「ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男」(2017)
作品解説
- 監督:ヤヌス・メッツ
- 脚本:ロニー・サンダール
- 製作:ジョン・ノーステッド、フレドリック・ウィクストレーム・ニカストロ
- 音楽:ヴラディスラフ・ディレイ、ジョン・エクストランド、カール=ジョアン・セヴェダグ、ジョナス・ストラック
- 撮影:ニルス・タストゥム
- 編集:パー・K・キルケゴール、パー・サンドホルト
- 出演:スヴェリル・グドナソン、シャイア・ラブーフ、ステラン・スカルスガルド、ツヴァ・ノヴォトニー 他
1980年のウィンブルドン大会の決勝戦を戦った、ビヨン・ボルグとジョン・マッケンローを描く伝記映画。監督は、ヤヌス・メッツ。
ボルグはスウェーデン人俳優のスヴェリル・ドナルソンが演じています。
マッケンローを演じるのは、「トランスフォーマー」シリーズや「アメリカン・ハニー」(2016)のシャイア・ラブーフです。
また、ボルグのトレーナーとしてステラン・スカルスガルドも出演。
ちょうどこの作品はTIFFトロント国際映画祭でオープニング作品になっていて、作品名は前から聞いていたので覚えていました。
シャイアは「アメリカン・ハニー」でも素晴らしかったので彼の新作、しかもあのマッケンローを演じるときいて期待していたのです。
劇場へはファーストデイに行きましたけど、TOHO日比谷、そんなに混んでなかったですね。テニス好きな映画ファンとかはいたのでしょうか。
~あらすじ~
1980年のウィンブルドン選手権。
この大会では、世紀の対決が期待されていた。
当時ウィンブルドンを4度優勝した、ビヨン・ボルグの5連覇が騒がれていたこと、そして何より、若き新星であるジョン・マッケンローがそれを阻止して優勝することも話題だった。
ボルグは常に冷静であることから、アイス・マンと呼ばれていたが、彼の重圧は想像を超えていた。
そしてマッケンローはその態度の激しさから悪童とも呼ばれており、この大局的なプレイヤーの対決はまさに格好のネタなのだ。
静かな男と激しく熱い男、正反対に見える2人が決勝戦で対峙するまでを追う中で、それぞれの葛藤が見えてくる。
感想レビュー/考察
テニスは好きなんで、映画の題材に興味があって観てきました。
ボルグはイケメン選手だってことを知ってるくらいでしたが、マッケンローに関してはやはり彼のスタイルが印象強く、錦織圭選手と一緒にテレビに出ていたりと割りと最近の姿も覚えています。
で、今回はボルグのウィンブルドン5連覇、マッケンローの初優勝をかけた戦いだけを描く作品です。
最終決戦に向けての大会ひとつの間に、二人のテニス選手をそれぞれ伝記映画としてまとめるのですから、けっこう難しそうと思います。
しかし、監督は二人それぞれを手際よく描いていて、白熱の最終決戦までにどちらにも感情を寄せ応援できるまでにしていました。
最後の試合自体も、盛り上がるような激しいカットバックや、焦燥感を煽る音楽を入れていますが、それが機能するのも、そこまでの時間内に二人ともを、そして二人の共通点まで見事に描いているからだと思います。
タイトルでもついているように、確かにボルグは機械のようで秩序すごく執着していますね。いつも乗っている車のシートが違うだけでもかなり怒っているくらいです。
演じるスヴェリル・グドナソンは表情も変えませんが、だからこそ顔は変わっていないのに苦しみ焦る様、そして怒りまでオーラで表現しています。
ボルグの内なる感情に合わせて、雰囲気、空気を換えていて見事でした。
そして彼とは対照的に、マッケンローはメディアでもプレイでも激しく攻撃的です。
テニス選手としては正直びっくりする態度と言葉遣いですよw
シャイア・ラブーフは彼自身のお騒がせ感も相まってマッケンローとしての人格をものにしていますが、それだけではなく、勘違いされ貼られたレッテルに苦しむ青年としての苦悩が透けて見えます。
ボルグもマッケンローも回想シーンがあるのですが、マッケンローは特に辛いですね。
何も認められず、ただ辱しめられる。何かを達成したらまず誉めてほしい親が、非常に厳しいというか人として酷いというか。
テニス巧くてテストも90点以上とか超デキル子じゃん、と思ったのに、母のあの態度よ・・・
マッケンローは映画における現在でも、自身の実力に目を向けてもらえませんね。
ボルグとの関係や試合中の態度ばかりをゴシップのように掻き立てられ、彼のプレイスタイルやテニスについて触れられない。
凄まじい才能がありながらも結局は観てほしい部分以外に目を向けられてしまう。
マッケンローは外部からのレッテルに対し、自身で外部向けのペルソナを作ってしまったのでしょう。
彼の本音は、直接言えなかった”I’m sorry”に詰まっていましたね。
世間からは分かりやすいクールとアグレッシブのタイプと思われる2人の選手。
1つショービジネスのように考えられますが、彼ら二人からすると命を、生をかけた闘いです。
2人とも周囲の人間には分からない重圧を抱え、その中には彼ら個人としての葛藤もあります。
見た目に見える大変さと言うのは、あくまで外にまとわれているものであり、人としてテニスに人生を捧げる上での挑戦が芯にあるのです。
ボルグは人前で口にしませんが、マッケンローははっきりと言います。
センターコートに立たないあんたらに何がわかる。
あの場に行くまで、そしてそこですることが全てなんだ。俺たちは人生をかけてる。
最後に2人が話すシーン。
とても印象的でした。
何しろ表情を変えてこなかったボルグと、いつも怒っていて不安定そうだったマッケンローの2人が、笑顔で話しているんですから。
お互いに相手のプレーとテニスにかける人生を尊重し合う。そこでカメラは引いていて、彼らの話は聞こえません。
聞こえるわけがないんですよね。センターコートを目指しすべてを捧げ、あの場に立ち打ちあった者以外に、彼らの言葉を真に理解できる人はいないんですから。
ヤヌス・メッツ監督は、一つの大会の中で、効果的に回想を交えながら、2人の選手を描いています。
この映画を外から見れば、違うタイプの選手のぶつかり合いですが、観ていくと、本質的に似た苦悩する若者が見えてきますね。
そして、彼らの重圧や焦燥、緊張や人生をかける情熱を感じながら、キャラクターバトルの消耗ではなく、心から寄り添い応援するようになっていきます。
全てを理解はできないですが、レッテルで人を判断してはいけない。
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」に続いてテニス題材のいい映画が観れました。
おススメですね。
感想はこのくらいで。シャイアは色々言われてますが、個人的にいますごく応援してるので、色々映画出てほしいですね。では~
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