ガルザルスドッティル。
元夫マグヌス役には「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」、「蜘蛛の巣を払う女」のスベリル・グドナソンが出演し、離婚後も家族として寄り添い続ける複雑な関係を繊細に表現しています。
また、本作にはパルマソン監督の実子3人と愛犬パンダが家族役として出演しているようです。
2025年の第78回カンヌ国際映画祭では、劇中で印象的な存在感を見せた愛犬パンダがパルム・ドッグ賞を受賞しました。
スタッフ
- 監督・脚本・撮影:フリーヌル・パルマソン
- 製作:アントン・マウニ・スバンソン、カトリン・ポルス
- 編集:ユリウス・クレブス・ダムスボ
- 音楽:ハリー・ハント
キャスト
- アンナ:サーガ・ガルザルスドッティル
- マグヌス:スベリル・グドナソン
- イダ:イダ・メッキン・フリンスドッティル
- グリムール:グリムール・フリンソン
- ソルギス:ソルギス・フリンソン
- パルミ:イングバール・シーグルズソン
- マルティン:アンデシュ・モッスリング
監督の過去作は未見なのですが、予告編でのアイスランドの風景の美しさに惹かれて鑑賞してきました。
公開初週の終末でしたが、人の入りはそこそこって感じです。まあ公開規模が小さくてスクリーンも小さいのですが。
~あらすじ~

アイスランドの小さな町で、長女イダや双子のグリムール、ソルギス、愛犬パンダと暮らすアンナ。芸術家としての夢を追いながら、3人の子どもたちを育てる日々を送っている。
夫マグヌスとはすでに離婚しているものの、お互いへの想いを完全には断ち切れず、彼は何かと理由をつけて家を訪れては食卓を囲み、ときには家族旅行にも加わる。
まるで離婚などなかったかのような穏やかな時間を重ねる二人。
しかし、その曖昧な関係は少しずつ家族それぞれの心に変化をもたらしていく。
感想レビュー/考察

終わってしまった夫婦、その後を流れていく時間
終わっている夫婦のその後に流れていく時間のドラマ。
映画としての抑揚とか、解決していく課題やたどり着くべきゴールというものは結構曖昧なんですが、不思議と引き込まれていく作品。
誰か別の人たちの人生を眺めているのに、どこか自分の記憶をめぐっているような懐かしい感覚もありました。
スナップショットの連続に、幻想的な不可思議な映像、そして急なシュールギャグ。どこかクセになるものがあります。
四季とともに映し出されるアイスランドの雄大な自然
舞台になっているのはアイスランド。その雄大な自然を、森の中から山、平原、海、海岸線まで余すところなく、氷上の一つとして使っています。これらを眺めているだけでも良い。
作品の中で四季全てがめぐっていくのでビジュアル的にも移ろいがあって楽しめます。
厳しい天候もあれば、柔らかな日差しもある中で、繰り広げられていく家族?のドラマ。季節が変わっていく中で、男性と女性の視点の違いとか、歩む道の違いが見えています。

前を向いて進み続けるアンナと、過去に取り残されたマグヌス
家族の母親であるアンナ。彼女は生粋のアーティストであり、創造力がとめどない。そのうえで彼女一人で3人の子どもたちを世話していて、常に前を向いている。
エネルギッシュで活発なアンナは、当然夫との関係に終止符を打っていて、もはや眼中にない気もします。
そんな彼女に対して、元夫のマグヌスの情けない感じときたら。
未練たらたらで、いまだに家族としてなんとかやっていこうとたびたび家を訪ねてくるのです。彼自身はハッキリとしていないのですが、しかし、子どもたちに会いたいということよりも普通に男としてアンナに未練があるでしょう。
同じ食卓を囲んでも、もう同じ場所にはいない
彼が漁船で漁に行き、しばらく戻らないと思えば戻るたびにアンナの家に来るのです。
全員で集まっても、マグヌスだけはどことなく浮いていて、馴染もうと必死だけど残酷な時間の経過が彼と彼以外を分断する。決定的な演出ってことでもないのですが、雰囲気というか空気ですね。
このなんとなく分かる隔たりっていうものが画面に感じられてよかったです。

マグヌスの未練と、どうしようもない「男らしさ」
マグヌスはややわがままです。漁船の同僚たちとのシーンなどからも見えますが、男子って感じ。
男のセックスに対する熱意みたいなものが強くでて、車でアンナと会ったかと思えば、「いまここでしない?」ともちかける。
夫婦でもなかなかないぞ。。。
で、思い通りにいかないと、なんと彼は鶏を一羽殺してしまう。八つ当たりが過ぎる彼には、鶏のでっかい怪物が現れてついばまれ叩き殺されるシーンが。
そんな急なシュールシーンも挟みながら、マグヌスの欲求の象徴のように、動き出した兵士の甲冑に対して「女か?」と言ってキスしだす始末。
マグヌスにかかるシーンはなんというか、女性への願望に結び付くことが多いですね。男ってこういう感じでしょうもないものです。
母はわれ関せずで、子どもたちに目線を、自分のアーティストとしてのキャリアを見つめています。画廊のクソ野郎は臭わせてくるだけで何もせず、しつこいぐらいにマンスプレイニングをかましてくる。
この作品が直接的に有害な男性性とフェミニズムを描いているとは言えませんが、結果そんな風合いがあります。

大人たちが迷う一方で、子どもたちは成長していく
大人たちの様相をよそに、子どもたちが良い。
彼らは元夫婦のゴタゴタには関係なくどんどん成長する。子どもたちの存在というものがチャーミングさであり、そして否応なく進行する時間、不可逆性を象徴しているようでとても良かったです。
もう戻れない関係を、季節と芸術が映し出す
静かなアイスランドの風景が、美しい自然の柔らかさや厳しさも含めて堪能できる。スナップショットの数々のような素敵な画づくりに、奇妙な幻想シーンも織り交ぜ、もう戻れない関係を映す。
アンナが作っている芸術のように、一度会った関係性はあの錆の跡のように確かに残っている。でもそれが元に戻ることはない。
子どもたちは大きくなっていき、季節は巡る。どこかしんみりとする良い映画でした。
今回の感想はここまで。ではまた。


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