「バビロン」(2022)
作品概要
- 監督:デミアン・チャゼル
- 脚本:デミアン・チャゼル
- 製作:オリヴィア・ハミルトン、マーク・プラット、マット・プルーフ
- 製作総指揮:トビー・マグワイア
- 音楽:ジャスティン・ハーウィッツ
- 撮影:リヌス・サンドグレン
- 編集:トム・クロス
- 出演:マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ブラッド・ピット、ジーン・スマート、トビー・マグワイア 他
「ラ・ラ・ランド」、「ファースト・マン」などのデミアン・チャゼル監督が、喧騒の1920年代の映画界を舞台に、その後30年代の到来と時代の流れの中奮闘する映画人たちを描くドラマ。
主演は「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」などのマーゴット・ロビー、そしてTVシリーズの「ナルコス」などで活躍のディエゴ・カルバ。
またサイレント映画時代の大スターを「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などのブラッド・ピットが演じています。
その他、ジーン・スマートやトビー・マグワイア、ほんのちょっとの出番でオリヴィア・ワイルドやキャスリン・ウォーターストンなども出演しています。
デミアン・チャゼル監督の最新作として期待され、21年末には先行公開予定だったのですが、コロナのこともあり延期されてほぼ1年遅れくらいになりました。
実際作品の方は賛否両論で、意見が結構割れているという状態。
自分としてはチャゼル監督はすごい監督ですがのもすごく入れ込んでいるわけではない感じ。でも、新作なら観ないわけにはいきません。
上映時間が3時間越えでびっくりしましたが、やはり注目されているのか結構混みあっていました。
IMAXの上映もありましたが、通常版で観てきました。
~あらすじ~
1920年代後半のハリウッド。
映画人は大豪邸に集まり、狂乱のパーティに酔いしれていた。
そんなパーティで給仕として働くマヌエルはいつか映画セットで仕事することを夢見ている。
そこに駆け出しの女優であるネリーが飛び込んできた。彼女もまた大スターになることを夢見ている。
大スターであるジャック・コンラッドも様々な監督やスターと共演し活躍。時代は狂乱の中にある。
目覚ましい活躍をみせ人気の女優になったネリーと、ジャックのものとで力をつけて撮影現場を回すようになるマヌエル。
しかし、音の革命によりトーキー映画の時代が来たことが、3人の運命を変えていく。
感想/レビュー
デミアン・チャゼル監督といえば夢追い人たちの物語。そしてそこには成功もありながらいつも、夢と犠牲や切ない後味が残されています。
今作もその例には漏れない風合いの作品になっています。
大狂乱の映画界
しかし、これまでの作品群に対して決定的に異なるのは、今作の持つ狂気的な下品さでしょうか。
「ラ・ラ・ランド」的な様相でのおしゃれな、ハリウッド黄金期を描く映画だと思うと面食らうかもしれません。
初っ端から巨大な糞尿を文字通りスクリーンにぶちまけてくる作品ですからね。
しょっぱなのパーティシーンは、まさに神々の戯れ。
かなりの長回しの中でカメラがぐるぐるとダンスホールで踊り狂う人々を映し出すあまりのパワフルさ。(撮影は素晴らしきリヌス・サンドグレン(「ラ・ラ・ランド」「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」))
そこではなぜか全裸の人間がいるし、性倒錯、変態プレイ中の輩も完全に酔いが回ったやつも、そしてコカインを決めまくった連中も。
全てが狂喜の混沌に包まれています。
マーゴット・ロビーのダンス含めて、ここに何かが宿っている。映画の魔法が見えました。
まさに古代都市バビロンのように栄まくっているOPシーンから、少しの休憩というか睡眠をとっていざ第一幕の映画製作へ移っていきます。
ここでジャックの豪邸とは対照的に、ネリーのものすごく汚い仮住まいやら、レディ・フェイ・ジューの家など少し現実に戻すところがまた憎らしいですね。
ここが夢の世界であるというのを強調したうえで進んでいきます。
正直映画全体としては
- 最高におもしろい40分くらいの第一幕
- 普通な時代の変遷に飲まれるものの話である第2幕
- 割と凡庸かつ人物ドラマとしてパッとしない第3幕
という印象。
コカインキメてハイテンションで駆け抜ける
なので序盤の映画製作の、サイレント映画黄金期のコカインでブーストした、崩れまくっているようで崩れず進む映画撮影の現場のシーンがピーク的に楽しかったです。
CGのない時代、そして今のような安全規定や大型のサウンドステージがない頃。
すべてがプラクティカルで実録主義。戦争は実際にやるし、大砲も撃つ。超ハイテンションな中で繋ぎ止めるように撮影が回る。
映画作りの狂気と楽しさが堪能できます。
トーキーのサウンドステージ内での事細かな、緊張走る撮影でも、マイケル・ベイ映画並みにみんな叫んで怒鳴ってコミュニケーション。
熱量としても凄まじい序盤でした。
それに比べると2幕3幕についてはおとなしいというか。
話的には普通に感じます。
その中に1幕の時代を引きずった人物たちのコカインテンションは横たえてありますが、どちらかといえば時代に適応できない者たちの悲哀があるでしょう。
チャゼル監督はトーキーの出現で消えていった、しかしやはり映画史に偉大な功績を残した人物へラブレターを贈ります。
全編の脚本では知りすぼみ感が否めず、特に終盤にやっとオマージュや映画製作そのものではなく個人のストーリーになりますが、あまり楽しいものではなかったです。
映画の魔法が憑依したマーゴット・ロビー
しかしマーゴット・ロビーの全身全霊の演技が素晴らしい。
変わることができず、つまり誰にも媚び諂うことなくある意味で気高いネリーを、観客の心に刻み込んでいます。
トビー・マグワイアが出てくる関連のシーンについては、普通に借金取りと逃走劇になっていて、下手ではないけど普通でした。
闇の中に踊りながら消えていくネリーのショットは、舞台的にも見えますが切なく印象深いです。
1つの時代の終わりを見届けていく。夢追い人たちと次の時代に生きられなかった彼ら。
終盤のマニーが映画館へ行くシーン。パラマウントの建物前から、夢の世界にもう一度。
マニーの周りの観客は笑っている中で、マニーとともにジャックやネリーを観てきた私は、マニーと同じく静かに涙しました。
連なる実際の映画の歴史はちょっとずるいぞと思いつつ、最近のオスカーで無視されてしまった「NOPE/ノープ」を見ていれば思わず胸の熱くなるショットがあり。
誰しも永遠には輝けないのは知っていても、映画は観るたびに星を再び輝かせてくれる。
くどいハイテンションとテイストは人を選ぶ
下品さが良くも悪くも目立つ形で、過剰なテンションに疲れることもありますね。
中盤なんかをもっとタイトにしつつ上映時間を締めれば観やすかった気もします。
映画が好きな人ほどおもしろいネタも多いですが、逆に言えばサイレント映画とかトーキー時代とかを知らない層に、今作を通して触れてもらうのもいいかもしれません。
というわけで、全体に完成度が高いかといえば微妙な点や過剰さが目立つ作品ではありましたが、監督の映画愛的要素は伝わります。
マーゴット・ロビーが突き抜けているので彼女の演技目当ての鑑賞でもいいかもしれません。
感想は以上。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。
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