「エア」(2023)
作品概要
- 監督:アレクセイ・ゲルマン・ジュニア
- 出演:アナスタシア・タルィジナ、セルゲイ・ベズルコフ、エレーナ・リャドワ
感想/レビュー
歴史の影に埋もれてしまった女性たちを掘り起こし、彼女たちに声を与えて存在を示していく作品。
戦争映画であることからそこに容赦はなく、だからこそ非常に厳しい戦時下の環境に直面した女性たちの力強さが際立つ。
誰も楽をしていないし、平等に破壊と殺戮、喪失に向き合っていた。
そんな彼女たちに敬意を示し、感謝を伝えていく映画でした。
OPに非常に美しい上空の、雲の上の映像が流れているかと思えば、ふと戦闘機が映り込む。
幻だったかのようなその影を追い雲の下へと潜り込めば、戦闘機の空爆を受ける一般市民たちの姿が映し出されます。
親を吹き飛ばされ泣きながら立ちすくんでいる幼い子どもたちの上で、残酷な音が鳴り響く。
すごい勢いで戦争の中へと観客を放り込んだあと、登場人物が紹介されていく。
人物を把握して人を知っていく間もなく次々に皆が死んでいくのですが、今作は長い上映時間を使ってそこにともに過ごす時間と掘り込みを設け、観客が主人公ジーニャを気にかけられるようにしています。
もちろんそのスタイルが必要だったのかもしれませんが、個人的には間延びした上映時間であるようにも思えます。
何度か終わりどころを持っているような、でもそれを逃してまだ続くような。
静と動を構成の中に組み込み、その時間の長さに起伏を設けているとは思います。
しかし逆効果であった側面も。
空中戦と地上でのドラマが交互に入れてあるのですが、空中戦におけるパターンが同じな気がします。
区切りになったり切替のポイントにもなりそうなところで、間延びしている。
なんだか惜しい感じがしました。
空気圧を受けた俳優陣の表情に演技など熱がこもっていますし、たしかに見どころなんですが。
回数が多く感じてしまうくらいに似たような空中戦が多くて、むしろ地上でのジーニャや他の兵士、将校たちのドラマに集中したかったと感じます。
ドラマの部分はとても好きです。
ジーニャが立ち向かうのはドイツ兵だけでなく自軍の中にある差別や偏見、男性からの暴力もあるのです。
そうしてみれば敵とだけ戦う男性兵よりも過酷な状況に感じられました。
ジーニャがある行動を取る際、その覚悟が良かった。あそこで迷わずに。
すべてを覚えている。凄惨な記憶は焼き付く。
だが同時に美しい思い出もそこにはあります。
陽の光を浴びて並び立つみんなのショットがとても美しかったですね。
女性たちの映画であり歴史の影に埋もれてしまった犠牲を悼む映画であり、素敵な作品でした。
感想はここまで。
ではまた。
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