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「レッドタートル ある島の物語」”La tortue rouge” aka “The Red Turtle”(2016)

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映画レビュー
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「レッドタートル ある島の物語」(2016)

  • 監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
  • 脚本:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット、パスカル・フェラン
  • 原作:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
  • 製作:鈴木敏夫、ヴァンサン・マラヴァル、パスカル・コシュトゥ、グレゴワール・ソルラ、ベアトリス・モーデュイ
  • 製作総指揮:ヴァレリー・シェルマン、クリストフ・ヤンコヴィッチ
  • アーティスティックプロデューサー:高畑勲
  • 音楽:ローラン・ペレス・デル・マール
  • 編集:セリーヌ・ケレピキス
  • キャラクター:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット、エマ・マッキャン、トニ・マンギュアル・リヨベット、カロリーヌ・ピオション
  • 背景:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット、ジュリアン・ドゥ・マン
  • 特殊効果:ムールド・ウシド
  • サウンドデザイン:アレクサンドル・フルーセン、セバスティアン・マルキー
  • 音響:フロリアン・ファーブル

スタジオジブリ初の海外との共同制作によるアニメーション。監督には「岸辺のふたり」(2000)でアカデミー賞短編アニメーション賞を獲得した、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。

既に2006年時点で、宮崎駿からドゥ・ヴィットへのアプローチがあったようですが、なかなか共同制作は難しく。その後鈴木敏夫から正式なオファーをし、やっと製作がスタートしたようです。

カンヌ映画祭ではある視点部門特別賞を獲得。批評家から高い評価を得ています。

日本では今、このジブリ新作もスピルバーグファンタジーも、新海誠監督の「君の名は」に喰われてしまっているようで、劇場も人が少なかったです。

そしてひとつ注意しますが、今作をいわゆるジブリ(宮崎駿的な)ものとして観に行くことはお勧めしません。フランス製のアニメーションです。

そして、一切台詞の無い映画ということから、ある程度どのような系統なのか認識して観に行く方が良いと思います。

子供はポカンとして、カップルは寝ていた。そんな感じです。

荒れ狂う嵐の海、男が一人もがいていた。

彼は島へと流れ着く。そこには誰もいない。男はイカダを組み島から出ていこうとするのだが、毎回何かによってイカダを壊されてしまう。

そして再び挑戦した時、男の前に大きな赤いウミガメが現れた。

始まるときのスタジオジブリロゴ、いつもは青いのに今回は真っ赤ですね。タイトルの色でもありつつ、ジブリだけどカラーが違うよって合図でもあるんでしょう。真っ赤な画面のトトロって新鮮です。

アニメーション作品としての質感は、懐かしいような何か手触りのあるようなものです。デジタルでなく手書きのような。

色合いや重なりが非常に美しく、贅沢なものですね。この映像を見るというだけで、なにかアニメーション体験として特別であると言える作品。

日の光は輝き、夕陽は美しい。私は夜の月明かりのみに包まれた、モノクロな画面が特に好きでした。

木々や草、水や岩場など、世界が非常に上質で緻密な作品である中で、主人公となる男のシンプルな造形も面白いものです。キャラクターは描きこみもなく、かなり単純で記号的です。

簡易的に書いたような、個性の無い男。そしてこの男には戻りたい世界はあるものの、それがなんなのか、家族や仕事、人生などは見えてこないのです。

少しだけオーケストラが出てくることはありますが、彼は空っぽの容器のような存在です。

そしてその中には、観客が自分自身を注ぎ込んでいけます。用意されたシンプルな男に自分を入れ込み、この美しい自然背景の中で生きようともがいていくわけですね。

この島には多くの生命がいます。

男は自分の生きる環境への帰還を目指しますが、それでもしばらくはやはり島の環境のお世話になるんです。水を飲み木の実や魚を食べ。

タイトルである赤いカメが何を思ってか男を島へと戻す。男はだんだんとこの島こそを自分の生きる環境にしていきます。

前述の通りに、観客はこの入れ物のような男に自身を重ねることができるので、自分自身がこの島で暮らし始める感覚を持ちますね。

男の生が別の生をもたらす。今作ではコミックリリーフとしての役割を担っているカニたち。彼らはかわいい動きをしつつ、それでいて雄弁に生を語っていますね。

ウミガメは大海原へ必死の生を追求しますが、そこで挫折した一匹がカニに連れられていく。その死は、カニにとっての生へとつながっていく。

アザラシは息絶えた、しかし、その皮は家族を守る衣になるのです。

男の方はカメによって彼自身の環境を展開していくことに。彼が死をもたらしてしまったであろうカメは胸が裂けてしまった。

そしてそこから出てきた女性には、彼は同じく胸元の裂けた、自らの服を与えます。

2人の間には子供まで生まれ彼の成長まで見ることができます。

ここにきて、新たな環境で生きていくことだけでなく、小さなものが大きく成長していく姿まで、今作は見せてくれます。とにかく、生きることにあふれていますね。

父、母は出自を描き出す。どこから自分がやってきたのか。息子はここで生まれた。それでは彼はどこへ行くのだろうか?

幻想的な画の数々。静止しつつ動いているという波。波を止まって捉えるというのはまさに写真であり、それでいて水としての動きを持っているというのは、やはり映像。こんなものが観れるとは。

恐ろしい死をもたらし、やはり絶大な力を持つ自然。

しかし死に関しては今作、あまりスリルを持たせるスタイルではないと思いました。音楽も盛り上げたりとかしてませんし。

序盤で一番死に近づいた、岩場の穴。男は壁を登れず、体がつかえそうな狭い通路を抜ける。息子にも同じ試練が待ち構えるのですが、死の恐怖よりも生き抜くたくましさがより感じられるものです。

ファンタジックな画面描写を通して、自然と生命を純粋に伝える本作。不純物を取り除き、削って削ってダイレクトな作りで生きることを見せてきます。

生とはかくもシンプルで、それでいて色彩に富んだもの。

誰かの生は別の誰かの生に。そして誰かの死も、別の誰かの命につながっている。

その計り知れない大きなサイクルを持ち私たちを包む自然の、なんと美しいことでしょう。

サバイバル、愛、成長と旅立ち。壮大で優しい自然への感謝と生命の美しさを讃え、今作は純粋な状態にできるだけ近づけることで、全く新鮮でありながら古典。

太古の昔から私たちの中で流れ続けてきたような作品です。

どういった評価がなされているかは知りませんが、すくなくとも現状では厳しい立場にいるアニメです。

しかしこれほどに贅沢で豊かなアニメーションを見逃すのはあまりに惜しいことに思えます。音楽や音響、画面の美しさなどやはり劇場で観てほしいですね。かなりお勧めです。

ということで、ジブリからの純アニメでした。それでは、また。

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