「黒水仙」(1947)

  • 監督:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
  • 脚本:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
  • 原作:ルーマー・ゴッデン
  • 製作:マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
  • 音楽:ブライアン・イースデイル
  • 撮影:ジャック・カーディフ
  • 編集:レジナルド・ミルズ
  • 美術:アルフレッド・ユンゲ
  • 衣装:ハイン・ヘックロス
  • 出演:デボラ・カー、キャスリーン・バイロン、ジーン・シモンズ、デヴィッド・ファーラー 他

数多くの映画を共同監督してきたマイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーによる、ルーマー・ゴッデン原作小説、デボラ・カーを主演にした作品です。

テクニカラーによる撮影作品であり、アカデミー賞とゴールデングローブ賞を撮影のジャック・カーディフが獲得。

またアカデミー賞を美術でも獲っています。デボラ・カーの演技も高い評価を受け、またシスター・ルースを演じたキャスリーン・バイロンがその存在感で多くの人の印象に残っていますね。

観たのは数年前、クラシックをまとめて色々見たときですが、これはすぐにDVDを買い、また海外のブルーレイも買ったほど惚れた映画です。

修道女であるクローダは、若くして新たな修道院開設を任される。インドのヒマラヤ奥地にある宮殿跡に、新たに修道院を作る計画なのだ。

選ばれた他の修道女と共に、修道院の開設に励むのだが、なかなか女たちだけでできることでもなく、地元のディーンという男の助けを借りる。山にも建設にも詳しい頼りになる男だ。

やっとのことで始まる新たな修道院生活であったが、ヒマラヤの山々という異国の環境は修道女たちに厳しい試練を与えるものだった。

さて、いろいろな作品でコンビを組んでいる、信頼のM・パウエルとE・プレスバーガーコンビ。

今作ではさらにいろいろな国からスタッフを集めます。そういう意味では、今作に撮影としてJ・カーディフ、そして美術にA・ユンゲを呼んだことはすばらしいのではないでしょうか。

オープニングすぐに分かる、この映画違う!という感覚。

テクニカラーの3色法を巧みに利用した撮影は、その鮮やかさと幻想的な雰囲気を持ち、これ以上なく美しいのです。ヒマラヤの山々、底に咲く花、宮殿の意匠など素晴らしく美麗です。そして光の使い方というのもこれまた秀逸なものです。

色を持った光が多くの場面で登場し、その人物の感情や幻想と現実を伝えます。

インドの山奥が舞台ですが、これがなんと全部セット撮影だというから驚き。自然に撮る素材とセットの違いによる不整合をなくすため、そして何よりここまで緻密な色と光のバランスは、スタジオセットでなければコントロールは難しいでしょう。

マット画も多く出てきますし、宮殿の遠景ショットにはミニチュアも使われるのですが、とにかく精密で繊細な出来に観ているだけで惚れてしまいますね。鐘のある断崖は壮大さも怖さも合わせて度肝を抜いてきます。

さて、その色合いや光というのは、何も綺麗な建物や自然だけを助けるものではありません。

むしろ、そういった背景と共に影響を受ける人物たちにこそうまく使われています。

黄昏や夕闇、夜の深い蒼など綺麗でありまたちょっとホラー的な印象も持たされています。同画面に赤、青、そして黄色までが鮮やかに存在する画は、これ以上なく心を掴むものでした。

光があれば影もあるわけで、今回は何かとデボラ演じるシスター・クローダを喰っている、キャスリーン・バイロンのシスター・ルース。彼女は格子から透ける光、つまりは網目の影を顔に受けつつも恨めしそうに外を凝視しています。

今作でカメラがあからさまに傾いているのも、シスター・ルースだけでした。このサイコスリラーが実に良い物なんです。

修道女たちはみな新天地であるヒマラヤの山で、新たな発見をします。

そこでは各々が知らずのうちに自らの理想を思い馳せていく。新たなる土地においては、誰しもが期待をするものです。何か自己実現ができるのではないかと。

クローダは自分が責任を持ってみんなをまとめ上げ頼られることを、ルースは縛られることからの解放、ハニーも子供を救うということに現実を受け入れず踏み込んでしまいますね。

ヒマラヤの風は常に吹き込み、物事をせわしなくかき回し動かす。

めまいのするような標高にある修道院にて、修道女たちはだんだんとその幻想に魅せられていきます。

同時に彼女たちの中にあるべき戒律と自制心にも向き合うことになり、この理想と現実の心の衝突に苦しんでいくのですね。

シスター・フィリッパがもらすように、新しい環境に向き合うことは、同時に過去の環境を振り返ることです。

引っ越したり旅行したり、違う環境に行くと以前の住んでいたところと比べたりしますよね。そしてそれが逃避行だったとしても、逆に過去を思い出すことが強調されます。

何か捨ててきたもの、幻滅して逃げたもの。そういった人生を思い出し、ほのかに取り戻せるかもしれないと感じていく。そこでさらに、サブー演じる王子と若きジーン・シモンズ演じるカンチの生き生きとした恋愛まで見せられてしまう。

今作はそこから派生し、修道女たちの物語にしてなんともエロティックな匂いが強い。そもそもこの元宮殿というのが、将軍お抱えの女たちの場所。言ってしまえば売春宿だったこともあるんですが。

これまた絶妙な色合いが性的なものを引き立たせるのですが、やはりシスター・ルースにそのエロティシズムは集約されているように思えました。ディーンの手にキスするところとかモロに。

みんな白い修道着を着ていますね。そしてあえて肌の色に近いような口紅をメイクでつけ、鮮やかさを取り払っています。そこで鮮烈なのが赤です。

シスター・ルースは真っ赤なドレスを着て、色っぽく赤い口紅をつけていきます。色がつく。彼女には色欲が現れるんですね。考えてみると、まず最初に純白の修道着に色を付けたのも彼女でした。ただしそれは不穏な赤。血の赤だったわけですが。

この妄想に憑りつかれたシスター・ルースの恐ろしさったら!いやキャスリーン・バイロンは美人ですよ。めちゃ綺麗なんです。ただあの目つき。真っ白な肌にギラギラと光る眼、そして目元や唇の赤。ワンカット挿入される目のアップ、鐘を鳴らすクローダの後ろに表れるショット。これほどにギョッとするものもないでしょう。

新天地に夢を見て、過去を振り払えずに追い詰められていく。めまいのするような美しく雄大な美術と撮影は、そのまま人物たちを圧倒し混乱させています。

理想に敗れ、クローダは去ることを決めますが、ディーンのと関係はなんとも微妙なままに、哀愁を持って終わります。最後にふと手を握るとこ、ホントに切ないです。

降りしきる雨に送られて、クローダは過去もこのヒマラヤでの出来事も連れて先へと歩んでいきます。

演技、撮影、美術など素晴らしさは絶えず。色合いも光も今でも比類なき力を持っている作品です。そのあまりに美しく幻想的な画面に、何か希望を持ちそしてこの修道女たちの心の崩壊に切なさを感じます。サイコスリラーな部分もありそれでいて味わいある最後にまとめられた作品です。

是非見てみてほしい作品。私は生涯のベストに入れている一つ。

というところで感想は終わりです。それでは、また。

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